HOKUTO編集部
1ヶ月前
広島大学病院 脳神経内科の音成 秀一郎先生による新連載 「脳波クイズ ER/ICU脳波-意識障害編-」 です。 第3回は、 パーキンソン病の低血糖発作患者の症例です。 症例は架空の設定となります。
パーキンソン病で外来通院中だった。 2日前から微熱があり、 自宅で動けなくなっているところを発見され搬送。 ERでの初期評価で低血糖 (40mg/dL) と中等症の誤嚥性肺炎を認め、 ICUに緊急入院した。 ブドウ糖の補充により血糖値は直ちに補正され、 肺炎に対しては抗菌薬投与を開始しバイタルサインは酸素化も含めて安定したが、 意識障害は入院後も遷延した。 なお外傷はなく、 入院時の頭部CTでもびまん性の脳萎縮以外に明らかな異常はなかった。 フォローの血液検査でも炎症反応以外に特記すべき異常はなかった。 遷延する意識障害の評価のため、 入院後3日目で脳波検査を実施した。
糖尿病の既往はない。
内服薬 : レボドパ・カルビドパ (300 mg)、 ロチゴチン (18 mg)、 セレギリン (5 mg)
1. 肝性脳症
2. 非痙攣性てんかん重積状態
3. 低血糖脳症
4. せん妄
1. ジアゼパム静注
2. 経鼻胃管からレベチラセタム投与
3. 抗精神病薬を投与
4. ダントロレンNa投与
パーキンソン病の既往と低血糖状態が特徴的なこの症例、 皆さんであればどのように脳波を読み解きますか?
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▼NCSEを念頭に、 緊急で脳波検査が必要
スクリーニング検査にて原因がはっきりしない意識障害の鑑別として、 非けいれん性てんかん重積状態 (non-convulsive status epilepticus : NCSE) があります。 よって本例でもNCSEを念頭に緊急で脳波検査での評価が必要となるでしょう。
本例で実施した脳波では、 下記のように律動性の局所性のデルタ活動を認め、 いわゆるRDA (rhythmic delta activity) です。 このRDAはNCSEの可能性を示唆する重要な脳波所見なので急性期脳波の判読では必ずチェックしましょう。
▼「2.5 HzのRDA」 と判断できる
解説の拡大図で示しているように、 O2電極 (右後頭部) を最大とする徐波が続いています。 なお、 RDAや周期性放電 (PDs: periodic discharges) などをrhythmic and petiorid patterns (RPPs) と呼びますが、 このRPPsを急性期脳波でみた時には、 まずは周波数をチェックしましょう。 このサンプルで言えば、 1秒に2.5回ほど繰り返されたデルタ波を認めますので 「2.5 HzのRDA」 と判断できます。
▼脳波上の発作と判断し、 治療介入
RDAは2.5Hz以上のサイクルで10秒以上持続していれば、 electrographic seizure、 つまり脳波上の発作と判断できますので、 治療介入します¹⁾。 その場合、 ベンゾジアゼピン系薬剤 (ジアゼパム、 ロラゼパム、 ミダゾラムなど) を静注して治療反応性をチェックしましょう。 理想的には投与前に神経診察をしっかり行い、 また脳波の記録を続けた上で投与すると良いでしょう。 この症例ではジアゼパム 1Aの投与で意識レベルが改善し、 意思疎通が可能となりました。
▼低血糖発作は、 進行期のパーキンソン病での自律神経障害に起因したもの
なお入院時に認めていた低血糖発作については、 進行期のパーキンソン病での自律神経障害に起因したものと思われます。 糖尿病などの既往がなくても、 肺炎などの急性の病態に起因して二次的に引き起こされた低血糖発作は、 進行期のパーキンソン病では時にありますので注意してください。 本例は、 その後に全身状態が安定してからは低血糖発作の再発はありませんでした。
はじめての脳波トリアージ
2ステップで意識障害に強くなる
Antaa Slide Award 2021を受賞した著者が、 背景活動×てんかん性の所見で脳波を切り分け、 意識障害の鑑別を最速化する鑑別のコツを伝授。 ICUでの強力な武器を身につけて、 目指せ!デキるレジデント!
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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