HOKUTO編集部
1ヶ月前
東京女子医科大学病院が生まれ変わりつつある。 旧体制を一新した同院が目指すものは、 職員誰もが意見を言える、 風通しの良い組織。 高い専門性と診療レベルの維持に向けた研修環境の整備や、 横断的な組織構築のためのワーキンググループの始動などが進められている。 新体制が目指す姿や具体的な取り組みについて、 同院の新病院長/精神医学教授の西村勝治氏、 新副院長/肝胆膵外科教授の本田五郎氏、 新副院長/乳腺外科教授の明石定子氏に話を聞いた。
―東京女子医科大学病院が新たな体制に移行した経緯を教えてください
西村氏 :
旧体制下では、 元理事長の 「一強」 体制によって病院や大学医学部全体のガバナンスが機能しなくなっていました。 結果として、 職員の大量離職、 患者数の減少など深刻な事態を招き、 社会からの信頼が大きく損なわれました。 2024年8月に第三者委員会による調査報告が公表され、 抜本的な改革を求められたことを受けて、 2024年11月から12月にかけて理事会の役員が刷新され、 理事長や学長、 3病院の病院長が新たに選任されました。 私も院長に就任しました。
また、 新体制への移行に伴い当院のミッション・ビジョン・バリューも新たに策定しました。 これは、 職員に広く意見を募りながら皆で作り上げたものです。 当院はこれを皮切りに旧体制から脱却し、 職員皆で変革を進められる組織文化へと変わりつつあります。
―新体制下で、 どのような病院を目指しているのでしょうか
西村氏 :
院長に就任した際、 新体制において何よりも必要であるものは 「倫理的リーダーシップ」 だと考えました。 旧体制では、 人よりも収支が最優先され、 職員を大切にする視点が欠けていると感じていたからです。 当時、 自由に自らの意見を伝えたり、 異論を唱えたりすることができない雰囲気が蔓延しており、 いわゆる 「心理的安全性」 が確保されていない環境だったと言えます。
私は、 この心理的安全性こそが再生へのキーワードだと考えました。 職員一人ひとりの価値観を尊重し、 職員の権利や尊厳を大切にしなければ病院は元気を取り戻せず、 質の高い医療サービスを十分に提供することができません。 「病院内からの信頼回復」 が最優先であり、 それは結果的に 「病院外からの信頼回復」 につながると信じています。 職員が安心して元気に働けるような環境を整えることを何よりも重視し、 変革を進めてきました。
―具体的な取り組みについても教えてください
西村氏 :
現在は、 主に2つの観点で取り組みを進めています。 1つ目が高い専門性と診療レベルを維持すること、 2つ目が多診療科・多職種が有機的につながる横断的組織を構築することです。
―高い専門性と診療レベルを維持するために、 どのような取り組みを行っていますか
本田氏 :
当院は昔から高い専門性と診療レベルを有してきましたが、 それは現在も変わりません。 今後もこの強みを維持するために、 たとえば研修医には各自の希望に合わせた教育を行うよう工夫しています。 「 (外科手技の) 糸結びだけをずっと練習していたい」 など、 広く総合診療を学ぶよりも自身の専門をとことん極めたいと希望する場合は、 プログラム規定を逸脱しない範囲でその希望に応じた研修カリキュラムを検討します。
また、 研修プログラムには 「基本コース」 「小児科専門コース」 「産婦人科専門コース」 「外科専門コース」 という4コースのローテーション例があり、 基本コースを選択した場合も、 1年次に研修したい希望診療科 (3ヵ月) を併せて選択することができます。 「専門バカ」 になりたい方を歓迎しています (笑)。
>> 研修プログラムの詳細はこちら
―横断的組織を作るためには
西村氏 :
旧体制では当院は高い専門性を有していたものの、 各専門領域同士が院内でうまく連携できていない部分がありました。 今後はこれまでの高い専門性を維持しながら、 しっかりとした横断的組織を実現することで、 医療安全などに対するガバナンスを強化した体制を構築したいと考えています。
