亀田総合病院
9ヶ月前

呼吸器領域で注目度の高い論文を毎月3つ紹介するシリーズです。 2025年7月に注目された呼吸器関連の論文を3つご紹介します (解説医師 : 亀田総合病院呼吸器内科 中島啓先生)。
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HIV陰性の免疫不全患者におけるニューモシスチス肺炎 (PJP) の院内死亡率は30~50%に達する。 補助的ステロイドは、 HIV陽性患者のPJPの転帰を改善する一方、 HIV陰性患者における有効性は明らかでない。 今回、 急性低酸素血症性呼吸不全を呈するHIV陰性PJP患者を対象に、 21日間の早期補助的ステロイド療法の効果を検討する無作為化比較試験 (RCT) が実施された。
同試験の対象は、 フランスの27施設において、 18歳以上で急性低酸素性呼吸不全を伴うPJPと診断され、 治療開始から7日未満の軽度~重度の低酸素症例であった。 患者は、 メチルプレドニゾロン投与群 (21日間漸減投与*、 112例) またはプラセボ群 (114例) に1:1で無作為に割り付けられ、 ITT集団として各々107例、 111例が解析対象となった。
無作為化はウェブシステムを用いて行われ、 施設、 副腎皮質ステロイドの長期使用、 基礎疾患、 酸素投与量により層別化された。 主要評価項目は、 28日以内の全死亡率であった。
以下のとおり、 ステロイドは28日死亡率において有意差を示さなかったが、 90日死亡率は有意に低下させた。 また、 無作為化後に導入された侵襲的機械換気の割合も、 ステロイド群で有意に低かった (プラセボ群 vs ステロイド群)。

