全身性強皮症診療GL2025改訂の要点③SScにおける間質性肺疾患の治療戦略は?
著者

亀田総合病院

3ヶ月前

全身性強皮症診療GL2025改訂の要点③SScにおける間質性肺疾患の治療戦略は?

全身性強皮症診療GL2025改訂の要点③SScにおける間質性肺疾患の治療戦略は?
2025年1月、『全身性強皮症診療ガイドライン2025年版¹⁾』 (編 : 厚労科研費事業強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン・疾患レジストリに関する研究班 / 協力 : 日本小児リウマチ学会、 日本皮膚科学会、 日本リウマチ学会) が発行されました。 前版からの主な改訂点を全3回 (皮膚・腎・肺) に分けて解説する本企画の第3回は、 SScにおける間質性肺疾患の診療アルゴリズムから重要なポイントをお伝えします (解説 : 亀田総合病院リウマチ・膠原病・アレルギー内科 小田修宏氏)。

📖 第1回 (皮膚) の解説記事はこちら

📖 第2回 (腎) の解説記事はこちら

はじめに

『全身性強皮症診療ガイドライン2025年版』 (以下、 2025年版) は厚労省強皮症調査研究班が中心となってまとめたもので、 2004年に初めて策定され、 その後数回の改訂を経て今回2025年版が公表された。 2025年版では 「皮膚」 「肺」 「消化管」 「腎」 「心臓」 「肺高血圧症」 「血管」 「骨病変」 「リハビリテーション」 「小児」 の10項目についてクリニカル・クエスチョン (CQ) に基づくフローチャートを作成し、 臨床現場で簡便に参照できるように改訂された。 本稿では肺病変について解説する。

SSc-ILD診療の概要

治療の目標は状態安定化と進行遅延

2025年版では、 全身性強皮症における間質性肺疾患(SSc-ILD)の治療適応および目標について 「状態の安定化あるいは進行の遅延」 とされている。 これは、 SSc-ILDにおいて一度進行した線維化プロセスは元に戻すことができないという背景に由来している。

特にSSc-ILDは全身性強皮症 (SSc) 発症後4年以内に進行することが多く、 その後は無治療でも多くの症例で進行は緩徐化するため、 適切な時期(進行期)にSSc-ILDの治療を開始することが重要である。

そのうえで、 SSc-ILDに対する診療アルゴリズムは、 『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2020²⁾』(編 : 日本呼吸器学会/日本リウマチ学会)を踏襲し、 一部改訂されたものになっている。

SSc診断時のILDスクリーニングは必要?評価すべき項目は?

全身性強皮症診療GL2025改訂の要点③SScにおける間質性肺疾患の治療戦略は?
全身性強皮症診療GL2025改訂の要点③SScにおける間質性肺疾患の治療戦略は?

SScの診断時において、 胸部高分解能CT (HRCT) を用いたSSc-ILDスクリーニングが推奨されている。

一方、 SSc診断時にILDを認めなかった症例に関しては経過中のILD出現頻度が高くなく、 被曝のリスクもあることから、 定期的なHRCTスクリーニングは推奨されていない。 以下のような侵襲度の低い検査を優先し、 これらの評価で悪化がみられた場合にHRCTを撮像することが提案されている。

  • 聴診所見
  • 患者報告アウトカム
  • 呼吸機能検査
  • 胸部単純X線写真

など

ただし、 びまん皮膚硬化型SScの早期(非レイノー現象症状の発症から5年以内)、 抗トポイソメラーゼⅠ抗体陽性などの複数のILDリスクを有する場合には1年以上の間隔をあけてHRCTの撮像を考慮してもよい、 とされている。

SSc-ILDの治療適応は?

治療適応において、 まずは上述したHRCTと呼吸機能検査より、 病態を 「Limited disease」 と 「Extensive disease」 に大別する³⁾。

▼(参考) Limited Disease / Extensive Diseaseの分類³⁾
【Limited Disease】
HRCTでの間質性変化の病変範囲<20%、 またはHRCT所見がindeterminate (20%より多いか少ないか不確定) でFVC≧70%
【Extensive Disease】
HRCTでの間質性変化の病変範囲>20%、 またはHRCT所見がindeterminate (20%より多いか少ないか不確定) でFVC<70%

Limited diseaseの治療方針

Limited diseaseでILD進展予測の高リスク群*に対しては、 薬物治療が推奨される。 Limited diseaseでILD進展予測の低リスク群には、 3~12ヵ月ごとのILD進行評価を行い、 進行した場合に薬物治療が推奨される。

*病型、 罹患期間、 関節炎、 呼吸機能指標、 胸部HRCT、 6分間歩行後の酸素飽和度、 CRP、 KL-6などから総合的に判断。 B.SSc-ILD進行リスク因子も参照

なお、 ILDの進行評価に関してはOMERACTワーキンググループ基準⁴⁾やINBUILD組み入れ基準のPF-ILD⁵⁾、 Erice ILDワーキンググループのPF-ILD⁶⁾も参考にすることが提唱されている。

全身性強皮症診療GL2025改訂の要点③SScにおける間質性肺疾患の治療戦略は?

