HOKUTO編集部
1年前
本稿では仮想の症例における 「経過」と「判断のポイント」を提示しながら、 irAE肝炎の特徴や対応法について概説する (解説医師:国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科 横山和樹先生)
💡 ECOG PS 0
💡 特記すべき既往歴なし
緩和的化学療法の1次治療として、 ①ペムブロリズマブ (200mg/body 3週毎) 単剤療法を開始した。 4サイクル目の外来 (②治療開始後9週目) 受診時に、 ③体調変化はないものの、 ④血液検査にて肝胆道系酵素上昇 (AST 1,252 IU/L、 ALT 1,723 IU/L、 T-Bil 3.3mg/dL ALP 4,62IU/L、 γ-GTP 2,094IU/L) を認め、 精査・加療のため緊急入院となった。
① ICIによる肝炎の頻度
ICI単剤療法による肝炎 (全Grade) の頻度は2%未満である。 併用療法の場合、 約17%に上昇するという報告がある¹⁾。
② ICIよる肝炎の出現時期
各irAEの発症時期に関して以下の報告があり²⁾、 肝機能障害出現の発症時期は抗PD-1/PD-L1抗体開始後12.3週 (中央値) とされる。
③ irAE肝炎の症状
多くの患者は無症状である。 MD Andersonがんセンターの後方視的な検討では、 ICI治療が行われた5,762例の癌患者のうち、 100例がirAE肝炎を起こし、 そのうち有症状 (発熱や黄疸など) は16例であった³⁾。
④ ICI開始前・投与中の確認項目
治療開始前には慢性肝疾患 (ウイルス性肝炎、 アルコール性肝炎、 脂肪肝など) の有無を必ず確認する。 また肝機能障害を早期発見できるようAST、 ALT、 γ-GTP、 ALP、 T-Bilを毎回測定する。
肝機能障害を起こす他の疾患を除外するために、 各種血液検査・⑥画像検査を行いつつ、 ⑦肝臓専門医へコンサルトを行った。 血液検査・画像検査から肝機能障害を起こしうる他疾患を除外し、 irAE肝炎と診断した。 ⑧生検は専門医と相談し保留とし、 ⑨メチルプレドニゾロン (2mg/kg) とウルソデオキシコール酸の投与を開始した。
⑤ 他疾患の除外
irAE肝炎の診断は基本的に除外診断であるため、 必ず他疾患の除外を行う。 また原病の進行や腫瘍による胆道閉塞などの確認目的に超音波検査、 CT、 MRI、 MR胆管膵管撮影 (MRCP) などの画像検査を積極的に行う。 特にAST上昇が心筋炎に由来する場合もあるため、 クレアチンキナーゼ (CK) の測定を必ず行う。 また胆道系酵素有意 (γ-GTPやALP) の肝障害を呈している場合、 硬化性胆管炎が主たるirAEの病態である可能性があり、 MRI・MRCPなどを積極的に行う。
⑥ irAE肝炎の画像所見
軽症の場合は画像上明らかな異常を指摘できない場合もある。 重症例では軽度の肝腫大、 肝実質の造影効果減弱、 門脈周囲の浮腫性変化・リンパ節腫大などの所見を認めるが⁴⁾、 これらは他の急性肝炎でも同様に認める。 つまりirAE肝炎に特異的な画像所見は存在しない。
⑦ 肝臓専門医へのコンサルト
Grade3以上の肝機能障害を認めた場合は速やかに肝臓専門医に肝生検の要否や治療法に関してコンサルトする。
⑧ 生検の要否
肝生検は診断・治療において必須とはされていないが⁵⁾、 他疾患の除外、 irAE肝炎の確定診断、 組織学的重症度の評価に有用という報告もある⁶⁾。
⑨ 治療ストラテジー
以下のようにGradeに応じてステロイド治療を行う。
3日間のステロイド治療でも肝胆道系酵素の改善を認めなかったため肝臓専門医と相談し、 ⑩MMF (2g/日) の投与を開始した。 1週間後から肝胆道系酵素の改善を認めたため、 ステロイドの漸減を開始した。 約2ヵ月かけてPSL10mgまで漸減したところでMMFの漸減を開始した。 その後も再燃は認めなかった。 ステロイド投与中は日和見感染の予防内服等も行った。 ⑪ICIの再投与は行わない方針とし、 次レジメンに切り替える方針となった。
⑩ ステロイド抵抗性の治療
ステロイド抵抗性と判断した時点でMMF投与を開始する。 インフリキシマブは薬剤性肝障害のリスクがあるため使用しない⁷⁾。
⑪ ICIの再投与
Grade 3/4のirAE肝炎ではICIは永続的に中止とする。 Grade2のirAE肝炎の場合は、 PSL≦10mgで肝機能改善を維持できている場合はICIの再投与を検討する。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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