HOKUTO編集部
2ヶ月前
今年の9月は昨年以上の残暑が続いており、 いつになったら秋が来るのか…と思いながら日々臨床、 研究、 教育に従事する日々が続いている。 また今年は欧州臨床腫瘍学会 (ESMO2024) が9月に開催され、 消化器癌治療の領域において重要なデータが複数報告された。
今月は、 ESMO2024でも発表された、
❶第Ⅲ相試験TOPGEAR
切除可能な局所進行胃癌に対する術前化学放射線療法 (CRT)
❷第Ⅲ相試験KEYNOTE-811のOS最終解析
HER2陽性胃癌の初回薬物療法への抗PD-1抗体ペムブロリズマブの上乗せ
❸第Ⅲ相試験CABINET
既治療の進行神経内分泌腫瘍 (NET) に対するマルチキナーゼ阻害薬カボザンチニブ
の3論文を取り上げる。
▼背景
欧米諸国においては、 切除可能な局所進行胃癌に対する標準的な周術期治療は、 術前後の化学療法である。 食道癌のように、 術前CRTも検討され得るが、 術前後の化学療法と比較した場合の知見は乏しい。 そのため、 切除可能な局所進行胃癌における術前CRTの意義を検証する第Ⅲ相試験としてTOPGEARが行われた。
▼試験デザイン
TOPGEAR試験は国際共同無作為化第Ⅲ相試験であり、 切除可能な胃癌または食道胃接合部癌を対象として、 術前後のFLOT (フルオロウラシル、 ロイコボリン、 オキサリプラチン、 ドセタキセル) 療法またはECF/ECX (エピルビシン、 シスプラチン、 フルオロウラシルまたはカペシタビン) 療法が対照群、 さらに術前CRT (5-FU+45Gy) を上乗せした周術期治療が試験治療群と設定された。 主要評価項目は全生存期間 (OS) であり、 副次評価項目は無増悪生存期間 (PFS)、 病理学的完全奏効 (pCR)、 安全性などであった。
▼試験結果
574例が登録され、 286例が試験治療群に、 288例が対照群に割り付けられた。 患者背景は両群間で同様であった。
主要評価項目であるOS中央値に関しては、 試験治療群で46ヵ月、 対照群で49ヵ月と両群で有意差を認めなかった (HR 1.05、 95%CI 0.83~1.31)。 またPFS中央値も試験治療群で31ヵ月、 対照群で32ヵ月と同様であった。 一方、 副次評価項目であるpCR割合に関しては、 試験治療群が17%と、 対照群の8%に対し良好であった。
治療関連有害事象については、 両群ともに同様であった。
▼結論
TOPGEAR試験では、 切除可能な局所進行胃癌に対して、 術前後の化学療法に術前CRTを上乗せすることで、 OSの改善は得られなかった。
💬My Opinions
周術期ではICI上乗せの方が有望の可能性
本試験は、 胃癌において、 術前後の化学療法をベースに、 術前CRTを上乗せした際の意義を検証した第Ⅲ相試験である。 既にNeo-AEGIS試験やESOPEC試験から、 腺癌においては食道癌のCROSS試験のような術前CRTの意義が乏しい可能性が示唆されていたが、 今回は術前後の化学療法に上乗せした場合でも同様の結果となった。 そのため、 手術を前提とした治療戦略を検討する場合、 術前CRTを上乗せするのではなく、 MATTERHORN試験のように、 周術期に免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) を加える方が有望な可能性が考えられる。
臓器機能温存を目指す場合はCRTが有望か
ただし、 本試験で全ての胃癌や食道胃接合部癌におけるCRTが否定されたわけでなく、 臓器機能温存を目指す場合、 SANO試験のような治療戦略は有望な可能性がある。 そのため、 CRTを行うのに適切な対象の選定や、 その場合の化学療法戦略等は今後の検討課題と言えるであろう。
▼背景
未治療の切除不能なHER2陽性胃癌や食道胃接合部癌を対象に、 トラスツズマブ併用化学療法にペムブロリズマブを上乗せする意義を検証する国際共同第Ⅲ相無作為化比較試験であるKEYNOTE-811については、 主要評価項目であるPFSに関してペムブロリズマブ上乗せの優越性が証明され、 奏効割合の改善が認められたことが既に示されている¹⁾。
特にPD-L1 CPS 1以上の症例で有効性が顕著であり、 この結果から、 HER2陽性かつPD-L1 CPS1以上の症例の1次治療として、 ペムブロリズマブ併用療法が承認された。 本論文においてはKEYNOTE-811試験におけるOSの最終解析が報告された。
▼試験デザイン
350例がペムブロリズマブ併用群に、 348例が対照群に割り付けられた。 患者背景は両群で同様であった。
▼試験結果
追跡期間中央値50.2ヵ月における解析で、 全体集団のOS中央値はペムブロリズマブ併用群で20.0ヵ月、 対照群で16.8ヵ月であり、 ペムブロリズマブ上乗せの優越性が証明された (HR 0.80、 95%CI 0.67~0.94)。
またPD-L1 CPS1以上の集団においては、 OS中央値がペムブロリズマブ併用群で20.1ヵ月、 対照群で15.7ヵ月であり、 こちらでもペムブロリズマブ上乗せの有効性が示唆された (HR 0.79、 95%CI 0.66~0.95)。
