HOKUTO編集部
12日前
PARP阻害薬であるオラパリブは、 BRCA1またはBRCA2変異を有する去勢抵抗性前立腺がん (CRPC) で有効性が示されている。 オラパリブを使用する際はこれらの遺伝子変異の確認が必要であるため、 BRCA変異は治療選択に直結する重要なバイオマーカーである。
これは、 BRCA変異を有するCRPC患者において、 オラパリブの有効性が臨床試験 (PROfound試験) で示されており¹⁾、 保険上もBRCA1/2変異の存在がPARP阻害薬の適用条件となっているためである。
BRCA変異にはさまざまな種類があるが、 特に注目すべきは遺伝子のコピー数異常の変異、 すなわちコピー数欠失 (BRCA loss) である。 これは単一の塩基が変化する点変異に比べて検出が難しく、 使用する検査の種類によっては見逃されるリスクがある。
BRCA lossはCRPCの3.1%に認められ、 他のBRCA変異よりもPARP阻害薬の治療効果が高いことが報告されている²⁾。 自験例でも、 CRPC症例の9/192例 (4.7%)でBRCA2 lossが検出された。 また、 PARP阻害薬の効果を確認できた3例全例でPSAが大幅に低下し、 1年以上の奏効期間を得ている。
現在保険適用されている遺伝子パネル検査 (CGP) の中で、 コピー数欠失を検出対象としているのがFoundationOne® (FOne) とFoundationOne® Liquid (F1L) である。
これらの検査は、 次世代シーケンサーによる大量の配列データにおけるカバレッジ (読み取り深度) のばらつきや、 ゲノム上の多数のSNP (一塩基多型) 情報を用いた独自のアルゴリズムにより、 コピー数欠失を高精度に検出できるように設計されている。
FOneは組織検体を、 F1Lは血液検体を用いる。 国内外で広く使用されており、 実臨床での使用実績も豊富である。
国内では、 Guardant360® CDx (G360) やOncoGuide™ NCCオンコパネルシステム、 GenMineTOP (GMT) も、 CGPとして保険適用されている。
G360は血液検体 (血漿) 専用であり、 NCCオンコパネル、 GMTは組織検体と血液 (末梢血単核球) を用いて体細胞変異と生殖細胞変異を同時に解析できる点が特徴である。
しかし、 PARP阻害薬の適応判断で重要となる"BRCA lossの検出"という観点で考えると、 これらのCGPはコピー数欠失が検出対象外である。 そのため、 現時点ではCRPCの実臨床での使用は推奨できない。
下図に示す自施設での使用実績を見ても、 CRPCに対するCGPとしてはFOne (64%) またはF1L (33%) が大半を占めており、 G360 (2%) やNCCオンコパネル (1%) はほとんど使用されていない。
補足 : BRACAnalysis® CDx について
BRACAnalysis® CDxは、 オラパリブのコンパニオン診断 (CDx) として承認・保険適用されている遺伝子検査である。
この検査は、 生殖細胞系列*¹の BRCA1/2変異のみを検出対象としており、 体細胞変異*²は検出できない。
CRPCでは、 BRCA変異の50%は体細胞変異である。 そのため、 生殖細胞系列のみの検索では不十分であり、 体細胞変異を対象とするCGP検査は必須であると考えられる。
組織検体のみを使用するFOneでも、 体細胞変異と生殖細胞系列変異の両方を検出可能であるが、 どちらの系列の変異かを判別・確定することはできない。
CRPCの治療戦略を検討する上で、 BRCA lossを検出することは非常に重要である。 BRCA lossは体細胞変異である頻度が高いため、 体細胞変異の情報も得られるFOne/F1LによるCGP検査は必須であると考えられる。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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