【消化器癌】2025年5月の注目論文3選 (山本駿先生)
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HOKUTO編集部

11ヶ月前

【消化器癌】2025年5月の注目論文3選 (山本駿先生)

【消化器癌】2025年5月の注目論文3選 (山本駿先生)
進行胃癌においては、 MSI-High症例を対象とした免疫療法や後方治療の開発が求められている。 一方、 食道腺癌では、 術前治療後の病理学的治療効果と予後との関連性が注目されている。 本稿では、 2025年5月までに報告された胃癌および食道腺癌に関する注目試験3件を取り上げ、 個別化医療の進展や今後の診療戦略に役立つ知見を紹介する。 

解説医師 : 山本駿先生

国立がん研究センター中央病院、 頭頸部・食道内科

日本内科学会 認定内科医、 日本がん治療認定医機構がん治療認定医、 日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医、 日本食道学会 食道科認定医、 専門は食道がんや食道胃接合部がんの化学療法

MSI-High進行胃癌に対するニボルマブ+低用量イピリムマブ

Phase II Study (NO LIMIT, WJOG13320G) of First-Line Nivolumab Plus Low-Dose Ipilimumab for Microsatellite Instability-High Advanced Gastric or Esophagogastric Junction Cancer¹⁾

J Clin Oncol. 2025 を確認する

背景 : MSI-High進行胃癌はICIが奏効しやすい

切除不能な進行胃癌のうち約5~6%の症例で、 MSI-High (高頻度マイクロサテライト不安定性) を有するとされており、 この集団はICIの治療効果が得られやすい対象とされている。 そのため、 MSI-Highを有する進行胃癌に対する初回薬物療法として、 ニボルマブと低用量イピリムマブの併用療法の有効性と安全性を検討する第II相試験NO LIMITが実施された 。

研究概要 : ニボルマブ+低用量イピリムマブ療法のORRを評価

NO LIMIT試験では、 MSI-Highを有する未治療の切除不能な進行胃癌患者29例を対象に、 ニボルマブ240mg (2週毎) と低用量イピリムマブ1mg/kg (6週毎) の併用療法を実施した。 主要評価項目は客観的奏効割合 (ORR)、 副次評価項目として病勢制御割合 (DCR)、 無増悪生存期間 (PFS)、 全生存期間 (OS) が評価された。

結果 : 高い腫瘍縮小効果と治療効果の持続を確認

年齢中央値 (範囲) は75歳 (54~84歳)、 HER2陰性の割合は96.6%であった。

主要評価項目であるORRは62.1% (95%CI 42.3–79.3%) で、 完全奏効 (CR) の割合は10.3%であった。 DCRは79.3% (95%CI 60.3–92.0%)、 PFS中央値は13.8ヵ月 (95%CI 13.7ヵ月–未達)、 OS中央値は未達 (95%CI 13.7ヵ月–未達) であった。

治療関連有害事象の発生率 (全Grade) は93.1%、 Grade≧3の発現は37.9%であり、 主な有害事象として下垂体機能低下 (6.9%) や皮疹 (6.9%) が報告された。

これらの結果から、 MSI-Highを有する切除不能な進行胃癌に対して、 初回治療としてのニボルマブと低用量イピリムマブの併用療法は、 持続的な抗腫瘍効果を示した。 治療関連有害事象により継続が困難となる症例も一部認められたが、 多くの症例で治療効果が持続していた。

My Opinion

切除不能な進行胃癌に対するニボルマブとイピリムマブの併用療法は、 CheckMate 649試験では全体集団においてOSの有意な延長を示せなかった。 しかし、 MSI-High症例に限るとOSが良好で (HR 0.28)、 ORRも70%と高く、 有効性が示唆された。 同試験ではイピリムマブ3mg/kgが使用されていたが、 安全性への懸念があったため、 NO LIMIT試験では1mg/kgに減量して再検証が行われた。 結果、 MSI-Highを有する切除不能進行胃癌に対し、 高い腫瘍縮小効果と治療効果の持続が認められ、 ICIの有用性があらためて確認された。

