【解説】嚥下障害のマネジメント (最新ガイドライン2024年版より)
著者

HOKUTO編集部

4日前

【解説】嚥下障害のマネジメント (最新ガイドライン2024年版より)

2024年9月に 「嚥下障害診療ガイドライン2024年版 (第4版)」 が日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会より発刊された。 ガイドラインや最新の知見を基に、 嚥下障害のマネジメントについて概説する。 

1. 問診のポイント

嚥下障害が疑われる際は、 以下の問診を行う。

症状の程度

固形物もしくは液体でむせるか、 進行有無

経口摂取の状況* (食事形態、 摂食時間、 補助栄養や介助要否など)、 体重減少の有無など (急激に減少していないか)

*参考指標 : Functional Oral Intake Scale (FOIS)

日常行動・生活様式 (ADL)

生活の場や家族構成、 介護保険申請の有無

既往歴

特に脳血管障害、 神経筋疾患、 頭頸部疾患 (手術歴・放射線治療歴)、 誤嚥性肺炎など

内服薬

嚥下障害の原因とその薬剤は以下のとおり。

- 錐体外路徴候

 抗精神病薬、 消化管運動改善薬など

- 過鎮静

 抗精神病薬、 抗不安薬、 抗ヒスタミン薬など

- 口腔乾燥

 抗コリン薬、 利尿薬、 オピオイドなど

- 食道粘膜の障害

 抗菌薬、 NSAIDs、 ステロイドなど

- 下部食道括約筋圧の低下

 抗コリン薬、 気管支拡張薬、 Ca拮抗薬など

嚥下障害スクリーニングテスト

スクリーニングとしては以下が知られている。

- EAT-10スコア

  Eating Assessment Tool

- SDQ

  Swallowing Disturbance Questionnaire

- DHI

  Deglution Handicap Index

- SWAL-QOL、 SWAL-CARE

  Quality of life in swallowing disorders

- 聖隷式嚥下質問紙

意識レベルや認知機能の評価

- Glasgow coma scale (GCS)

- Japan coma scale (JCS)

- 改訂長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R)

- Mini-mental State Examination (MMSE)

2. 診察

診察時のチェックポイントを以下に示す。

顔面

  • 顔貌
仮面様、 筋無力性など
  • 顔面の運動性
前額の皺寄せ、 閉眼、 閉口、 鼻唇溝の動きで左右差を評価
  • 顔面の感覚
鼓索神経 : 舌の前方2/3の味覚を支配
顔面神経 : 耳介後方部、 外耳道の一部の感覚を支配

口腔・咽頭

  • 開口量、 咬合
開口量は指の幅 (単位 : 横指) で評価
  • 歯牙・歯肉の状態、 唾液分泌、 口腔衛生状態
唾液分泌は口腔乾燥や唾液貯留を確認
  • 舌運動、 舌萎縮
舌運動は可動性、 左右差、 不随意運動などを評価
  • 口腔内の食物処理
咀嚼可能かどうかを確認
  • 咽頭の運動
軟口蓋挙上の程度・左右差、 カーテン徴候など
  • 咽頭の感覚
左右差を確認
  • 咽頭反射

頸部・体幹

  • 嚥下時の喉頭運動
  • 頸部の可動域
前屈、 後屈、 回旋、 側屈
  • 頸部筋群の緊張・筋力低下
  • 気管切開
気管カニューレの種類、 カフの有無、 カフ上吸引チューブの有無など
  • 体幹機能
座位の状態、 座位耐久性、 座位バランス

発声

  • 開鼻声の有無 
開鼻声 : 鼻咽腔閉鎖機能不全による母音の共鳴異常。 「鼻にかかったような声」 になる。 「パ行がマ行に聞こえる」 が典型例。
  • 湿性嗄声の有無
湿性嗄声 : 湿り気を帯びたゴロゴロ・ゼロゼロした声。

3. 検査

嚥下障害診断時に行われる検査を以下に示す。

血中酸素飽和度 (SpO2)

