HOKUTO編集部
2ヶ月前
本連載は4人の腫瘍内科医による共同企画です。 がん診療専門医でない方でもちょっとしたヒントが得られるようなエッセンスをお届けします。 第16回は虎の門病院・山口雄先生から、 「抗がん薬の減量に不安を抱く患者さんへの伝え方」 です! ぜひご一読ください。
腎癌の患者さんで、 マルチキナーゼ阻害薬カボザンチニブによる治療を受けている方がいました。 治療意欲が高く、 効果のためなら、 副作用は我慢するタイプの方でした。 しかし治療開始1ヵ月後、 手足症候群が悪化して歩行にも支障をきたし、 趣味のゴルフも満足にできなくなってきたため、 こちらからカボザンチニブの減量を提案しました。 しかし患者さんは減量に難色を示し、 「もう少し今の量で続けたい」 と希望されました。
減量基準などを説明し、 その必要性を伝えても患者さんがなかなか抗がん薬の減量に同意せず、 困った経験はないでしょうか?
多くの患者さんは、 減量することで治療効果が落ちることを心配しています。 確かに安易な減量は治療強度を低下させ、 予後の悪化に繋がることが明らかにされています¹⁾。
しかし、 いくつかの薬剤では、 一定以上の有害事象が起こった場合に減量したとしても予後を悪化させないことが示されています²⁾³⁾。 このような情報を伝えつつ、 「副作用を我慢しながら無理して治療を続ける必要はない」 ことを説明します。
また抗がん薬の投与量は、 早期臨床試験において、 限られた人達で検討・設定されたに過ぎません。 したがって、 治療を開始し、 副作用を観察しながら減量するのは当然といえます。
「減量する」 ではなく 「適切な量に調節する」 と伝えることで、 患者さんが納得感を得られやすいかもしれません。
CDK4/6阻害薬アベマシクリブ、 カボザンチニブ、 マルチキナーゼ阻害薬レンバチニブなど、 いくつかの薬剤では、 減量する可能性が高いものがあります。 このような薬剤で治療を開始するとき、 事前に伝えておくことで、 いざ減量が必要になったときに、 患者さんのショックを和らげることができます。
患者さんが想像しやすいように、 臨床研究における減量割合を具体的に伝えると良いと思います。
注意すべき点は、 日本人における抗がん薬投与時の副作用発現率・減量割合は欧米人と比較して高い場合が多いということです。 例えばカボザンチニブの場合、 海外で行われた第Ⅲ相非盲検無作為化比較試験METEORでは減量割合が62%であったのに対して⁴⁾、 日本で行われた第Ⅱ相試験においては、 減量を要した患者割合は91%でした⁵⁾。
したがって、 使用する薬剤に関しては"日本人における副作用はどうか"を意識して調べる必要があります。
冒頭の患者さんは、 以下のような内容をまじえて説明し、 最終的には減量に同意され、 その後も長期に治療継続することができました。
「副作用が強くでているということは、 現在の量が過剰であると考えられます」
「減量するというよりは、 あなたの体にあった適切な量に調整するという感じです」
「いくつかの薬剤では、 減量したとしても、 効果は必ずしも低下しないといわれていますので、 ご安心ください」
「あなただけでなく、 カボザンチニブで治療している患者さんの9割で減量が必要になりますので、 珍しいことではありません」
がんが進行した際に、 「あの時、 減量したから進行してしまったんだ」 と患者さんが思わないよう、 抗がん薬の減量について上手に伝えていきたいですね。
¹⁾ J Natl Compr Canc Netw. 2009;7(1):99-108.
²⁾ NPJ Breast Cancer. 2024;10(1):34.
³⁾ BMC Cancer. 2022;22(1):228.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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