HOKUTO編集部
2ヶ月前
前治療歴のあるHER2陽性進行NSCLC患者における、 HER2特異的チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) ゾンゲルチニブの有効性と安全性について検証した第Ib相試験Beamion LUNG-1の結果より、 チロシンキナーゼドメイン (TKD) 変異を有する患者においてORR71%を達成し、 忍容性も良好であることが示された。 米・University of Texas M.D. Anderson Cancer CenterのJohn V. Heymach氏が発表した。 同詳細はN Engl J Med. 2025年4月28日オンライン版に同時掲載された¹⁾。
HER2遺伝子変異は非小細胞肺癌 (NSCLC) の約2~4%に認められ、 そのうち最も一般的な変異はTKD領域のExon 20挿入変異である。 既存のHER2阻害薬ではEGFR野生型も阻害することによる発疹・下痢などのEGFR関連毒性が課題とされてきた。
ゾンゲルチニブはHER2選択性が高く、 EGFRを温存するよう開発されたTKIであり、 HER2遺伝子変異モデルにおいて有望な抗腫瘍効果が報告されている²⁾。
対象は、 前治療歴のあるHER2遺伝子変異陽性進行性NSCLC患者だった。
本試験はIa相 (用量漸増)、 Ib相 (用量拡大) の2パートに分かれており、 今回は2024年11月29日をデータカットオフ (追跡期間中央値11.3ヵ月) としたコホート1、 3、 5におけるIb相の結果が報告された。
以下のコホート1、 3、 5に対し、 ゾンゲルチニブ 120mgを1日1回投与した。
コホート1およびコホート5の主要評価項目はBICRによるRECIST v1.1に基づいた客観的奏効率 (ORR)、 コホート3の腫瘍評価項目は担当医評価によるORRだった。
副次評価項目は奏効期間 (DoR)、 病勢コントロール率 (DCR)、 無増悪生存期間 (PFS)、 中枢神経系 (CNS) 病変を有する患者のORR・DCRだった。
年齢中央値は62歳、 65歳、 61歳、 女性は68%、 45%、 68%、 アジア人は53%、 45%、 35%だった。 前治療が2ライン数以上だった症例は、 コホート1が39%、 コホート3が60%、 コホート5が84%で、 脳転移を認めた症例はそれぞれ37%、 40%、 74%だった。
コホート1 (TKD変異を有する患者) におけるORRは71%(95%CI 60–80%)で、 うち完全奏効割合 (CR) は7%、 部分奏効割合 (PR) は64%だった。
DCRは96%(同 89–99%)であり、 標的病変の最大腫瘍縮小率の中央値は-43% (範囲 -100~+22%) だった。
コホート1において、 データカットオフ時点で44%が治療継続中であり、 奏効までの期間中央値は1.4ヵ月(範囲 1.1-6.9ヵ月) だった。
DoR中央値は14.1ヵ月 (95%CI 6.9ヵ月-NE) で、 ゾンゲルチニブによる奏効は前回の報告³⁾から持続しており、 奏効した症例の多くは初回評価時に奏効が確認された。
PFS中央値は12.4ヵ月 (95%CI 8.2ヵ月-NE) だった。
コホート1でCNS病変を有する患者27例*の結果、 頭蓋内ORRは41%、 頭蓋内DCRは81%と、 脳転移を有する患者においても、 ゾンゲルチニブの頭蓋内病変への有効性が示唆された。
コホート5 (TKD変異を有し、 HER2標的ADCの投与歴がある患者) におけるORRは48% (95%CI 32-65%) 、 DCRは97% (同 84-99%) だった。 うちトラスツズマブ デルクステカン (T-DXd) の投与歴がある患者のORRは41% (同 23-61%) であり、 ゾンゲルチニブはHER2標的ADCによる前治療歴のある患者においても臨床活性を示した。
ゾンゲルチニブは前臨床試験において、 TKD以外のHER2変異を有する患者に対しても意義のある臨床活性を示したことが報告されている²⁾。
コホート3 (TKD変異のない患者) におけるORRは30% (95%CI 15-52%) 、 DCRは65% (同 43-82%) だった。 遺伝子変異の特徴として、 20例中17例は活性化変異であり、 主な変異はS310F (6例) 、 V659E (6例) だった。
コホート1において、 多くの有害事象 (AE) はGrade 1または2で管理可能だった。 最も多く認められたAEは下痢で、 ほとんどがGrade1/2だった。 主なGrade3以上のAEは、 AST上昇 (5%) 、 ALT上昇 (8%) だった。
用量減量に至ったAE発現率は7%、 治療中止に至ったAE発現率は3%のみだった。 また薬剤性間質性肺疾患 (ILD) の報告はなかった。
Heymach氏は 「前治療歴を有するHER2陽性進行性NSCLCへのゾンゲルチニブは、 臨床的に意義のあるベネフィットを示し、 安全性は管理可能であった。 本試験の結果を踏まえ、 1次治療としてのゾンゲルチニブを標準治療と比較する第III相試験Beamion LUNG-2が計画されている」 と報告した。
¹⁾ NEJM. 2025 Apr 28. Epub ahead of print.
²⁾ Cancer Discov. 2025; 15: 119-38.
³⁾ presented at WCLC, San Diego, 7-10 September, 2024.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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