HOKUTO編集部
3ヶ月前
2024年7月20日に第5回泌尿器腫瘍内科医の集い『COURAGE』が開催されました。 その様子を、 近藤千紘先生(国立がん研究センター東病院 腫瘍内科)にご寄稿いただきました。
今回は、 6月初旬に行われた米国臨床腫瘍学会 (ASCO) の報告から泌尿器腫瘍に関連する注目の話題をとりあげ、 「日常診療をどう変えるべきか、 あるいは変えないか」 について話し合う企画となりました。
今年のASCOでは、 残念ながら泌尿器癌の演題でPlenary sessionに選ばれたものはありませんでした。 Oral sessionのなかから腎癌、 尿膜管癌、 陰茎癌、 尿路上皮癌の演題を1演題ずつ選択し、 プレゼンターによる発表のあと参加者でディスカッションを行いました。
1. 尿膜管癌 mFOLFIRINOX
2. 腎癌 バイオマーカー KIM-1
3. 陰茎癌 ペムブロリズマブ+FP
4. 尿路上皮癌 エンホルツマブベドチン
プレゼンター:今井 亨先生 (国立がん研究センター中央病院腫瘍内科)
韓国から発表された、 転移性尿膜管癌に対して 膵癌や大腸癌で馴染みの"mFOLFIRINOX療法" を行う第II相試験 (ULTIMA試験) についてです。 尿膜管癌は病理組織型が 「腸型の腺癌」 であり、 一般的な尿路上皮癌の薬物療法の効果が芳しくない代わりに、 5-FU系抗癌薬の効果が報告されている希少癌です。
主要評価項目は奏効割合、 2段階デザインで実施
本研究の主要評価項目は奏効割合で、 期待値を35%、 閾値を17%と設定しα=0.05、 β=0.2の統計設定とし、 4/20例以上の奏効があれば33例まで継続する2段階デザインで実施されました。
奏効割合は高く、 重篤な有害事象なし
患者の年齢中央値は50歳 (範囲28~68歳)、 転移臓器は肺、 リンパ節、 腹膜の順でありそれぞれ48%、 38%、 33%でした。 奏効割合は61.9% (95%CI 41.1-82.7) であり、 主要評価項目を達成し、 無増悪生存期間 (PFS) 中央値は9.3ヵ月、 全生存期間 (OS) 中央値は19.7ヵ月でした。
有害事象が懸念されるレジメンですが、 末梢神経障害がGrade1~2で76.2%でしたがGrade 3以上は認めませんでした。 また、 発熱性好中球減少症が0%という結果でした。 演者は 「mFOLFIRINOXは尿膜管癌の1次治療として考慮されるべきである」 と結んだということです。
以下のようなディスカッションがありました。
💬 尿膜管癌で初となる前向き試験であり、 奏効割合が高く、 有害事象が少ないレジメンです。 自施設でも採用しますか?
💬 魅力的な治療成績ですが、 一般診療では行わない感染予防策が施されているレジメンですね。 用量をmodifyしたうえで、 1次予防のG-CSFを投与し、 4~7日目に抗菌薬を内服するのは過剰ではないですか?
