HER2陽性胃癌-実臨床におけるエビデンスと将来の展望② : トラスツズマブの安全管理
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HOKUTO編集部

10日前

HER2陽性胃癌-実臨床におけるエビデンスと将来の展望② : トラスツズマブの安全管理

HER2陽性胃癌-実臨床におけるエビデンスと将来の展望② : トラスツズマブの安全管理
HER2陽性胃癌に関する最新の試験結果や治療について専門医の視点から解説する新シリーズです。 ぜひ臨床でご活用ください (解説医: 国立癌研究センター中央病院薬剤部 田内淳子先生)。

解説

HER2陽性胃癌-実臨床におけるエビデンスと将来の展望② : トラスツズマブの安全管理

はじめに

切除不能な進行胃癌の治療戦略は、 以前に比してこの10年で多様化しており、 初回治療開始前にバイオマーカー (HER2、 CLDN18.2、 PD-L1 CPS、 MSI) を可能な限り評価した上で、 個別に治療戦略を検討している。 その中でも、 HER2は切除不能な進行胃癌の約20%で陽性となる分子で、 こちらを標的とした分子標的薬であるトラスツズマブがHER2陽性胃癌の1次治療におけるキードラッグである。 本稿では、 トラスツズマブの副作用管理について解説する。

トラスツズマブの有効性

トラスツズマブは、 国際共同第Ⅲ相試験であるToGA試験¹⁾においては、 XP (カペシタビン+シスプラチン) 療法またはFP (フルオロウラシル+シスプラチン) 療法との併用で有効性が証明され、 本邦で使用可能となった。 また当時、 国内で頻用されていたSP (S-1+シスプラチン) 療法との併用も国内第Ⅱ相試験であるHERBIS-1試験²⁾で検討され、 有効性が報告された。

しかし現在では白金製剤であるオキサリプラチンベースの治療選択が主流であり、 国内第Ⅱ相試験であるHIGHSOX試験³⁾においてはSOX (S-1+オキサリプラチン) 療法との併用で、 海外第Ⅱ相試験ではCAPOX (カペシタビン+オキサリプラチン) 療法との併用で、 それぞれ有効性が報告されている⁴⁾。

HER2陽性胃癌-実臨床におけるエビデンスと将来の展望② : トラスツズマブの安全管理
Tmab:トラスツズマブ
著者提供資料を基に編集部作成

トラスツズマブの投与方法

初回は8㎎/kgを90分かけて点滴静注し、 2回目以降は6㎎/kgを90分以上かけて3週間間隔で点滴静注する。 副作用などの理由で投与予定日より1週間を超えた後に投与する際は、 改めて初回投与量の8mg/kgで投与する⁵⁾。

トラスツズマブの副作用

代表的な副作用としてインフュージョンリアクションがある。 また、 頻度は低いが心毒性にも注意が必要である。

1 インフュージョンリアクション

インフュージョンリアクションは、 主に抗体注入時にみられる急性期の過敏反応の一つである。 薬剤投与中もしくは投与開始後24時間以内に現れる反応で、 ほとんどが初回投与時に生じる⁵⁾。

ToGA試験における投与コースごとのインフュージョンリアクションの発現状況 (全症例)
HER2陽性胃癌-実臨床におけるエビデンスと将来の展望② : トラスツズマブの安全管理
Tmab:トラスツズマブ、Cape:カペシタビン、CDDP:シスプラチン
著者提供資料を基に編集部作成
ToGA試験における投与コースごとのインフュージョンリアクションの発現状況 (国内症例)
HER2陽性胃癌-実臨床におけるエビデンスと将来の展望② : トラスツズマブの安全管理
Tmab:トラスツズマブ、Cape:カペシタビン、CDDP:シスプラチン
著者提供資料を基に編集部作成

▼発熱・悪寒・悪心・めまいが代表的な症状

多くが軽症~中等症で、 発熱・悪寒・悪心・めまいなどが代表的な身体症状である。 しかし、 重症の場合、 アナフィラキシー様症状・呼吸困難・低酸素血症など、 致命的な病態を呈し得る。 そのような背景から、 発現頻度が高い初回投与時は、 バイタル測定や所見の確認を通して全身状態をモニタリングすべきである。

▼インフュージョンリアクションを認めたら投与を中止

上記の症状を認めた場合、 ただちにトラスツズマブの投与を中止し、 バイタルサインの測定を行う。

軽度~中等度の場合は解熱鎮痛剤、 抗ヒスタミン剤等を投与する。 症状消失後は点滴速度を減速することで再投与を検討する。 重症の場合は症状やバイタルサインに応じて酸素吸入や補液投与、 副腎皮質ホルモン投与、 アドレナリン投与などの適切な処置を行う。

2 心障害

HER2は心筋細胞にも発現しており、 抗HER2抗体のトラスツズマブは心保護作用を阻害することで心障害を引き起こし得る。

トラスツズマブによる心障害で典型的な病態は左室駆出率低下 (LVEF) であるが、 時に心不全や不整脈を起こすこともある。 ToGA試験における心障害の発現頻度は6% (LVEF低下など心機能低下は約5%、 心不全や心虚血は約1%)。

重篤な心障害がある患者には投与禁忌であり、 投与前から心機能の低下がある患者へ投与する際には循環器医との協議の上での慎重な投与が推奨される。

▼投与開始前にはLVEFの評価と不整脈を確認

LVEFが最も重要な指標である (ToGA試験における患者選択基準はLVEF 50%以上)。 トラスツズマブ投与開始前には、 心エコー検査や心電図検査からLVEFの評価と不整脈の有無を確認し、 問診で心疾患の既往も確認する。

トラスツズマブの心毒性発症リスク因子として、 乳癌における検討では、 高齢、 ベースラインの心機能、 アントラサイクリン系薬の投与歴、 心血管イベントに関連する既往 (冠動脈疾患、 心房細動、 高血圧、 腎不全、 糖尿病) などが報告されており⁶⁾、 ToGA試験での解析でも、 高脂血症の既往、 高血圧の既往、 BMI 25以上が報告されている。

トラスツズマブ投与中は、 原則として3ヵ月に1回、 心エコー検査等によるLVEFの測定と評価を行う。 また、 患者の自覚症状 (動悸・ 息切れ・頻脈など) を外来時にチェックするとともに、 必要に応じて心電図検査や胸部レントゲン検査等による評価も行うことで早期発見、 早期治療に繋げることができる。

▼LVEFが45%未満に低下したら休薬を検討

LVEFが45%未満に低下した際は、 ①LVEFが39%以下の場合、 ②40%≦LVEF<45%で初回投与前値よりも10%以上低下した場合、 のいずれかに当てはまればトラスツズマブを休薬する。

※トラスツズマブによる心機能障害は一般に可逆性のため、 休薬することで心機能の改善が期待できる。

おわりに

HER2陽性の進行胃癌においては、 トラスツズマブの実臨床への応用によって生存期間の改善が得られた。 トラスツズマブ関連の有害事象の発現頻度は限定的ではあるが、 時にインフュージョンリアクションや心機能低下をきたすことから、 使用にあたっては適切なマネジメントが必要である。

出典

  1. Lancet. 2010 Aug 28;376(9742):687-97.
  2. Br J Cancer. 2014 Mar 4;110(5):1163-8.
  3. Gastric Cancer. 2019 Nov;22(6):1238-1246.
  4. Eur J Cancer. 2015 Mar;51(4):482-488.
  5. 中外製薬. ハーセプチン適正使用ガイド.
  6. J Am Heart Assoc. 2014 Feb 28;3(1):e000472.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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