HOKUTO編集部
2ヶ月前
「新型インフルエンザ等対策政府行動計画 (以下、 政府行動計画) 」 が本邦では今年抜本的に改定されたが、 その実現には現場の取り組みが不可欠である。 国立国際医療研究センター病院副院長で国際感染症センター長/AMR臨床リファレンスセンター長の大曲貴夫氏は、 現場の視点から、 政府行動計画の実現に向けた課題と現行の取り組みについて報告した。
COVID-19流行の初期からその対応に当たってきた大曲氏。 同氏は、 「全く未知であった病気に対して、 診断・治療を行うことはとても大変だったが、 なんとか対応を乗り切れたのは、 それなりに事前準備をしていたからだ」 と振り返った。
例えば初のCOVID-19治療薬であるレムデシビルが国内で迅速な特例承認に至ったのは、 2020年2月に開始された米国国立衛生研究所 (NIH) との国際共同治験に日本も同年3月に参加できたことによる。 これはCOVID-19流行前に両国でそれぞれ研究開発の整備を進めていたからこそ実現できたことと考えられるという。
大曲氏は、 「ただし、 日本における研究開発の準備は十分であったとは思えず、 その分苦労もした。 反省は必要だと思っている」 と述べたうえで、 今後、 日本における感染症医薬品研究開発で強化すべき点として、 以下を挙げた。
改定された政府行動計画の横断的視点の一つに 「研究開発への支援」 がある。 ワクチン・診断薬・治療薬の早期実用化を目指すもので、 重要となるのが感染症危機対応医薬品等 (MCM : Medical Countermeasures) だ。 MCMとは公衆衛生危機管理において重要性の高い医薬品などを指し、 ワクチン、 治療薬、 診断技術なども含む。
利用可能なMCMが既に存在する場合はどのように確保するかを検討する。 一方、 利用可能なMCMが存在しない場合は、 研究開発を進める必要がある。 これらのMCMの確保・研究開発上の優先順位を設定するために、 「重点感染症」 が指定された。
MCMが必要な重点感染症の分類は、 公衆衛生危機の発生の予見可能性に基づき、 以下の5つのグループに分類されている。
世界保健機関 (WHO) も同様の重点感染症を定めているが、 最近グループ分類が改定された。 大曲氏は 「先日の厚労省小委員会で、 日本でも随時見直しをしていくことが決まった。 今後急速に議論が進められていくと思う」 と報告した。
国内の臨床現場では、 新興感染症発生時に迅速に臨床情報や検体を収集・活用できるよう、 臨床研究のネットワーク整備が進行中である。 国立国際医療研究センターでは厚労省から委託を受け、 全国の特定感染症指定医療機関など14施設と協力し、 有事の際に迅速に情報収集や治験を行う「感染症臨床研究ネットワーク」の体制整備を進めているという。
基礎研究も推進中で、 文部科学省と日本医療研究開発機構 (AMED) の 「新興・再興感染症研究基盤創生事業」 では、 感染症研究国際展開戦略プログラム (J-GRID) を通じて世界に研究拠点が設置されている。 ベトナムでは、 長崎大学を中心とした薬剤耐性 (AMR) 研究が進められており、 国立国際医療研究センターも参加するなど、 国際的なネットワークが形成されつつある。
今後の課題については、 大曲氏は 「得られた知見、 特に臨床試験のシーズをいかに活用するか。 また臨床研究家のネットワークが非常に重要であり、 これをどのように強化していくかだ」 と指摘した。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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