寄稿ライター
28日前

医療訴訟が珍しくなくなった今、 医師は法律と無関係ではいられない。 連載「臨床医が知っておくべき法律問題」第29回では、 同意書面などへサインを求める場合の 「代理と代諾」 について考える。

医療現場では、 入院手続きや手術同意書など、 患者のサインが必要な場面が多い。 患者本人が記入できる状態でも、 家族が代わりに名前を書くことがあるほか、 患者に意識障害や認知症がある場合には、 家族が 「代諾者」 としてサインすることも少なくない。
ただし、 法律上は 「代理」 と 「代諾」 は同じ意味ではない。 例えば、 患者本人から手続きを依頼され、 家族が入院手続きをする場合である。 患者に意識がないような場合、 第三者の為にする契約 (民法537条) として家族などが主体となって診療申し込みをする場合もあるが、 本人が家族に依頼するような場合、 本人に代わって契約 (診療は準委任契約 (民法656条) に基づいて行われる) を締結する 「代理 (民法99条) 」 と考えるのが自然である。
一方、 患者本人が意思表示できない状況で、 家族が本人の利益を考えて同意する場面では、 医療現場では 「代諾」 という言葉が用いられることが多い。 医療現場で広く使われる 「代諾者」 という言葉は、 薬機法の省令だる 「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する基準 (GCP) 」 2条25号にて定義づけされており、 親族や後見人など、 本人に代わって同意することが正当だと認められる人を指す。 一方代理では、 「本人のために手続きをしている」 と示すことが重要である。

例えば、 高齢の母親に代わって息子が入院手続きをする場合、 母親から依頼を受けていれば、 息子へ代理権の授与があったということになろう。 また、 この母親が認知症で何も分からない状態でも、 息子が成年後見人に選任されている場合は、 法定代理人として契約できる。 この場合、 入院手続きを行うのは息子であっても、 契約の当事者はあくまで母親である。
つまり、 代理人が行った手続きの効果は、 代理人本人ではなく患者本人に帰属する。 手術同意書についても同様である。 代理人が患者の代理として説明を受け、 「患者代理」 として署名していれば、 その内容の契約が成立したと見ることができよう。
入院契約や診療契約も契約であるため、 代理行為は当然想定されている。 しかし、 医療現場で問題となるのは入院手続きだけではない。 手術や検査などについて、 「誰が患者に代わって同意できるのか」 という問題がある。
家族が患者に代わって入院手続きを行うことは比較的理解しやすいが、 手術への同意となると事情は異なる。 例えば、 夫婦には日常生活に関する一定の代理権が認められるものの (民法761条)、 肺の切除のような重大な手術はその範囲を超えると考えられている。 また、 成年後見人についても、 入院契約はできても、 手術への同意までは権限外とするのが一般的な司法実務である。

では、 任意代理人はどうだろうか。 任意代理人には法律上特に制限がないため、 理論上は家族以外の知人や法人が代理人になることも可能である。 しかし、 手術同意書に法人名を記載することには、 強い違和感がある。 侵襲を伴う医療行為については、 その他の契約と同じような代理形式には限界があるといえるだろう。
こうした代理の限界から、 手術同意書などについては、 法律行為の効果の帰属を問題とする 「代理」 よりも、 本人の意思に反せず、 本人の生命・身体の利益を図る立場としての 「代諾者」 という考え方の方が実態に沿っているように思われる。 実際、 GCPでは代諾者の範囲や要件が定められており、 本人の利益状況を把握していない者は、 親族であっても代諾者とはならない。 この点は医療現場の実感にも合致するであろう。

なお、 ⼿が震えて字が書けないような場合、 本⼈は意思表⽰をしっかりでいる頭があり、⼝頭その他で意思表⽰しているケースもある。 本来なら同意書より録画などの⽅が良いので、 遺⾔書の作成などでは動画をとることが多い。
その場合、 書⾯へのサインは 「代筆」 ということになるが、 代筆は本来、 字が書ければ誰でも良いので、 代筆者 「だれだれ」 と記載して代筆してもらっても、 代筆者が、 本⼈が内容について理解して代筆を依頼した事実を証明しないとそれだけでは意味がない。 そして代筆も⺠法上規定されているわけではない。
代筆もそうであるが、 上に述べた 「代諾」 についても、 臨牀研究や臨牀治験を離れた⼀般診療における代諾については、 明確な規定があるわけではない。
医療現場はグレーゾーンが多いのである。


編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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