安全性に関しては、 Grade 3以上の有害事象発生割合がペムブロリズマブ併用群で59%、 対照群で51%と報告され、 新たな有害事象の報告は認められなかった。
▼結論
KEYNOTE-811試験では、 未治療の切除不能なHER2陽性胃癌において、 初回の3剤併用療法にペムブロリズマブを上乗せすることで有意なOS延長が示された。
💬My Opinions
HER2陽性胃癌の標準治療になり得るレジメン
本試験は、 HER2陽性胃癌の1次治療におけるICI上乗せの意義を確立したピボタル試験である。 昨年のESMO 2023の段階でPFSの有意な延長が示されていたが、 OSに関しては最終報告がなされておらず、 本邦での承認に繋がり得る重要なデータと考えられたことから、 発表前から注目されていた。 全体集団のOSで優越性を証明したことから、 今後のHER2陽性胃癌の初回標準治療となり得ると考えられる。
PD-L1 CPS1未満では上乗せ効果が乏しいか
一方で、 KEYNOTE-811試験のPD-L1 CPS1未満におけるサブ解析では、 OSのHRは1.10 (95%CI 0.72~1.68) とペムブロリズマブの上乗せ効果が乏しい可能性が示唆されていることから、 PD-L1 CPSによる使い分けをどこまで行うべきか、 実臨床における重要な議論のポイントになり得ると考えられる。
▼背景
進行NETに対する治療選択肢は限られており、 そのような中、 カボザンチニブは第Ⅱ相試験で有効性が示唆されていた。 そこで、 カボザンチニブの有効性を検証するため、 既治療の進行NETを対象として、 無作為化第Ⅲ相試験であるCABINET試験が行われた。
▼試験デザイン
CABINET試験は2つの独立したコホートからなり、 ひとつは膵外NET、 もうひとつは膵NETのコホートと設定された。 対象はペプチド受容体放射線核種療法 (PRRT) や分子標的薬などの治療歴のあるNETとされ、 両コホートとも、 2 : 1の割合で、 カボザンチニブ群とプラセボ群に割り付けられた。
主要評価項目は中央判定によるPFS、 重要な副次評価項目は奏効割合とOS、 安全性と設定された。
▼試験結果
CABINET試験の膵外NETコホートには203例が登録され、 PFS中央値は、 カボザンチニブ群で8.4ヵ月(95%CI 7.6~12.7ヵ月)であり、 プラセボ群の3.9ヵ月(同3.0~5.7ヵ月)に比して優越性が証明された(HR 0.38、 同0.25~0.59)。
膵NETコホートには95例が登録され、 PFS中央値は、 カボザンチニブ群で13.8ヵ月(95%CI 9.2~18.5ヵ月)と、 プラセボ群の4.4ヵ月(同3.0~5.9ヵ月)に比してこちらでも優越性が証明された(HR 0.23、 同0.12~0.42])。 奏効割合はカボザンチニブ群で5% (膵外NETコホート) と19% (膵NETコホート) に対して、 プラセボ群はどちらも0%であった。
安全性に関しては、 Grade3以上の治療関連有害事象は、 カボザンチニブ群でそれぞれ62% (膵外NETコホート) と65% (膵NETコホート)、 プラセボ群で27% (膵外NETコホート)、 23% (膵NETコホート) であり、 頻度の高いGrade 3以上の有害事象は、 高血圧や疲労、 下痢、 血栓症であった。
▼結論
CABINET試験では、 既治療の進行NETにおいて、 カボザンチニブはプラセボと比較して、 PFSの有意な延長を証明した。
💬My Opinions
進行NETの新たな選択肢だが、 本邦では困難
本試験は、 進行NETにおいて、 カボザンチニブの意義を確立したピボタル試験である。 NETに対して本邦で使用可能な分子標的薬はエベロリムスとスニチニブのみで、 特にスニチニブは膵NETのみで有効性が証明されており、 膵外NETの一部である消化管NETにおいてはエベロリムスのみと、 非常に治療選択肢が限られている。 そのような中で、 新しいマルチキナーゼ阻害薬が有効性を証明したことは喜ばしいが、 CABINET試験は米国のみで実施された試験であることから、 わが国で使用するためには、 本邦においてカボザンチニブの臨床研究が必要になると考えられる。
10月は暑さも和らいで過ごしやすい季節になることを願いながら、 年始の米国臨床腫瘍学会 消化器癌シンポジウム (ASCO-GI) の抄録作成に追われる今日この頃である。
切除可能胃癌の術前・術後化学療法に術前CRTを上乗せしてもOS改善せず
未治療胃癌へのトラスツズマブ+Chemo+ペムブロリズマブで死亡リスク20%低減
切除可能局所進行食道腺癌への周術期FLOT、 術前CRTに比べOS改善
本稿では食道胃接合部腺癌の治療戦略について、 ガイドラインなどの現状のエビデンスを中心に概説するシリーズです (解説医師 : 国立癌研究センター中央病院頭頸部・食道内科/消化管内科 山本駿先生)。
第1回
第2回
第3回
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。