その他の検査実施時にも、 連続してモニタリングを行うことが推奨される。

呼吸機能評価

呼吸音の聴診、 咳嗽・喀痰の状態も評価する。

反復唾液嚥下テスト

患者の喉頭隆起および舌骨に検者の指をあて、 30秒間に空嚥下できる回数を計測する。

30秒間に3回未満の場合を陽性 (嚥下障害あり)と評価する。

改訂水飲みテスト

3mLの冷水を口腔底に注ぎ、 嚥下動作を2回行う。 むせ込みの有無、 呼吸状態の変化、 声の変化を確認する。

評価点が4点以上であれば、 最大2回テストを行い、 最も悪いものを評価点とする。

評価基準

1) 嚥下なし、 むせる and/or 呼吸切迫

2) 嚥下あり、 呼吸切迫

3) 嚥下あり、 呼吸良好、 むせる and/or 湿性嗄声

4) 嚥下あり、 呼吸良好、 むせなし

5) 上記4)に加え、 反復嚥下が30秒以内に2回可能

Mann Assessment of Swallowing Ability (MASA)

意識レベルや呼吸状態、 食塊のクリアランス (口腔内残留) や口腔通過時間など24項目を点数化して評価する。

Gugging Swallowing Screen (GUSS)

覚醒状態や咳払い、 唾液嚥下といった予備テストと、 半固形・液体・固形の食塊の嚥下テストを点数化し、 食形態を提案する。

フードテスト

ティースプーン一杯のプリン(約4g)を嚥下してもらい、 嚥下後に口腔内を観察し、 残留の有無・位置・量を確認する。

嚥下内視鏡検査

- 兵頭スコア

- 嚥下造影検査

- 嚥下圧検査 (マノメトリー検査)

4. 対応

嚥下障害と判明した際の対応を以下に示す。

食事形態の工夫

液体の場合 : とろみをつける

固体の場合 : ばらけやすい刻みを避ける など

食事の姿勢調整

体幹や上肢・下肢などの部分および全体を総合的に見たうえで、 安定した姿勢を保つ。

嚥下訓練

間接訓練 (基礎訓練)

  • 嚥下体操
  • 頸部可動域訓練
  • 氷を用いた訓練 (氷なめ訓練)
  • 頭部挙上訓練
  • ブローイング訓練
  • プッシング訓練 など

直接訓練 (摂食訓練)

  • 頸部回旋嚥下 (横向き嚥下)
  • 交互嚥下
  • 顎引き嚥下
  • 鼻つまみ嚥下
  • 複数回嚥下 など

外科的治療

  • 嚥下機能改善手術
  • 誤嚥防止手術

専門機関への紹介

リハビリテーションや外科的治療が目的

積極的な治療の適応外

  • 嚥下障害の検査や治療が行えない
  • 患者・家族に経口摂取の希望・意欲がない
  • 十分に説明しても、 患者および家族が誤嚥のリスクを受け入れられない

ただし、 経口摂取が困難な状況でも、 誤嚥のリスク評価が前進管理および方針決定に寄与することがある。 適切な状況把握および情報共有に努める。

また、 全身状態や意識レベルの変化・改善により積極的な治療が可能となることもある。 関係各所と情報共有を行い、 必要に応じて再評価・対応方針の見直しを行う。


<資料>
・日本耳鼻咽喉科学会 : 嚥下障害診療ガイドライン2024年版.
・Up to Date, Oropharyngeal dysphagia: Etiology and pathogenesis.
・日本摂食嚥下リハビリテーション学会 : 摂食嚥下障害の評価 2019.
・日本耳鼻咽喉科学会 : 嚥下障害診療ガイドライン2024年版.
・日本摂食嚥下リハビリテーション学会 : 訓練法のまとめ (2014版) 
・日本摂食嚥下リハビリテーション学会 : 嚥下内視鏡検査の手順 2021 改訂.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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