いずれにしても、 適応外使用であることを考えると、 院内採用するには詳細な論文報告も必要になりますが、 採用を検討したいという声が大半のようでした。
プレゼンター:今井 亨先生 (国立がん研究センター中央病院腫瘍内科)
腎癌術後療法としてアテゾリズマブとプラセボを比較した第III相試験 (IMmotion010試験) のトランスレーショナルリサーチ研究として、 血中循環kidney injury molecule-1 (KIM-1) が再発予測および治療効果予測のバイオマーカーとして有用ではないかという報告です。
採血からKIM-1を同定し、 推移を調査
術後再発ハイリスクの腎癌に対し、 アテゾリズマブはプラセボに対して無病生存期間 (DFS) を改善しない、 という結論のnegativeな研究でしたが、 治療前と4サイクル目Day1、 治療終了時の3ポイントでバイオマーカー採血を行っており、 73例の再発例と患者背景を調整したベースラインサンプルを調べてバイオマーカーとなるKIM-1を同定し、 全体集団でKIM-1の推移を調査しました。
KIM-1高値では再発が多いが、 アテゾリズマブでDFS改善
ベースラインでKIM-1高値の群は、 KIM-1低値の群と比べてDFSのHRは1.75 (95%CI 1.40-2.17) と多くの再発を認めていました。 また、 KIM-1高値群では、 アテゾリズマブ治療によりプラセボよりDFSが改善しHR0.72 (95%CI 0.52-0.99) であったのに対し、 KIM-1低値群ではHR1.12 (95%CI 0.88-1.63) と明らかな改善はないという結果でした。
実臨床に活かすための方策に話が及び、 盛り上がりました。
💬 KIM-1測定方法、 カットオフ値の設定は?
💬診断として、どの程度有用なのでしょうか?
💬転移再発時の腫瘍マーカーとして使用可能?
また、 現在の腎癌術後再発ハイリスクの標準治療はペムブロリズマブであることから、 「その検証試験でも同様のデータが出てきて欲しい」 との期待の声も聞かれました。
プレゼンター:渡辺祥伍先生
(虎の門病院臨床腫瘍科)
転移再発の陰茎癌に対するペムブロリズマブ併用プラチナベース化学療法の単群第II相試験 (HERCULES試験) の結果がブラジルより報告されました。 陰茎癌は扁平上皮癌であり、 進行再発例は生存期間が6~7ヵ月と予後不良ですが、 希少癌のため前向きのランダム化比較試験が困難な癌種です。
過去の報告ではプラチナ併用化学療法が勧められており、 最も強力なのは3剤併用のTIP療法 (パクリタキセル+イホスファミド+シスプラチン) ですが、 有害事象も多く治療中止を余儀なくされる症例も少なくありません。
ペムブロリズマブ+FPの有効性を調査
本試験では、 ペムブロリズマブ+5-FU+シスプラチンで導入化学療法を6サイクル行い、 ペムブロリズマブ単剤で維持療法を最大34サイクル行うことを試験治療としました。
主要評価項目は奏効割合で、 統計設定は期待値40%、 閾値20%、 α=0.10、 β=0.10とし、 33症例が必要と見積もられました。
奏効割合は高く、 TMB-Highなどのバイオマーカーとも関連あり
患者の年齢中央値は56歳 (範囲30~76歳)、 転移巣は領域外リンパ節、 肺、 肝臓の順に多くそれぞれ50%、 17%、 8%という分布でした。 奏効割合は39.4% (95%CI 22.9-57.9) であり、 主要評価項目は達成されました。
また、 PFS中央値は5.4ヵ月、 OS中央値は9.6ヵ月でした。 バイオマーカー解析としてTMB-High、 MSI-High、 ヒトパピローマウイルス-16 (HPV-16)感染、 PD-L1発現との関連が報告され、 TMB-Highがあると4例中3例 (75%) で奏効あり、 HPV-16感染ありでは9例中5例 (55.6%) で高い効果がある一方でPD-L1は陰性でも6例中4例 (66.7%) の奏効がありました。 有害事象で特に問題となるものはありませんでした。
この結果から、 5FU+シスプラチン∔ペムブロリズマブは、 進行・転移陰茎癌の新たな治療オプションである、 と演者は締めくくったとのことです。
会場からは以下のような意見がでました。
💬 この臨床試験には局所進行例が1/3程度含まれており、 真に転移性の症例のみではないので、 効果が過大評価されている可能性があるのでは?