一方、 安全性については、 イピリムマブの減量にもかかわらず、 Grade≧3の治療関連有害事象の発生率は38%と、 CheckMate 649試験と同程度であった。 これはNO LIMIT試験に高齢者が多く含まれていたことが一因とされる。 ただし、 治療関連死はNO LIMIT試験で0%であり、 CheckMate 649試験 (約3%) と比べると、 安全性は一定程度改善されたと考えられる。

本併用療法は、 MSI-Highを有する切除不能例に加え、 切除可能例に対する開発も有望と考えられる。 特に後者では、 大腸がんにおけるNICHE-2試験のように術前治療としての活用が期待され、 将来的には臓器温存を目指した治療戦略への展開も見込まれる。 今後の本レジメンの開発動向に注目したい。

進行胃癌、 ラムシルマブPD後の継続投与は予後を改善するか?

Randomized Phase III Trial of Ramucirumab Beyond Progression Plus Irinotecan in Patients With Ramucirumab-Refractory Advanced Gastric Cancer: RINDBeRG Trial²⁾

J Clin Oncol. 2025 を確認する

背景 : 後方治療における血管新生阻害薬継続は大腸癌の予後を改善

切除不能な進行胃癌における後方治療の選択肢とその有効性は依然として限られている。 大腸癌では、 血管新生阻害薬の増悪後継続が予後改善につながることが示されているが (BBP : bevacizumab-beyond PD)、 胃癌においては、 ラムシルマブ (RAM) +パクリタキセル療法が標準治療として確立されているものの、 RAM増悪後の継続投与の意義は不明であった。 こうした背景のもと、 3次治療以降の切除不能な進行胃癌を対象に、 イリノテカンにRAMを上乗せする意義を検証する第III相無作為化比較試験RINDBeRGが実施された。

研究概要 : RAM併用化学療法の後治療にRAMを継続

RINDBeRG試験は、 RAMを含む化学療法に不応となった20歳以上の切除不能な進行胃癌患者402例を対象に実施された。 患者は、 イリノテカン単剤群200例とイリノテカン+RAM併用群202例に1:1で無作為に割り付けられた。 主要評価項目はOS、 副次評価項目としてPFS、 ORR、 DCR、 安全性が設定された。

結果 : OS改善は認められず、 短期的な治療効果は良好

主要評価項目であるOS中央値は、 単剤群8.5ヵ月、 併用群9.4ヵ月で、 両群間に有意差は認められなかった (HR 0.91、 95%CI 0.74–1.12)。

一方、 PFS中央値は単剤群2.8ヵ月に対し併用群では3.8ヵ月と、 併用群で良好な結果が得られた (HR 0.72、 95%CI 0.59–0.89)。 ORRは15.8% vs 22.1% (p=0.15)、 DCRは52.1% vs 64.4% (p=0.03) であり、 いずれも併用群で優れた傾向が認められた。

安全性では、 白血球減少、 好中球減少、 血小板減少、 低アルブミン血症、 口内炎などの有害事象が、 併用群でより高頻度に報告された。

My Opinion

切除不能な進行胃癌の3次治療以降では、 トラスツズマブ・デルクステカンを除き、 遺伝子異常に基づく治療薬は確立されておらず、 トリフルリジン・チピラシルやイリノテカンが主に用いられているものの、 治療効果は限定的である。

RINDBeRG試験では、 RAM併用により短期的な治療効果の改善はみられたが、 OSの延長には至らなかった。 OSのサブグループ解析でも、 食道胃接合部癌やHER2陽性例で良好な傾向は認められたものの、 有意差には至らず、 症例数も限られていた。 そのため、 現時点では3次治療において本併用療法の恩恵が大きい集団は明確でなく、 イリノテカン単剤が依然として標準治療とされている。

一方、 今年の米国臨床腫瘍学会 (ASCO 2025) で報告されたMATTERHORN試験により、 FLOT+デュルバルマブ併用療法が日本における胃癌の周術期治療の新たな選択肢となる可能性が高まっている。 仮にこの併用療法に早期不応となった場合、 すでに4剤に不応となっていることから、 特にHER2陰性かつCLDN18.2陰性の症例では治療選択肢が著しく制限されると考えられる。 そのような状況では、 未使用のイリノテカン+RAM併用療法を含む新たな治療戦略の開発が今後求められる。

食道腺癌の術前治療、 病理学的治療効果は予後と関連するか?

