寄稿ライター
13日前
こんにちは、 Dr.Genjohです。 財務省の資料から我々保険医の将来を占う短期集中シリーズ 「医師の黄昏~氷河期の到来~」。 第9回では、 高額医療費について考察します。
財務省の資料 「社会保障」 はコチラ。
政府が高額療養費の自己負担額上限額を引き上げようとした結果、 世論の猛反発にあい、 当面の見送りとなったことは記憶に新しいと思います。
自分や家族の食い扶持を稼がなくてはならない現役世代が、 大病を患って収入が不安定になった際に大きな支えとなるのが高額療養費の自己負担上限です。 その自己負担上限額が段階的に上昇し、 2027年に年収額によっては現行の1.5倍程度にもなる大きな改定でした。
【資料1】は全国保険医団体連合会の資料*¹⁾です。 多回数該当(12か月以内に4回以上、 上限額に到達)の際には自己負担が下がりますが、 その場合でも現行の多回数該当の1.5倍程度となり、 自己負担の大幅な増額となります。
もしこの改定が実現されれば、 「子供の未来のために、 死を覚悟してでも自分の治療を諦めなければならない」 というがん患者さんの声も数多聴かれました。
居ても立っても居られず、 当時筆者は改定に反対する署名に名を連ねました。
高額療養費の見直しは2025年1月23日に公表されました。 一方、 2024年11月13日に財務省が公表した 「社会保障」 資料には既に、 高額療養費制度の改定を示唆する資料が含まれていました【資料2】。
つまり、 思いつきの政策ではなく、 財務省が裏で糸を引いていたのです。
実際、 高額療養費の支給総額は右肩上がりであり、 その財源をどこに求めるかは確かに難しい問題です。 財務省は、 医療費が増加する一方、 高額療養費制度により患者負担が抑えられてきたことなどにより、 患者の実効負担率が低下しているという点に着目したわけです。
実はこの高額医療費負担金、 財務省内では最終的に廃止まで検討されています。
その言い分はこうです。
◯もともと1件当たり80万円超の高額医療費が発生した場合、 それを抱える小規模な市町村国保の財政が破綻しないように国が中心になって支えることが高額療養費制度の目標だった
◯2030年に国民健康保険の保険料水準が納付金ベースで統一されれば、 中規模な都道府県単位で市町村の財政を公平に支えることになるから、 その役割は終わる
◯国が主体となる高額療養費制度を無くしてもいい
自治体ごとの不公平性が平坦化されたならば、 本当に高額療養費制度を無くしても良いのでしょうか?中規模自治体に過ぎない都道府県が、 国レベルの高額医療費負担制度に代替するものを用意できるのでしょうか?
高額療養費制度の存在を前提として治療を継続できている個人はどうなるのでしょうか?
コストカットに走るあまり、 国民の健康、 生きる権利を蔑ろにし過ぎだと言わざるを得ません。
高額医療費の自己負担額が増加した場合に起こることは明白で、 金銭的な理由による治療控え、 検査控え、 受診控えです。
集学的治療による入院治療や、 通院による抗がん剤・生物学的製剤など高額な治療を主に取り扱っているのは診療所レベルの開業医ではなく、 基幹病院レベルの勤務医です。
高額療養費制度の抑制によって、 その売り上げに影響を受けるのは主に基幹病院となるでしょう。 その結果、 病院経営に如何ほどの影響があるかは未知数ですが、 少なくとも良い影響ではなさそうです。
今回は揺れる高額医療費についてお話しました。
次回は広がる世代間格差の実情についてお話します。
¹⁾ 全国保険医団体連合会 : 全世代を直撃する高額療養費の大改悪 厚労大臣 「患者団体のヒアリング実施しない」 (2025/1/10)
Xアカウント : @DrGenjoh
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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