Extensive diseaseの治療方針

Extensive diseaseでは高度呼吸機能低下*がない群に対して薬物治療が推奨される。

高度呼吸機能低下のあるExtensive diseaseでは肺移植の適応を検討、 移植適応がない場合や待機中の場合にリスクベネフィットを勘案の上、 治療薬の使用を検討することとされている。 また治療に関わらず進行する場合には自家末梢血造血幹細胞移植も考慮される。

**目安として努力肺活量 (FVC) <50%、 DLco<40%、 継続的な酸素療法の適応

具体的に推奨される治療は?

全身性強皮症診療GL2025改訂の要点③SScにおける間質性肺疾患の治療戦略は?

1次治療ではシクロホスファミドなど5種の中から単剤使用を推奨

ファーストライン治療として、 以下5種の薬剤が推奨されている。

全身性強皮症診療GL2025改訂の要点③SScにおける間質性肺疾患の治療戦略は?

これら5種の薬剤はすべてSSc-ILDに対する無作為化比較試験が実施され、 24週~2年間の観察期間で努力肺活量 (FVC) 低下の抑制作用を示した薬剤である。 各試験の組入基準などが異なるため治療薬の順位付けは行っておらず、 個々の症例で判断することが推奨されている。

また、 各試験でチロシンキナーゼ阻害薬ニンテダニブ以外は併用薬の使用が禁止されていたことに起因し、 現時点で初期併用用療法を支持するエビデンスはないことから、 原則として単剤による治療が推奨されている。

なお、 ステロイドは有効性に関して否定的な報告が多く、 免疫抑制薬との併用で効果が増強される可能性はあるが、 有効性に関する介入試験は実施されていないなどの記載にとどまっている。

進行ILDにはスイッチや追加併用も検討

全身性強皮症診療GL2025改訂の要点③SScにおける間質性肺疾患の治療戦略は?

ファーストライン治療でも進行するILDに対しては、 未使用薬へのスイッチや追加併用、 自家末梢血造血幹細胞移植、 肺移植登録が提案されている。

また胚移植の適応外、 移植待機中の高度呼吸機能低下例に対する薬物療法に関しては、 多くの臨床試験で除外されていることもありエビデンスはほとんどない。 特に免疫抑制薬は、 その使用によりかえって感染リスクおよび死亡リスクが高める懸念から、 リスク・ベネフィットの観点で推奨すべきでないとされてきた。

ニンテダニブに関しては、 ベネフィットがある可能性はあるものの、 やはり現時点でエビデンスはない。 さらにVEGFシグナル阻害による血管脆弱性や肺高血圧症発症や増悪の懸念もあり。 慎重な判断が必要とされている。

解説医師

全身性強皮症診療GL2025改訂の要点③SScにおける間質性肺疾患の治療戦略は?

出典

¹⁾ 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン・疾患レジストリに関する研究班編 : 全身性強皮症診療ガイドライン2025年版. 2025. 金原出版

²⁾ 日本呼吸器学会/日本リウマチ学会編 : 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2020.2020.メディカルレビュー

³⁾ Am J Respir Crit Care Med. 2008 Jun 1;177(11):1248-54.

⁴⁾ J Rheumatol. 2015 Nov;42(11):2168-71.

⁵⁾ N Engl J Med. 2019 Oct 31;381(18):1718-1727

⁶⁾ PLoS One. 2016 Oct 5;11(10):e0163894.

ポストのGif画像
全身性強皮症診療GL2025改訂の要点③SScにおける間質性肺疾患の治療戦略は?の全コンテンツは、医師会員限定でアプリからご利用いただけます*。
*一部のコンテンツは非医師会員もご利用いただけます
臨床支援アプリHOKUTOをダウンロードしてご覧ください。
今すぐ無料ダウンロード!
こちらの記事の監修医師
こちらの記事の監修医師
HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

監修・協力医一覧
QRコードから
アプリを
ダウンロード!
全身性強皮症診療GL2025改訂の要点③SScにおける間質性肺疾患の治療戦略は?