Prognostic Value of Tumor Regression Grade After Chemotherapy Versus Chemoradiotherapy in Patients Undergoing Neoadjuvant Treatment for Locally Advanced Esophageal Adenocarcinoma³⁾

Ann Surg Oncol. 2025 を確認する

背景 : 術前治療後の病理学的治療効果と生存期間の関連性は不明

食道腺癌に対する術前化学放射線療法は、 病理学的完全奏効 (pCR) 率が高い一方で、 術前化学療法と比較して生存期間の延長を示さない可能性が過去の報告で示唆されている。 これまで、 病理学的腫瘍縮小効果 (TRG*) と生存期間との関連も明確ではなかった。

*術前治療後の病理標本における腫瘍の退縮度を評価する指標で、 線維化と残存腫瘍の比率によりGrade 1 (完全寛解) ~Grade 5 (無効) で分類される。

研究概要 : 術前化学療法と術前化学放射線療法後のTRGと予後を調査

術前治療を受けた局所進行食道腺癌563例を対象に後ろ向きに調査した。 術前治療の内訳は化学放射線療法群285例、 化学療法群278例であった。 評価項目は、 TRGに基づく病理学的腫瘍縮小効果とOS、 無再発生存期間 (DFS) であった。

結果 : 術前化学療法でTRGと予後が関連

pCR割合は術前化学放射線療法群で24.6%、 術前化学療法群で11.2%と、 化学放射線療法群で有意に高かった (p<0.0001)。 術前化学療法群では、 病理学的リンパ節転移の有無にかかわらず、 TRGとOSに有意な関連が認められた (陰性例 : p=0.03、 陽性例 : p=0.01)。

一方、 術前化学放射線療法群では、 いずれの転移状況においてもTRGとOSに有意な関連は認められなかった (陰性例 : p=0.98、 陽性例 : p=0.23)。

5年DFS割合は術前化学療法群の方が良好であり (66.5% vs 84%)、 遠隔転移割合は化学放射線療法群で有意に高かった (35.4% vs 23.8%)。

また、 pCRが得られた症例では、 化学療法群の方が化学放射線療法群よりもOSおよび、 特にDFSが良好であった。

My Opinion

食道腺癌の標準的な周術期治療は、 かつてCROSS試験に基づく術前化学放射線療法が主流であったが、 現在ではESOPEC試験の結果を受けて、 術前後のFLOT療法が新たな標準となっている。 術前治療の発展によりpCRが得られる症例が増加しており、 病理学的治療効果と予後との相関に関する検討が求められていた。

本研究の結果から、 術前化学療法ではTRGと予後との関連が示唆された一方、 術前化学放射線療法ではその関連性が明確ではなかった。 同様の傾向は食道扁平上皮癌においても報告されており、 NeoRes試験やJCOG1109試験では、 術前化学療法同士の比較において病理学的治療効果が予後予測に有用である可能性が示されているが、 治療モダリティが異なる場合には、 その相関性は限定的であると考えられている。

現在、 扁平上皮癌・腺癌を問わず、 術前治療では3剤併用化学療法の有効性が検証されており、 今後の開発においてはpCRのような病理学的指標が早期評価項目として広く用いられる可能性がある。 さらに、 SPACE-FLOT試験などにおいて、 術後化学療法の最適化にも病理学的治療効果の活用が進んでおり、 周術期治療全体においてその意義はますます高まっている。

出典

  1. J Clin Oncol. 2025 オンライン版.
  2. J Clin Oncol. 2025 オンライン版.
  3. Ann Surg Oncol. 2025 オンライン版. 

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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