HOKUTO編集部
1ヶ月前
例年10月は家庭に目を向けると運動会シーズンであり、 仕事に目を向けると大規模な学会シーズンである。
今月は、
❶第Ⅲ相試験DRAGON IV/CAP 05
切除可能な局所進行胃癌に対する術前後のSOX療法へのcamrelizumabやrivoceranibの上乗せ
❷第Ⅲ相試験INTEGRATE Ⅱa
切除不能進行胃癌の後方治療におけるレゴラフェニブ単剤療法の意義
❸食道扁平上皮癌における免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 後のタキサン系薬剤の有効性
の3論文を取り上げる。
▼背景
切除可能な局所進行胃癌に対する標準的な周術期治療の一つは、 術前後の化学療法である。 今回中国において、 術前後のSOX (S-1+オキサリプラチン) 療法に、 抗PD-1抗体camrelizumabと低用量の抗VEGFR-2抗体rivoceranibの上乗せや、 高用量のrivoceranibを上乗せした周術期治療の意義を検証する第Ⅲ相無作為化比較試験であるDRAGON IV/CAP 05試験が行われた。
▼試験デザイン
DRAGON IV/CAP 05試験では、 切除可能な胃癌または食道胃接合部癌 (cT3-4aN+M0) が対象となった。 術前後のSOX療法を対照群とし、 試験治療群として術前後のSOX療法にcamrelizumabとrivoceranibを上乗せした周術期治療 (SOXRC) および術前後のSOX療法にrivoceranibを上乗せした周術期治療 (SOXR) が設定された。
主要評価項目は病理学的完全奏効 (pCR) 割合と無イベント期間 (EFS) と設定された。 当初は3群で開始されたが、 独立データモニタリング委員会より安全性の結果から、 SOXR群の登録を中止するよう勧告があり、 以降はSOXとSOXRCの2群で無作為の割り付けが行われた。 なお、 本論文では、 2群のpCRの結果が報告された。
▼試験結果
DRAGON IV/CAP 05試験の2群には360例が登録され、 180例がSOXRC群に、 180例がSOX群に無作為に割り付けられた。 患者背景は両群間で同様であり、 予定の術前化学療法を完了したのはSOXRC群、 SOX群でそれぞれ91%、 94%、 根治手術が実施されたのは86%、 87%だった。
主要評価項目であるpCR割合に関しては、 SOXRC群が18.3% (95%CI 13.0-24.8%) で、 SOX群の5.0% (95%CI 2.3-9.3%) に比して優越性が証明された (p<0.0001)。
なお手術関連合併症や術前療法に関連するGrade 3以上の有害事象の発生頻度は、 SOXRC群で27%と34%、 SOX群で33%と17%であった。
▼結論
DRAGON IV/CAP 05試験では、 切除可能な局所進行胃癌に対して、 術前後のSOX療法にcamrelizumabとrivoceranibを上乗せすることで、 忍容性は保たれたまま、 有意なpCRの改善を得た。
💬My Opinions
pCRにおけるSOXRC群の優越性を証明
本試験は、 胃癌や食道胃接合部癌において、 術前後の化学療法をベースに、 抗PD-1抗体や抗VEGFR-2抗体の意義を検証した第Ⅲ相試験である。 今回の報告では短期的なエンドポイントであるpCR割合のみの報告であったが、 対照群と比較して優越性が証明された。
サブグループ解析もSOXRC群で良好な傾向
サブグループ解析においてもバイオマーカーとして代表的な、 PD-L1 CPSやミスマッチ修復 (MMR) に関する検討がなされており、 特にPD-L1 CPSに関しては、 5以上で若干pCR割合が高かった。 どのサブグループにおいてもSOXRC群で成績が良好な傾向であったことから、 今後の開発において有望な選択肢になり得る可能性が示唆される。 ただ、 近年胃癌の周術期治療においては、 pCRを改善しても、 生存期間の有意な延長に繋がらないというKEYNOTE-585試験の報告もあることから、 本試験においても今後生存期間のデータがさらに重要になると考えられる。
▼背景
既治療の切除不能な進行胃癌や食道胃接合部癌の後方治療の選択肢は限られており、 かつ治療効果も限定的である。 そのような中、 経口のマルチキナーゼ阻害薬であるレゴラフェニブが第Ⅱ相試験であるINTEGRATE I試験において無増悪生存期間 (PFS) の延長効果を示したことから、 今回第Ⅲ相試験であるINTEGRATE Ⅱa試験において、 全生存期間 (OS) に関する検証が行われた。
▼試験デザイン
INTEGRATE Ⅱa試験は、 第Ⅲ相無作為化比較試験であり、 既治療の切除不能な進行胃癌または食道胃接合部癌を対象として、 プラセボが対照群、 レゴラフェニブが試験治療群に設定された。
主要評価項目はOSと設定され、 最初にINTEGRATE IとINTEGRATE Ⅱaの統合コホートで検証し、 優越性が証明された場合、 INTEGRATE Ⅱaのコホートで検証された。 なお副次評価項目として、 PFS等が設定された。
