抗菌薬の適正使用『成人肺炎診療GL 2023年版』での変更点は?
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HOKUTO編集部

11ヶ月前

抗菌薬の適正使用『成人肺炎診療GL 2023年版』での変更点は?

抗菌薬の適正使用『成人肺炎診療GL 2023年版』での変更点は?
日本呼吸器学会が2017年に発表した『成人肺炎診療ガイドライン』 (2017年版) は、 年内に改訂版 (以下、 2023年版) が発行される予定で、 現在は改定作業が行われている。 2023年4月28〜30日に東京都で開催された第63回日本呼吸器学会では、 同ガイドライン委員である仙台赤十字病院副院長・同院呼吸器内科部長の三木誠氏が、 抗菌薬の適正使用について、 2023年版の改訂案を踏まえて解説した。 

肺炎の分類

NHCAPとHAPは再び分かれることに

前回の2017年版では、 肺炎の分類が旧版と変わり、 それまで市中肺炎 (CAP:community acquired pneumonia)、 院内肺炎 (HAP:hospital acquired pneumonia)、 医療介護関連肺炎 (NHCAP:nursing and healthcare associated pneumonia) の3つに分類されていたものが、 CAPとHAP/NHCAPの2つのカテゴリー分類に変更された。 すなわち、 疾患末期・老衰などの不可逆的な死の過程にある終末期の患者が含まれるHAPとNHCAPを1つの診療群とした方が治療選択のアルゴリズムを考えやすいと考えられた。

しかし、 高齢者肺炎のほとんどがNHCAPに分類されることが多く、 HAPと同じ耐性菌リスク評価が適用されてしまうと、 過剰に広域抗菌薬が投与されやすい状況になってしまい、 現在AMR (Antimicrobial resistance:薬剤耐性) ならびに抗菌薬適正使用の観点から問題となっているという。

そこで、 2023年版の改訂案ではHAPとNHCAPが再び分けられる予定だ。 すなわち肺炎は、 耐性菌を含め臨床的特徴の面から、 再度CAP、 NHCAP、 HAPの3つに分類されることになる。

『成人肺炎診療ガイドライン 2023年版』(案)

抗菌薬の適正使用『成人肺炎診療GL 2023年版』での変更点は?
(三木誠氏提供)

世界的に努力義務となっている抗菌薬適正使用とは、 感染症を確定診断後、

・適切な抗菌薬を選択し、 
・適切な量を、 
・適切な投与ルートで、 
・適切な期間投与する

ことである。

裏を返せば、 抗菌薬不適正使用には、

① 不必要使用 (以下、 例) 

  • 非細菌性呼吸器感染症 (肺結核、 肺真菌症、 肺寄生虫症など)
  • 非感染性呼吸器疾患 (間質性肺疾患、 肺癌、 肺水腫など)

② 使用すべき疾患に対する不使用 (以下、 例)

  •  (肺癌に併発した) 閉塞性肺炎など

③ 不適切使用

  • 抗菌薬の種類・用量・投与期間の誤り

が挙げられる。

ガイドライン改訂に際しては、 抗菌薬の適正使用の考え方についても再検討されているという。

抗菌薬選択の基本的な考え方

三木氏は、 『成人肺炎診療ガイドライン 2023年版』案における抗菌薬適正使用のキーワードは以下の2つであるとした。

① 適切なスペクトラムの抗菌薬を選択

  • 可能な限り緑膿菌に抗菌活性を持たない狭域スペクトラム抗菌薬

② 適切な治療期間

  • 可能な限り1週間程度を目安とする。

抗菌薬の種類

CAPの検出菌では肺炎球菌が圧倒的に多く、 次いでインフルエンザ桿菌、 さらに非定型菌 (肺炎マイコプラズマなど) が多い。 喀痰培養検査では緑膿菌もわずかだが検出されるが、 緑膿菌が原因菌である可能性は低い。

さらに2023年版の改訂作業に当たっては、 NHCAPおよびHAP治療においても緑膿菌をカバーする広域スペクトラム抗菌薬は推奨されるかについて、 狭域スペクトラム抗菌薬と比較したシステマティックレビューを行ったが、 死亡率や生命予後で差は認められなかった。

こうした検討結果を踏まえて、 一般的な感染症治療の考え方としては、

  • 状態が悪ければde-escalation
  • 広域スペクトラム抗菌薬でエンピリック治療を開始
  • 感受性試験結果に応じて狭域の抗菌薬に変更
  • 状態が比較的良い場合はescalation
  • 狭域〜中程度スペクトラムの抗菌薬で開始
  • 感受性試験で耐性、 または効果不良であれば抗菌薬のスペクトラムを広げる

とされるものを、 2023年版の肺炎診療ガイドラインでは

  • できるだけ狭域スペクトラム抗菌薬からのescalationとすることを検討する
  • 狭域〜中程度スペクトラムの抗菌薬で開始
  • 感受性試験で耐性、 または効果不良であれば抗菌薬のスペクトラムを広げる

とする予定であるという。

『成人肺炎診療ガイドライン 2023年版』(仮)

抗菌薬の適正使用『成人肺炎診療GL 2023年版』での変更点は?
(三木誠氏提供)

Escalation治療薬とDe-escalation治療薬については、 三木氏は「肺炎治療においては、 抗緑膿菌活性の有無で分けて考えてほしい」と述べ、 「肺炎は重症でなく耐性菌リスクが少なければ、 可能な限り狭域スペクトラム抗菌薬を選択してほしい」と呼びかけた。

抗菌薬の用量

経口薬量と経静脈 (点滴静注) 薬量は、 特にペニシリン系やセフェム系で圧倒的に用量が違う。 同氏は「経口薬を使う場合は軽症の場合であり、 かつ十分量を使わないと治せない」と指摘した。

抗菌薬の投与期間

菌種・病態別、 市中肺炎における治療期間の目安については、 以下のようにされる予定である。 緑膿菌については、 2017年版では、 21日間以内とされていたが、 14日間以内に短縮された。

  • 肺炎球菌:菌血症がなければ解熱後3 (〜5) 日間 (最低5日間)、 菌血症併発では10〜14日間
  • ブドウ球菌や嫌気性菌による壊死性肺炎:14日間以上
  • レジオネラ:7〜14日間
  • 緑膿菌:10〜14日
  • その他の市中肺炎:最低5日間かつ2〜3日間平熱が続くこと
注) 肺化膿症・胸膜炎・膿胸を併発している場合、 また基礎疾患による難治化を認める場合には、 抗菌薬を上記より長期投与すべきである。

またCAPに対する1週間以内の短期抗菌薬治療については、 標準治療 (1週間超) と比較したシステマティックレビューの結果から、 30日以内の死亡率や肺炎治癒率差を認めなかったことから、 CAPに対しては1週間以内の短期抗菌薬治療が推奨される予定であるという。

さらにCAP患者において、 症状・検査所見の改善を認めた場合の注射用抗菌薬から内服抗菌薬への切り替え (スイッチ療法) については、 静脈薬継続と比較したシステマティックレビューの結果から、 同等の臨床効果が示された。 そのため、 スイッチ療法も推奨されている。

HAP患者に対しても、 短期治療 (8日以内) と標準治療 (10〜15日) を比較したシステマティックレビューの結果から、 30日以内の死亡率、 肺炎の再燃率のいずれも有意差は認められなかった。

三木氏は「世界的な戦略とされているAMR対策の観点から、 肺炎治療に関しても抗菌薬適正使用に努めることを目的として、 近々発表される改訂版肺炎診療ガイドラインを有効活用してほしい」と述べた。

こちらの記事の監修医師
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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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