人工関節感染症への経口抗菌薬治療 : フランスの多施設共同試験で低い治療失敗率
著者

メイヨークリニック感染症科 松尾貴公

13日前

人工関節感染症への経口抗菌薬治療 : フランスの多施設共同試験で低い治療失敗率

Prosthetic joint infections: 6 weeks of oral antibiotics results in a low failure rate

J Antimicrob Chemother. 2024 Feb 1;79(2):327-333. PMID: 38113529.
人工関節感染症への経口抗菌薬治療 : フランスの多施設共同試験で低い治療失敗率

研究デザインと研究対象

  • 2017年1月~2021年6月にフランスの13施設で管理された成人のPJI患者を対象とした、 後ろ向きコホート研究である。
  • 経口抗菌薬療法は、 手術後3日以内の静脈内投与が行われ、 その後経口薬に切り替えられたケース、 または完全に経口薬のみで治療されたケースと定義された。
  • 手術および抗菌薬治療の経過、 治療失敗 (臨床的・微生物学的再発) が、 24ヵ月間のフォローアップで評価された。

主な結果

  • 主な感染部位は股関節 (50%) および膝関節 (35%) であり、 慢性PJIは70例 (41%) であった。
  • 単菌種感染症では、 黄色ブドウ球菌 (Staphylococcus spp.) が最も一般的で60%を占め、 26%はMRSA株であった。
  • Debridement, antibiotics and implant retention (DAIR) は131例 (76%) に実施された。
  • 経口抗菌薬治療を受けた76例の患者では、 7例 (9%) に治療失敗がみられたが、 長期の静脈内治療を受けた患者 (96例) では15例 (16%) に治療失敗がみられた。
  • 治療失敗の独立したリスク因子は、 膝関節の感染 (調整オッズ比 : 3.27) と多菌種感染 (調整オッズ比 : 4.09) であった。

人工関節感染症への経口抗菌薬治療 : フランスの多施設共同試験で低い治療失敗率

人工関節感染症の治療において、 6週間の経口抗菌薬治療で低い治療失敗率を示したフランスからの多施設研究です。 本研究は、 経口抗菌薬の使用が可能な場合、 静脈内投与の期間を最小限に抑えることができる可能性を示しています。

本研究の結果は、 最近のNEJMからの人工関節感染症に対する6週間と12週間の抗菌療法を比較したオープンラベル無作為化対照試験における、 治療失敗率がそれぞれ18.1%と8.7%と差があった結果¹⁾と異なるものでした。

静脈注射の抗菌薬の有害事象を考慮し、 可能な限り早期に経口抗菌薬へ切り替える治療戦略は他の多くの感染症で支持されてきていますが、 今回のコホートではおよそ半数例が3日以内に経口抗菌薬に切り替えていることが注目すべき点です。

さらに本研究では、 人工関節を抜去・再置換せずに人工物を温存して洗浄と抗菌薬のみで治療を行うDebridement, antibiotics and implant retention (DAIR) が大部分を占めていますが、 これらの症例に対する長期の経口抗菌薬治療 (chronic suppression) の実施が非常に少ないのも特徴的です。

*24ヵ月以上は4例のみ

DAIRに対するchronic suppressionは現在多くの国や地域で議論の的であり、 長期の抗菌薬継続が必要 (場合によっては一生涯) であるという意見と、 短期で中止した後に臨床経過を十分に判断しながら経過をフォローする意見と2つ分かれています。

今回の研究の結果を受けて、 今後の更なるランダム化比較試験や対象例を増やしたコホート研究が期待されます。

<出典>
1) N Engl J Med. 2021 May 27;384(21):1991-2001.

監修医師 : 松尾 貴公先生
2011年 長崎大学医学部卒業、 聖路加国際病院初期研修・内科専門研修・内科チーフレジデント・感染症科フェロー・医員を経て2021年 テキサス大学ヒューストン校/MDアンダーソンがんセンターにて臨床留学。 2022年 同チーフフェロー、 2023年 同アドバンストフェロー、 2024年よりメイヨークリニック感染症科の整形外科感染症フェローとして骨関節感染症に特化したトレーニングを行い更なる研鑽を積んでいる。 また、 日本チーフレジデント協会 (JACRA) 世話人を経て、 現在日本感染症教育研究会 (IDATEN) KANSEN JOURNAL編集委員・米国感染症学会 (IDSA) 感染症教育推進委員。 2024年2月よりFebrile Podcast ID Digital Institute (IDDI)のメンバーも務めており、 デジタルデバイスを活用した新しい感染症教育に積極的に取り組んでいる。
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