HOKUTO編集部
2ヶ月前
ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬であるピルトブルチニブ (商品名ジャイパーカ) が、 「他のBTK阻害薬に抵抗性または不耐容の再発または難治性のマントル細胞リンパ腫」を適応に、 2024年6月24日に本邦で承認、 8月21日に発売された。 同薬については、 国内では日本イーライリリーが製品供給を担当し、 日本新薬が流通・販売を担う。 今月に開催された日本新薬主催のメディアセミナーでは、 がん研究会有明病院血液腫瘍科部長の丸山大氏が、 マントル細胞リンパ腫 (MCL) の新たな治療選択肢となった同薬の作用機序や有効性等について解説した。
すべてのリンパ腫の7~8% (欧米)、 2~3% (日本) を占めるMCLは、 治癒が難しいとされ、 多くの患者で2次治療、 あるいは3次治療が必要となる。 こうした再発・難治性MCLに対しては、 現行の「造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版」では、
-が横並びで推奨されている。
①~④のうち、 どの薬剤をどのような順番で使うべきかというエビデンスは十分にない。 「患者の全身状態や治療歴などを踏まえて、 担当医が各々判断しているというのが現状だ」という (丸山氏)。
BTK阻害薬については、 B細胞受容体 (BCR) のシグナル伝達経路を阻害する治療開発の中で最も開発が進んでいる薬剤であり、 近年MCL治療の中で重要な位置付けを占めつつある。 そのBTK阻害薬で最も早期に臨床導入されたのが、 共有結合型BTK阻害薬イブルチニブである。
イブルチニブは、 再発・抵抗性MCLに対する同薬の3件の臨床試験のプール解析の結果から、 再発・抵抗性の早い段階 (2次治療) での使用で、 より効果が期待できることが報告されている¹⁾。 これを受け、 現在の実臨床では、 イブルチニブは2次治療あるいは3次治療の早い段階で使用されているのが現状だ。 ただし、 イブルチニブ中止後の次治療についての選択は、 有効な選択肢に乏しく、 アンメットニーズの領域であった。
そのような中で、 他のBTK阻害薬に抵抗性または不耐容の患者に対する新たな選択肢ととして今回新たに登場したのが、 ピルトブルチニブである。
イブルチニブとピルトブルチニブは同じBTK阻害薬であるが、 イブルチニブを含む既存の共有結合型BTK阻害薬はBTKのATP結合ポケット内にあるC481に共有結合し、 腫瘍細胞の増殖を抑制する。
これに対し、 ピルトブルチニブは、 C481を介さずに異なる複数のアミノ酸に非共有結合する。 丸山氏は「C481の変異は共有結合型BTK阻害薬の主な耐性機序として知られていることから、 非共有結合型BTK阻害薬であるピルトブルチニブは、 既存の共有結合型BTK阻害薬の耐性を克服できることが大きな特徴といえる」と説明した。
また丸山氏は、 ピルトブルチニブのもう1つの特徴として、 「BTKに対する選択性が高い²⁾」ことをあげた。
現在複数あるBTK阻害薬はそれぞれの阻害するキナーゼの種類や程度が異なり、 BTKに対する作用 (on-target effect) とBTK以外に対する作用 (off-target effect) があり、 有害事象の発現にも影響する。 その中で、 ピルトブルチニブはBTKが主な阻害活性であり、 BTKへの選択性がより高いことが示されていることから、 off-target effectが少ないことが期待される²⁾³⁾。
ピルトブルチニブの国内承認の根拠となったのは、 BTK阻害薬を含む前治療歴を有するマントル細胞リンパ腫を含むB細胞性非ホジキンリン腫患者を対象とした、 日本も参加した国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験BRUIN-18001である⁴⁾。
同試験の主要評価項目である奏効率は56.9% (95%CI 44.0-69.2%) で、 うちCRは20.0%だった。 丸山氏は「単剤の治療成績としては、 良好な成績である印象を持つ」と述べた。 なお日本人患者は8例のみだったが、 うち4例に奏効を認め、 2例でCRを認めた。
また副次評価項目である奏効期間中央値は未到達 (95%CI 8.31ヵ月-未到達[NR])、 無増悪生存期間 (PFS) 中央値は6.90ヵ月 (同3.98ヵ月-NR)、 全生存期間 (OS) の中央値はNR (同13.34ヵ月-NR) だった。 同氏は「奏効が得られた患者では、 比較的長期の奏効が得られていることが、 ピルトブルチニブの一つの特徴といえるだろう」と考察した。
有害事象 (AE) については、 安全性解析対象集団の93.9% (725例中681例) にAEが認められた。 15%以上の発現を認めたAEは、 疲労26.3% (191例)、 下痢22.1% (160例)、 挫傷19.0% (138例) だった。 重大なAEとしては、 感染症、 出血および骨髄抑制が報告されている。 感染症については、 新型コロナウイルス感染症時代を背景にしたものもあり、 一般的な感染症としての発現であると考えられるという (丸山氏)。
最後に同氏は「治癒困難な再発・難治MCL患者に対して、 新規薬剤が登場し、 しかも既存薬剤の耐性が生じたあとにも一定の効果が期待できることは患者および医療現場においては福音であると考える」と述べた。
¹⁾ Haematologica. 2019 May;104(5):e211-e214
²⁾ Blood. 2023 Jul 6;142(1):62-72.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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