一方、 安全性に関しては、 二次感染、 インスリン使用、 ICUおよび入院期間、 急性腎不全、 ICU入室のいずれも、 両群間で有意差は認められなかった。
ステロイド投与は28日死亡率を統計学的に有意に低下させなかったが、 95%CIの下限はゼロをわずかにまたぐのみであり、 死亡リスクが10.9%低下するという推定値は臨床的に重要と考えられる。 もともとサンプルサイズは20%の差を検出する設計であったため、 10.9%の差では検出力が不十分だった可能性がある。 著者らも症例数の限界に言及している。
この結果は、 有効性を否定するものではなく、 効果を示唆しつつも結論に至らなかった試験と捉えるのが妥当であろう。 実際、 90日死亡率の低下や侵襲的機械換気の抑制といった有意な改善も認められており、 補助的ステロイド療法の有用性を支持する内容ともいえる。 今後、 この研究を基に、 各施設における実臨床での位置付けや判断のあり方について検討が望まれる。
2019年のGINA (Global Initiative for Asthma) 報告書では、 合併症リスクや抗炎症作用の欠如を理由に、 短時間作用性β₂刺激薬 (SABA) の単独使用は推奨されなくなった。 本システマティックレビューとメタアナリシス (SRMA) は、 喘息患者におけるSABAの過剰使用と有害転帰との関連を評価することを目的とした。
1981年から2023年11月までに、 PubMed、 Cochrane Library、 EMBASE、 Web of Scienceを検索し、 喘息患者におけるSABA過剰使用 (年間SABA吸入器3本以上) に関する研究を抽出した。 計626件から27件 (RCT 2件、 前向きコホート1件、 後ろ向きコホート12件、 横断研究12件) が選定された。
全死亡率および急性増悪に関して、 ランダム効果モデルとMantel-Haenszel法による重み付けを用いて統合リスク比 (RR) を算出し、 研究デザイン別にサブグループ解析を実施した。
SABAの過剰使用は、 対照群と比べて死亡率 (RR=2.04、 95%CI: 1.37–3.04、 p<0.001) および急性増悪率 (RR=1.93、 95%CI: 1.24–3.03、 p<0.001) が有意に高かった。
とくに急性増悪リスクの増加は、 後ろ向きコホート研究および横断研究で認められた。
本研究は、 SABAの過剰使用と有害転帰との関連を検討した初のSRMAである。 年間3本以上のSABA使用は、 死亡および急性増悪のリスクをいずれも約2倍に増加させた。 これは、 週2~3回以上の発作的吸入に相当する。 SABAを 「お守り代わり」 に頻用している患者がいれば、 それは喘息コントロール不良のサインであり、 抗炎症作用をもつコントローラー治療の重要性が改めて示された。
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ステロイド投与中の患者へのワクチン接種は、 日常診療で判断に迷う場面が多い。 国際ガイドラインでは、 成人でプレドニゾン (PSL) 換算20mg/日超を 「高用量」 と定義し、 開始前に生ワクチンは2~4週間前までに接種するよう推奨している。 この 「高用量」 の定義は広く受け入れられているが、 その用量設定に明確な科学的根拠は示されていない。
本ナラティブレビューは、 国際的な予防接種ガイドラインで広く採用されている 「高用量」 ステロイドの定義 (成人でPSL換算>20mg/日、 小児で>2mg/kg/日) の根拠を明らかにすることを目的とした。 ステロイド投与がワクチン反応および安全性に与える影響を検討するため、 PubMed (MEDLINE) を用いて2024年6月30日までの全文記事を検索した。 検索には 「glucocorticoid」 「prednisone」 「vaccination」 をキーワードとして使用した。
主な選択基準は、 ステロイドの投与量・期間とワクチン反応の記載があることとした。 最終的に、 小児572例を対象とした6件、 成人2,780例を対象とした12件、 計18件の研究が含まれた。 エビデンスの質の評価には、 GRADEワーキンググループの基準を用いた。
PSL7mg/日未満ではワクチン反応が維持される一方、 20mg/日超の 「高用量」 では抗体価や血清陽性率の低下が報告された。 7~20mg/日の影響は不明であり、 小児におけるステロイド投与レジメンも一貫性に欠け、 統一された 「高用量」 の閾値は確認できなかった。
また、 不活化ワクチンはリウマチ性や炎症性疾患の患者において概ね良好に耐容されたが、 重度の免疫不全例では生ワクチン接種後に反応原性が増す可能性がある。 総じて本レビューは、 「高用量」 ステロイドの定義を裏付ける十分なエビデンスが乏しいことを示しており、 臨床医は厳密な閾値に依拠するのではなく、 個々のリスクとベネフィットを踏まえて接種を判断すべきである。
本レビューは、 国際的ガイドラインで用いられる 「高用量ステロイド」 の定義に明確な根拠が乏しいことを示した。 観察可能なデータでは、 プレドニゾン7mg/日未満ではワクチン反応が維持される一方、 20mg/日超では抗体応答の低下が認められた。 7~20mg/日の影響は不明である。 多くの研究は、 混合疾患を対象とした症例対照研究で、 対照群にも異質性があった。 エビデンスが限られる中で、 ガイドラインの用量は一つの目安にとどまり、 厳密な閾値よりも個々のリスクとベネフィットを踏まえた判断が重要である。
現在筆者は、 厚生労働行政推進調査事業の一環として、 20価肺炎球菌結合型ワクチン (PCV20) の免疫原性を評価する前向き研究を実施中であり、 ステロイド投与中の患者も対象に含まれる。 本レビューで示された課題に対し、 ステロイドの影響に関する新たな知見が得られる可能性がある。
米国胸部学会 (ATS) 2025

私のホームページ 「Kei Nakashima | Medicine&Insights」 では、 呼吸器内科の重要論文、 臨床研究、 ライフハック、 医学教育などをテーマに、 日々記事を発信しています。 また、 下記は私が執筆・監修を担当した書籍です。 日常診療の一助として、 ぜひご活用ください!
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連絡先|主任部長 中島啓
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note: https://note.com/unique_fowl2375
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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