💬比較試験でないことから、 ペムブロリズマブの上乗せ効果が本当にでているのか疑問があります。
💬希少癌で標準治療が存在しないため、 治療開始前に遺伝子パネル検査を行い、 TMB-HighやMSI-Highなどの結果があればペムブロリズマブを優先して使うことは念頭においておくとよいかもしれないですね。
プレゼンター:渡辺祥伍先生
(虎の門病院臨床腫瘍科)
国内では尿路上皮癌のサルベージ治療として、 エンホルツマブベドチン (EV) が使用可能となっています。 そのエビデンスとなったEV-301試験や第I/II相試験のEV-101、 EV-201試験において、 EVの早期の投与量や曝露が転帰に影響を及ぼすかどうかを検討した統合解析の結果が報告されました。
EV血中濃度と奏効に関連あり
2サイクル目までのEV血中濃度の平均を4分位ずつのコホートに分けQ1からQ4までの各群で奏効割合を求めると、 EV-201試験、 EV-301試験ともに、 Q1群が最も低い奏効、 Q4群が最も高い奏効となっていました。
長期投与例ほど減量や休薬を行っていた
また、 EV-301試験の各サイクルごとの投与量の割合を示した図をみると、 2サイクル目から20%弱、 7サイクル目から50%弱の症例で減量が行われていることが読み取れました。
Swimmer’s plotからは、 長く続いている症例の多くは1.25mg/kgから1.0mg/kg、 さらに0.75mg/kgまで減量したり、 休薬を適宜はさんで続けていました。
EVへの曝露が少ないほど、 末梢神経障害の出現割合は少ない
また、 末梢神経障害 Grade 2以上の割合は、 それが出現するまでのEV血中濃度の平均を4分位ずつのコホートに分けQ1からQ4までの各群で割合を求めると、 Q1で17.6%であったのに対し、 Q2は32.1%、 Q3は43.9%、 Q4は40.0%という結果でした。 EVへの曝露が少ないほうが末梢神経障害の出現割合は少ないと考えてよさそうです。
効果指標に関し、 PFS・OSともに、 すべての4分位で化学療法群より数値上の良好な治療効果を認めていました。
💬演者は 「EVの血中濃度が上がれば奏効も上がる」 という表現で話していましたが、 Q1以外は同じ程度の奏効とも見てとれるため、 「初期での投与量の下げすぎが低い効果につながる」 と解釈してもよいのではないでしょうか。
この指摘については、 ディスカッションでも盛り上がりました。
💬これから、 EVを1次治療から使用する患者さんが増えるでしょう。 必然的に治療期間が長くなることから、 蓄積毒性である神経障害のマネジメントは重要です。 この発表を通じて、 今後のEVの使い方のヒントが分かりました。
💬スケジュールからは、 ペムブロリズマブと併用する場合は、 サルベージラインで用いるものと同じdoseで2週投与1週休薬になります。 相対用量強度は88%になることを考えると実質の減量となりますが、 3週投与1週休薬のレジメンでの1レベル減量の相対用量強度は80%です。 実臨床に登場したら、 個別の判断は必要ですが、 長く続けるためには、 ある程度大胆に減量やスキップを活用することも必要かもしれないと感じました。
本会は完全Webでの開催となり、 泌尿器腫瘍の診療に興味のある医師の参加を募ったところ、 腫瘍内科医だけでなく泌尿器科医も多く参加してくださいました。
また、 今回のCOURAGEでは、新たに発表された学会データを若手腫瘍内科医の視点でレビューし、 共有してもらってディスカッションしました。 演題選択も自由にしていただきましたが、 現場の感覚を皆で共有でき、 次の臨床や研究に活かせる満足度の高い内容だったと思います。
今後も大きな学会報告があった際には、 この形式でイベントを開催できればと考えています。 ぜひご興味のある方は、 お気軽にご参加いただけると幸いです。
泌尿器腫瘍を扱う腫瘍内科医が集い、 知識を共有する場として設立された勉強会です。
日常診療で泌尿器腫瘍を診ている医師のみならず、 腫瘍内科医を目指す医師などにも泌尿器腫瘍の魅力に触れてもらい、 そのような人たちを「エンカレッジ」するような組織になることを目指しています。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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