HOKUTO編集部
4ヶ月前

2025年10月に欧州臨床腫瘍学会 (ESMO 2025) がドイツ・ベルリンで開催されました。 今回、 肝胆膵領域に関する発表演題の中では、 直ちに日常診療を大きく変えるような発表は少なかったものの、 KRAS阻害薬、 抗体薬物複合体(ADC)、 そして放射性リガンド療法と、 数年後には確実に肝胆膵領域の診療を変えるであろう発表が多く、 新たな時代の到来を感じさせるものが多くみられました。 国立がん研究センター東病院肝胆膵内科医長の今岡大先生に、 注目の3演題を紹介いただきます。

KRAS G12C阻害薬ソトラシブの登場以降、 さまざまなKRAS阻害薬の候補が登場していますが、 ESMO 2025では膵癌で最も頻度の高いKRAS G12D変異に対する阻害薬について、 早期相試験の結果とはいえ有望な成績が報告され、 注目を集めていました。
その中でも今回取り上げるのは 「HRS-4642」 であり、 進行膵癌に対する同薬とゲムシタビン+ナブパクリタキセルとの併用における治療成績が報告されています。
主要評価項目である奏効割合は63.3%、 無増悪生存期間 (PFS) 中央値および全生存期間 (OS) 中央値は未達という結果でした。 有害事象としては、 白血球減少をはじめとした血液毒性が主体のようです。
他のKRAS阻害薬も含め、 開発の流れは細胞傷害性抗癌薬との併用に移ることが予想されます。 今後も引き続きその動向に注目です。
乳癌、 肺癌などでは現在、 抗体と細胞傷害性抗癌薬を組み合わせたADCの開発が盛んで、 抗HER2 ADCであるトラスツズマブ デルクステカンのように、 既に臨床で用いられている薬剤も存在します。
「ABBV-400」 は、 膵癌に高頻度で発現するc-METに抗体部分が結合し、 c-METとともに細胞内へ取り込まれた後、 リソソームで分解され、 ADCに搭載されたトポイソメラーゼI阻害薬が細胞内で遊離する薬剤です。
今回報告された第I相試験は膵癌の2次治療における患者を対象としており、 奏効割合 (ORR) は23.8%でした。 特に1ライン目がゲムシタビン+ナブパクリタキセルだった症例では、 ORRは40.0%と良好な結果を示しました。
ただし、 イリノテカン既治療例(FOLFIRINOX[5-FU、 レボホリナート、 イリノテカン、 オキサリプラチン]療法後)では、 既にトポイソメラーゼI阻害薬であるイリノテカンが用いられていることもあり、 ORRは15.4%に留まっています。
今後は他剤との併用療法での開発も進む見込みで、 KRAS阻害薬とともに膵癌治療を大きく変える可能性があります。
神経内分泌腫瘍 (NET) の領域では、 ソマトスタチン受容体陽性を示すGrade 1–2の膵・消化管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)を対象に、 放射性リガンド療法177Lu-edotreotideの有用性をmTOR阻害薬エベロリムスと比較検証する第III相試験COMPETEの結果が報告されました。
主要評価項目である中央判定によるPFS中央値は、 177Lu-edotreotide群が23.9ヵ月であり、 エベロリムス群の14.1ヵ月に比べ有用性が示されました(HR 0.67、 p=0.022)。
日本では既に177Lu-DOTATATEが承認されていますが、 177Lu-edotreotideは同じβ線核種である177Luを用い、 リガンド部分の構造がわずかに異なるのみ(177Lu-DOTATATEではTATEであるのに対し、 177Lu-edotreotideではTOC)であり、 類似した薬剤と考えてよいでしょう。
ある意味、 予想された結果ではありますが、 NETに対しては他にも第II相試験でより強力なα線核種を用いた212Pb-DOTAMTATEが有望な結果を示すなど、 治療開発の流れは放射性リガンド療法が主役と言って差し支えないでしょう。
今回のESMO 2025において、 肝胆膵領域での最大のトピックスはやはりKRAS阻害薬に尽きるでしょう。 膵癌で最も頻度の高いKRAS G12D変異は、 新薬の候補となる低分子化合物が共有結合できるポケットがなく、 治療開発が難しいのではないかと言われてきました。
しかし、 AIの進歩によってタンパク質の構造予測や設計が行えるようになったことからさまざまな候補薬剤が登場し、 各社が開発にしのぎを削っています。 さらに、 KRAS阻害薬も 「単剤から併用療法へ」、 治療ラインも 「標準治療終了後から1次治療へ」 と、 その開発ターゲットを広げてきており、 今後もその動向から目が離せません。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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