そのための取り組みの一環として、 特に重要な11のテーマに対するワーキンググループ (WG) が始動し、 現在病院一丸となって取り組んでいます。 各WGには医師、 看護師、 検査技師、 事務職員など多職種が参加しており、 議論のテーマは経営や医療の質向上、 臨床研究の活性化など多岐にわたります。
▼現在始動中のWG一覧
1 : 集中治療部門
2 : 救急医療部門
3 : 手術関連
4 : 集患・医療連携
5 : 病院経営改善
6 : 診療のあり方見直し
7 : 職員満足度向上
8 : 患者満足度向上
9 : 病院イメージ向上
10 : 人材育成・教育
11 : チーム医療推進
明石氏 :
WGは2024年度末を目途に取り組んできました。 約3ヵ月の期間で、 病院全体横断的に、 以下のような活動により成果を出してきました。
病院全体のための活動
患者増に直結する活動
患者満足度向上のための活動
職員満足度向上のための活動
…など
本田氏 :
医師業務のタスクシフト / シェアについては、 ただ単に医師の過重労働を減らすだけではなく、 タスクシフトやタスクシェアをされる側のやりがいが高まるようなやり方を模索しています。 これによって医師だけでなくすべての職員の働く上での満足度を上げることができれば、 職員の定着や採用増にもつながると考えています。
―WGの活動によって、 どのような変化がありましたか
西村氏 :
皆で話し合いながら改善を進めるプロセス自体が 「自分たちで病院を良くしていこう」 という良い意識を育んでいると感じます。 実際に 「患者さんのためにこうした方が良いのではないか」 と考え、 主体的に意見を出す職員が増えてきているのは、 喜ばしいことです。 業務効率化などについても引き続き検討しながら、 生き生きと働ける良い職場環境を作っていきたいと思います。
本田氏 :
初診患者数もすでに増加しつつあります。 旧体制では飛び込みで担当すべき診療科が不明瞭な患者を各科で押し付け合いになって結果的に断ってしまうことが多々ありましたが、 初診患者の応需率の高さが病院経営に非常に重要なことを熟知している救命救急科が 「断る前に救命救急科が診療する」 と申し出てくれました。 すると、 これをきっかけに、 他科でも飛び込みの患者を積極的に受け入れるようになり、 初診患者数の増加につながりました。
明石氏 :
西村先生、 本田先生のおっしゃるとおり、 職員の気持ちに徐々に変化してきたと感じています。 実際に、 職員からも 「女子医が変わってきた」 「大事にされているのを感じる」 といった意見をもらうことがあります。 まだ解決が必要なことも山積みですが、 少しずつ 「意見が言える、 それが採用される」 という雰囲気が構築されつつあることは確かですね。
―最後に、 HOKUTO医師会員に向けてメッセージをお願いいたします
西村氏 :
2025年4月現在、 当院は変革を進めている最中です。 当院の大きな魅力は、 高水準の専門性を身につけられることです。 職場の心理的安全性も大切に考えています。 高い専門性はそのままに、 若手医師や医学生が、 自由に意見を出せる環境が整ってきており、 能動的に学び、 働きたいと望む皆さんにとって魅力的な環境を提供できると思います。 ぜひ一度、 見学や研修に来ていただけると嬉しいです。
本田氏 :
当院は全国から医師を受け入れ、 育成しています。 特に 「早い段階から自身の専門を極めたい」 と希望する方には魅力的な環境だと思います。 実際に足を踏み入れれば魅力が伝わると思いますので、 ぜひ一度見学にいらしてください。
明石氏 :
私が教授を務める乳腺外科では、 手術や化学療法だけでなく妊孕性温存から遺伝性乳癌まで乳腺を専門にする上で大切なことを一通り学べる体制を整えています。 さらに、 病院全体で若手医師がしっかりと育つような仕組みも作っていくので、 興味のある方はぜひいらしてください。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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