化学療法未治療の進行非扁平上皮非小細胞肺癌(NSCLC)でKRAS G12C変異陽性の患者を対照に、 KRAS G12C阻害薬ソトラシブ+カルボプラチン(CBDCA)+ペメトレキセド(PEM)併用療法の有効性および安全性を検証した単群第Ⅱ相試験SCARLET(WJOG14821L)の結果から、 主要評価項目の全奏効率(ORR) を含む良好な成績が示された。
2023年6月2~6日に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023)において、 和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科准教授の赤松弘朗氏が発表した。
SCARLET試験の概要
対象の主な適格基準
- 進行非扁平上皮NSCLC
- KRAS G12C変異陽性
- 殺細胞性抗癌薬およびKRAS阻害薬が未治療
- 測定可能病変を有する
- ECOG PS 0-1
- 症候性脳転移(CNS)は許容
方法
- ソトラシブ (960mg) +CBDCA(AUC 5)/PEM(500mg/m²)併用療法を3週ごとに4サイクル施行後、 ソトラシブ+PEM併用療法を3週ごとに病勢進行(PD)を認めるまで投与。
- 血漿サンプルを用いて、 ベースライン時、 試験開始後3週時、 PD時において、 次世代シーケンサーを用いた解析が行われた。
- 目標症例数は30例。
評価項目
- 主要評価項目:盲検独立中央判定(BICR)によるORR
- 副次評価項目:病勢制御率(DCR)、 無増悪生存期間(PFS)、 持続奏効期間(DOR)、 全生存期間(OS)、 安全性
SCARLET試験の結果
2021年10月~2022年7月に30例が登録。
- うち29例で安全性、 27例で有効性が評価された。
患者背景
- 年齢中央値:70歳(範囲40~79歳)
- 男性/女性:25例/5例
- 喫煙歴 有/無:1例/29例
- ECOG PS 0/1:11例/19例
- PD-L1発現 50%以上/1~49%/1%未満:15例/10例/5例
- 病期 ⅣA/ⅣB/再発:9例/16例/5例
- CNS 有/無:7例/23例
- 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の治療歴 有/無:2例/28例
ORR(独立判定)
88.9%(80%CI 78.5-94.8%、 95%CI 70.8-97.6%)
- PR 24例、 SD 1例、 PD 2例
- PD-L1の発現状況別に見たサブグループ解析でもORRに差は認められず、 いずれのグループでも良好な成績を認めた。
- 50%以上/1~49%/1%未満:76.9%/100%/100%
PFS
- BICR評価:中央値5.7カ月、 6カ月時PFSは49.6%
- 担当医評価:中央値7.6カ月、 6カ月時PFSは56.7%
OS
中央値は未到達。 6カ月時OSは87.0%
有害事象(AE)
- グレード3以上のAEのほとんどは血液学的毒性であり、 主なものは以下のとおり。
- 貧血(37.9%)、 血小板数減少(24.1%)、 好中球減少(24.1%)、 白血球減少(20.7%)、 好中球減少(10.3%)、
- 治療関連死を1例(肺炎)に認めた。
血漿検体の解析結果
- ベースライン時に70.3%の血漿検体でKRAS G12C変異陽性であり、 最も多く併発が認められた遺伝子変異はTP53(44.4%)だった。 そのほかに、 STK11、 CDKN2A、 KEAP1、 BRAF、 EGFR増幅、 MET増幅などを認めた。
- 治療開始後3週時には、 血漿中のKRAS G12C変異は50%の患者で検出された。 これらの患者ではORRが低い傾向を認めた。
- TP53の遺伝子異常によるORRの違いは認められなかった。
赤松氏らの結論
ソトラシブ+CBDCA/PEM併用療法は、 進行非扁平上皮NSCLCでKRAS G12C変異陽性例の一次治療において、 良好なORRを達成し、 また忍容性も良好であった。
専門医コメント「私はこう考える」
PFSアップデートの成績が今後の焦点に
EGFR遺伝子変異陽性例ではオシメルチニブとプラチナ併用療法を同時に行うことでPFSの延長が報告されています (FLAURA2試験)。 同様の併用についてKRAS G12C陽性で検討したものが、 SCARLET試験となります。
今回、 奏効率は約90%と非常に高いのですが、 観察期間が4カ月と短く、 PFSがどの程度になるかが今後の焦点です。 アップデートの解析を来年には公表できる見通しで準備を進めています。