HOKUTO編集部
7ヶ月前
本連載は4人の腫瘍内科医による共同企画です。 がん診療専門医でない方でもちょっとしたヒントが得られるようなエッセンスをお届けします。 第10回は虎の門病院・山口雄先生から 「がん患者さんへの予後告知」 についてです! ぜひご一読ください。
進行がんの病状説明時には、 治癒困難な状態やいつかはがんが命にかかわることなどを説明します。 その際、 予後についてはどのように伝えているでしょうか?
これまでに行われた臨床研究のデータに基づいた生存期間中央値を参考にして、 下記のような説明をしている先生がいらっしゃるかもしれません。
👨⚕️医師
「あなたの余命は治療をやらなければ平均6ヵ月くらい、 治療をやれば平均12ヵ月くらいになると思います」
上記のような説明を聞いた患者さんの中には、
👨🦳患者さん
「余命半年と言われた。 治療をやっても、 あと1年だって……」
とショックを受けてしまう方や
「治療をはじめて10ヵ月経って、 まだまだ元気だけど、 あと2ヵ月後には死んじゃうのかな」
と、 余命宣告の数字をずっと気にされてしまう方もいます。
我々が扱う言葉は、 患者さんに大きな影響を与えます。 患者さんに予後を伝える場合、 どうすれば良いのでしょうか?
大前提として、 診断の時点で目の前の患者さんの予後を正確にあてるのは困難です。 残された時間が数日~1ヵ月程度の状況であれば予測が当たる場合もありますが、 診断時点では不可能といえるでしょう。 予後は、 その後に行われる治療の効果、 がんの進行スピードなど、 さまざまな因子に影響を受けるためです。
医師の予後予測の多くが外れることを示した研究もあります¹⁾。 まずは患者さんに、 そのことを説明し理解していただく必要があります。
👨⚕️医師
「これからお話しする数値は、 これまでの研究結果から得られたものになりますが、 あくまで参考値と考えてください。 その数値があなたの残された時間というわけではありませんし、 大きく外れる場合も多々あります」
予後の伝え方に関して、 確実に正解といえる方法はありません。 私自身も、 これまで色々と模索しながら、 伝え方を変えています。 1つの方法として以下のようなものがあります。
まず、 下図のような生存曲線を説明用紙に書いて、 生存期間中央値を書き込みます。 患者さんに用紙をお見せして、 縦軸が生存率、 横軸が時間経過であることを伝えます。
👨⚕️医師
「あなたと同じような状況の方が100人いるとします」
「病気の進行スピード、 抗がん薬の効き具合はさまざまですが、 100人中50人は12ヵ月までに残念ながら亡くなってしまいます」
「一方で残りの50人は12ヵ月を超えても病気と付きあっていけています。 現時点で、 あなたがどちらの50人に入るかは分かりません」
「まずは、 この12ヵ月を超えられるよう一緒に協力して頑張っていきましょう」
💬腫瘍内科医のTips
予後告知は、 どのような方法で伝えても患者さんにとって心理的な負担が大きいものです。 ですので、 患者さんの気持ちを支えるような言葉を最後に付け加えることも忘れてはいけません。
また、 以下のように 「best」 「worst」 「typical」 という3つのシナリオに分けて予後予測を伝える方法も提案されています。
👨⚕️医師
「あなたと同じような状況の方が100人いるとします」
【best】 「とても経過が良い5-10%の方は、 3年 (予測生存期間中央値の3倍) を超えて病気と付きあっていけています」
【worst】 「経過が良くない5-10%の方は、 残念ながら3ヵ月以内 (予測生存期間中央値の1/4) に亡くなってしまいます」
【typical】 「中間の経過をたどる50%の方は、 6ヵ月-2年ほど (予測生存期間中央値の1/2~2倍) 病気と付きあっていけます」
この方法は、 生存期間中央値のように点推定値で伝える方法に比べて、 より患者さんに安心感を与え、 希望を奪いにくいことが示されています²⁾。
これらの伝え方以外にも、 「〇〇ヵ月~△△ヵ月」 のように、 数値に幅を持たせた伝え方もあります。 皆さんにも、 予後告知のより良い方法を考えていただきたいと思います。
次回は、 そもそも患者さんに予後を伝えるべきかについて考えてみましょう。
(後編へ続く)
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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