▼試験結果
INTEGRATE Ⅱa試験では、 169例がレゴラフェニブ群、 82例が対照群に割り付けられ、 患者背景は両群で同様であった。
INTEGRATE IとⅡaの統合コホートでは、 レゴラフェニブ群はプラセボ群に比べ、 OSに関して優越性が証明された (HR 0.70、 95%CI 0.56-0.87)。 また、INTEGRATE Ⅱaのコホートにおいては、 OS中央値がレゴラフェニブ群で4.5ヵ月 (12ヵ月生存割合 : 19%)、 プラセボ群で4.0ヵ月 (12ヵ月生存割合 : 6%) と報告され、 こちらでもレゴラフェニブ群の優越性が証明された (HR 0.68、 95%CI 0.52-0.90)。
PFSに関しても、 プラセボ群と比較してレゴラフェニブ群の優越性が示され (HR 0.53、 95%CI 0.40-0.70)、 安全性に関しては既報と同様の傾向であった。
▼結論
INTEGRATE Ⅱa試験では、 既治療の切除不能な進行胃癌において、 レゴラフェニブはプラセボと比較して、 OSの有意な延長を示した。
💬My Opinions
マルチキナーゼ阻害薬は治療効果が限定的
本試験は、 既治療の進行胃癌におけるレゴラフェニブの意義を確立した第Ⅲ相試験である。 レゴラフェニブは大腸癌や肝細胞癌、 消化管間質腫瘍 (GIST) で用いられる抗癌薬で、 手足症候群や高血圧、 倦怠感等が代表的な有害事象として知られる。 胃癌の後方ラインでは、 現在ではTAS102やイリノテカン等が用いられると考えられるが、 治療効果が限定的な薬剤が多く、 新規治療が求められている。
レゴラフェニブは後治療の選択肢になり得る
レゴラフェニブは作用機序から血管内皮増殖因子 (VEGF) 阻害も有することから、 血管新生阻害薬の前治療歴が与える影響もサブグループ解析で検討されたが、 前治療歴がある群のHRは0.64 (95%CI 0.34-0.84)、 前治療歴がない群のHRは0.78 (95%CI 0.56-1.06) と報告された。 2次治療ではPTX+RAM (パクリタキセル+ラムシルマブ) 療法が用いられる頻度が高いことを考えると、 現状の実臨床においてもレゴラフェニブは後治療での選択肢になり得る薬剤であろう。 レゴラフェニブが使用可能になった場合、 後治療における薬剤シークエンスの最適化が重要な検討課題になり得ると考えられる。
▼背景
進行食道扁平上皮癌において、 PD-1経路阻害薬は生存期間の延長に寄与しているが、 PD-1経路阻害薬投与後の標準治療であるタキサン系薬剤の有効性に関する報告は限定的であることから、 本後ろ向き観察研究が行われた。
▼試験デザイン
本研究は、 進行食道扁平上皮癌でタキサン系薬剤 (パクリタキセルまたはドセタキセル) を投与された症例を対象に、 前治療におけるPD-1経路阻害薬使用の有無で2群にわけて、 奏効割合やPFSの比較を後ろ向きに実施した。
▼試験結果
本研究では、 PD-1経路阻害薬使用 (exposed) 群に32例が、 PD-1経路阻害薬未使用 (naïve) 群に67例の計99例が解析対象として抽出された。
奏効割合はexposed群で37.5%、 naïve群で13.4%と報告され、 統計学的な有意差を認めた (p=0.009)。 ただPFS中央値に関しては、 exposed群で3.8ヵ月、 naïve群で2.8ヵ月と、 統計学的な有意差を認めなかった (HR 1.12、 95%CI 0.65-1.86)。
なお、Grade 3以上の有害事象の発生頻度に関しては、 exposed群で45.8%、 naïve群で40.3%と同様であった。
▼結論
本研究では、 進行食道扁平上皮癌において、 PD-1経路阻害薬後のタキサン系薬剤の投与によって奏効割合の改善が認められたが、 PD-1経路阻害薬の有無による生存期間への寄与は認められなかった。
💬My Opinions
ICI後の殺細胞性抗癌薬の生存への寄与は乏しい
本研究は、 ICI後の殺細胞性抗癌薬の有効性改善の有無を食道扁平上皮癌で検討した単施設後ろ向き解析である。 研究のデザイン上、 さまざまなバイアスが入り得る余地があるが、 他癌種においてもICI後の殺細胞性抗癌薬は短期的な奏効は改善するが、 生存への寄与は乏しいとされており、 それを食道扁平上皮癌でも示唆した点で重要な報告である。 この乖離が生じる理由の一つとしては、 ICIの血中半減期の影響が考えられている。
奏効とPFSの乖離について検討が待たれる
ただ現在ではICI単剤のみでなく、 食道扁平上皮癌の1次療法ではNivo+Ipi (ニボルマブ+イピリムマブ) 療法が実臨床で使用可能となっている。 この治療レジメンの特徴は長期奏効であり、 4年で約20%の生存割合が報告されている。 しかし、 Nivo+Ipi療法のPFSは若干短い傾向が報告されており、 この乖離に関する検討が待たれる。
今年もあと2ヵ月であり、 家庭や仕事などに焦りが出てくる今日この頃である。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。