【解説】COPDにLAMA/LABAで咳嗽・喀痰が改善しない場合、 ICSの適応を考える
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亀田総合病院

10ヶ月前

【解説】COPDにLAMA/LABAで咳嗽・喀痰が改善しない場合、 ICSの適応を考える

今日のクリニカルパール

【解説】COPDにLAMA/LABAで咳嗽・喀痰が改善しない場合、 ICSの適応を考える
慢性閉塞性肺疾患 (Chronic obstructive lung disease:COPD) は、 タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することにより生じる肺疾患です。 今回はCOPDの治療の基本について解説します。

COPDの基本的治療

主役は気管支拡張薬 (LAMA、LABA)

気管支拡張薬には、 長時間作用性抗コリン薬 (long-acting muscarinic agonis: LAMA) と長時間作用性β2刺激薬 (long-acting β-agonists :LABA) の2剤があります。 通常LAMAで治療を開始し、 症状の改善が乏しい場合は、 LAMA/LABAを選択します。

COPDに対するICSの適応

多くの患者はLAMA/LABAで咳嗽や喀痰、 呼吸困難などの症状が軽快しますが、 時にLAMA/LABAを投与するも症状が残存する場合があります。 この場合は、 まず吸入ステロイド (Inhaled corticosteroid:ICS) 追加の適応がないかを考えましょう。

COPDにおけるICSの適応を以下に示します。 末梢血好酸球数≧300/μL、 中等度増悪が年に2回以上、 入院を要する増悪の既往、 喘息合併・既往がある場合は、 ICSが強く推奨されます。

COPDにおけるICSの適応

【解説】COPDにLAMA/LABAで咳嗽・喀痰が改善しない場合、 ICSの適応を考える
参考文献1) を基に作成
特に末梢血好酸球数≧300/μLが重要であり、 この基準を満たす患者では、 ICSを追加することで咳嗽や喀痰が軽快する事が多いです。 

喘息との合併「ACO」について

COPDに喘息が合併しているかについての評価は、 喘息とCOPDのオーバーラップ (Asthma and COPD Overlap:ACO) の手引きに記載されたACOの診断基準を参考にしましょう²⁾。 「喘息の特徴」に示された項目を参考にして、 COPD患者に喘息が合併しているかを評価します。

ACOの診断基準²⁾

ACOの診断は、 基本項目とCOPDの特徴+喘息の特徴を満たす場合に診断する。 COPDの特徴のみあてはまる場合はCOPD、 喘息の特徴のみあてはまる場合は喘息 (リモデリングのある) と診断する。
【解説】COPDにLAMA/LABAで咳嗽・喀痰が改善しない場合、 ICSの適応を考える
*ACOを診断する際に喘息の特徴を確定できない場合、 喘息の特徴の有無について経過を追って観察することが重要である。
*通年性吸入抗原はハウスダスト、 ダニ、 カビ、 動物の鱗屑、 羽毛など、 季節性吸入抗原は樹木花粉、 植物花粉、 雑草花粉など、 である。
【参考1】胸部単純X線などで識別を要する疾患 (びまん性汎細気管支炎、 先天性副鼻腔気管支症候群、 閉塞性汎細気管支炎、 気管支拡張症、 肺結核、 塵肺症、 リンパ脈管筋腫症、 うっ血性心不全、 間質性肺疾患、 肺癌) を否定する。
【参考2】咳・痰・呼吸困難などの呼吸器症状は、 喘息は変動性 (日内、 日々、 季節) あるいは発作性、 COPDは慢性・持続性である。参考文献2) を基に作図

喘息病態非合併例のCOPDに対して安易にICSを使用しない

ICSは、 肺炎のリスクになりますので³⁾、 特に喘息病態非合併例に対するICSの適応については、 上記の基準に基づき判断して、 安易にICSを使用しないようにしましょう⁴⁾。

基本的には好酸球 300/uL以上というのがICSの有効性が高い患者選択の指標となります。

また、 ICSを導入後に、 無効な場合や肺炎をきたした場合は、 ICSの中止を検討しましょう⁴⁾。

LAMA/LABA投与後に、 咳嗽や喀痰が残るも、 ICSの適応がない場合は、 逆流性食道炎や後鼻漏など他の咳嗽をきたす疾患がないかを評価しましょう。

この場合、 他の原因が明らかでなければ、 鎮咳薬や喀痰調整薬などで対症療法を行うことが多いです。

デバイスの使い分け

COPDに対して、 ICSを追加する場合は、 ほとんどの場合、 トリプル吸入製剤 (ICS/LAMA/LABA) を使用することになります。 DPIのテリルジー®とpMDIのビレーズトリ®が販売されています。

①ドライパウダー製剤 (DPI)

dry powder inhaler: DPI

テリルジー® (フルチカゾンフランカルボン酸エステル・ウメクリジニウム臭化物・ビランテロールトリフェニル) 

②加圧式定量噴霧式吸入器 (pMDI)

pressurized Metered Dose Inhaler: pMDI 

ビレーズトリ® (ブデソニド・グリコピロニウム臭化物・ホルモテロールフマル酸塩水和物) 

テリルジー®は1日1回1吸入であるため、 吸入アドヒアランス向上に有効と考えられます。 一方で、 DPIであるテリルジー®は、 吸気流速が不十分の場合、 有効な吸入ができません。 一般に、 高齢になるほど吸気流速は低下します⁵⁾。

筆者はこう考える

非高齢者では1日1回で吸入可能なテリルジー (=DPI) を選択し、 吸気流速が低下している高齢者 (75歳以上が目安) では、 DPIの吸入が困難な場合が多いので、 ビレーズトリ® (=pMDI) を選択するようにしています。

参考文献

  1. Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease 2023 Report: GOLD Executive Summary.Am J Respir Crit Care Med. 2023 Apr 1;207(7):819-837.PMID: 36856433
  2. 喘息とCOPDのオーバーラップ(Astma_and_COPD_overlap:ACO)の診断と治療の手引き2018、 作成委員会. 喘息とCOPDのオーバーラップ(Astma and COPD overlap: ACO)の診断と治療の手引き2018. 東京: 日本呼吸器学会 2018
  3. Triple versus LAMA/LABA combination therapy for Japanese patients with COPD: A systematic review and meta-analysis. Respir Investig. 2022 Jan;60(1):90-98. PMID: 34103281
  4. 日本呼吸器学会. COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2022 第6版. メディカルレビュー社, 東京, 2022
  5. Inhaled therapy in elderly COPD patients; time for re-evaluation?. Age Ageing. 2007 Mar;36(2):213-8. PMID: 17267450
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