世界胃癌学会(IGCC 2023) 印象記 ~食道胃接合部癌に関する国際コンセンサス~
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HOKUTO編集部

1年前

世界胃癌学会(IGCC 2023) 印象記 ~食道胃接合部癌に関する国際コンセンサス~

世界胃癌学会(IGCC 2023) 印象記 ~食道胃接合部癌に関する国際コンセンサス~

はじめに

本邦では食道癌と胃癌に関しては、 それらの大多数を占める組織型の違い(扁平上皮癌 vs 腺癌)や解剖学的な違いから、 薬物療法や手術療法、 放射線治療は両者で異なる治療開発が行われてきた。 一方、 欧米では食道癌においても腺癌の発生頻度が高く、 特に周術期治療に関しては一部では胃癌とオーバラップする開発が行われてきた。

近年、 逆流性食道炎をリスクファクターとする食道胃接合部癌(EGJ)の発生頻度が洋の東西を問わず徐々に上昇しており、 注目が集まっている。

しかしながら、 食道胃接合部癌に特化したエビデンスは乏しく、 今回のIGCC 2023では、 Upper GI Summit -EGJ Cancer Consensus Conference-といったセッションが組まれ、 現状のエビデンスを元に、 各国のエキスパートが食道胃接合部癌に関するclinical questionについて議論を行い、 国際コンセンサスの形成を目指す斬新な企画が実施された。

その中でも特に自身の専門でもある腫瘍内科領域においては、 本邦と欧米で周術期治療に関して乖離があり、 この領域でどこまでコンセンサスが得られるか、 非常に興味深い点であった。

今回は腫瘍内科部分のClinical Question(CQ)に加えて、 今後の治療開発も含めて概説する。

薬物療法に関する3つのCQ

CQ1

 “Is it recommended to adopt chemotherapy for gastric adenocarcinoma to esophageal adenocarcinoma and esophagogastric junction cancer?”

腫瘍内科部分の最初のCQは、 「切除不能な進行胃癌のエビデンスをEGJに適応できるか?」であった。

元来、 EGJは分子生物学に胃癌に近い特徴を有することから、 緩和的な化学療法に関しては従来の胃癌の臨床試験結果をベースに治療が実施されている。 ただしエビデンスは乏しく、 本CQに則ったランダム化比較試験は存在しないことから、 過去の主要な試験におけるサブグループ解析の結果から検討された。

📝1次治療

1次治療に関する臨床試験として、 ToGA試験やKEYNOTE-811試験、 KEYNOTE-062試験、 CheckMate 649試験、 ATTRACTION-4試験、 KEYNOTE-859試験が取り上げられ、 全集団と胃癌、 EGJの全生存期間(OS)のハザード比(HR)が評価され、 どの群においても近い値が報告されていた。

📝2次治療

また2次治療以降に関する臨床試験として、 DESTINY-Gastric01試験やRAINBOW試験、 REGARD試験、 TAGS試験、 COUGAR-02試験が取り上げられ、 こちらも全集団と胃癌、 EGJで同様の評価が行われ、 どの群とも近いHRが報告されていた。

📝ステートメントと合意率

これらの結果から、 CQに対する解答として、 エビデンスレベルCで「切除不能な進行胃癌のエビデンスをEGJに用いることを弱く推奨するといったステートメントが提案された。 

しかし、 実臨床では洋の東西を問わず、 すでに外挿されて行われているため、 強く推奨しうるのではとも議論され、 当日の合意率は70%未満であった。

CQ2

“What is the optimal perioperative treatment for resectable, locally advanced esophagogastric junction cancer?”

腫瘍内科部分の二つ目のCQは、 「切除可能な局所進行食道胃接合部癌に最適な周術期治療は?」であった。

本邦ではACTS-GC試験やJACCRO GC-07試験の結果から、 胃癌に準じて手術を行った後に術後化学療法を行う治療戦略がとられることがあるが、 欧米ではFLOT4試験やCROSS試験、 CheckMate 577試験の結果から、 術前後のFLOT療法や術前化学放射線療法と術後ニボルマブ療法の併用が用いられる。 このように本邦と欧米ですでにギャップがある領域であり、 こちらもCQ1と同様に過去の主要な試験におけるサブグループ解析の結果を中心に検討された。

📝術前化学療法

本CQは治療戦略別に検討され、 周術期化学療法や術前化学療法に関しては、 MAGIC試験やFNCLCC/FFCD試験、 FLOT4試験、 PRODIGY試験、 RESOLVE試験が取り上げられ、 全集団と胃癌、 EGJのOSや無増悪生存期間(PFS)のHRが評価され、 おおむねどの群においても近い値が報告されていた。

📝術前化学放射線療法と術後化学療法

また術前化学放射線療法に関しては、 POET試験が取り上げられ、 全集団とSiewert I型、 Siewert II型のOSのHRが評価され、 0.66、 0.71、 0.60と近い値が報告されていた。 

術後化学療法に関しては、 CLASSIC試験やRESOLVE試験が取り上げられ、 同様の検討がなされたが、 CLASSIC試験では数%しかEGJの症例がおらず、 症例数が限られていた。 なお術後免疫チェックポイント阻害薬に関してはCheckMate 577試験が取り上げられ、 全集団と食道胃接合部癌のHRが0.70と0.87と報告されていた。

📝ステートメントと合意率

これらの結果から、 CQに対する解答として、 「各治療戦略を弱く推奨し、 本邦の胃癌に準じた手術と術後化学療法も許容されうるといったステートメントがエビデンスレベルCで提案された。 

しかし、 本邦で用いられる手術と術後化学療法に関しては、 ACTS-GC試験やJACCRO GC-07試験にはEGJが含まれておらず、 欧米で頻用される治療戦略と比してエビデンスが非常に乏しいことが明らかとなった。 このようなエビデンスを埋めるべく、 EGJを対象に術前化学療法の意義を問うJCOG2203試験が準備中である。 なお本CQの当日の合意率も70%未満であった。

CQ3

“What biomarkers are recommended to be tested before first-line for unresectable case?”

最後のCQは、 「切除不能な進行食道胃接合部腺癌に対して治療前にどのようなバイオマーカーを測定するか?」であった。

📝バイオマーカーとしてのHER2、 PD-L1 CPS、 MSI、 CLDN18.2の測定

CQ1にもある通り、 EGJは胃癌に準じた緩和的な化学療法が実施されることから、 胃癌と同様のバイオマーカーが測定されることが多いが、 本CQに則ったランダム化比較試験は存在しないことから、 過去の主要な試験におけるサブグループ解析の結果から検討された。

既報よりHER2やPD-L1 CPS、 MSIやCLDN18.2陽性の頻度はEGJと胃癌で同様の頻度であると報告されており、 ToGA試験やCheckMate 649試験、 SPOTLIGHT試験のサブグループ解析より、 全集団と胃癌、 EGJのOSのHRが評価され、 おおむねどの群においても近い値が報告されていた。

📝ステートメントと合意率

これらの結果から、CQに対する解答として、 「HER2、 PD-L1 CPS、 MSI、 CLDN18.2の測定を強く推奨する」といったステートメントが エビデンスレベルCで提案され、 推奨の強さや現状の薬剤の承認状況等に関する意見も出たが、 本CQの当日の合意率は70%以上であった。

最後に

日々、 臨床業務に忙殺されている (であろう) 若手医師にとっては、 自身への投資 (勉強時間etc) にかける時間が非常に限られていると推察される。 この原稿が消化器癌を担当し、 日々困難に直面する若手医師にとって何かの一助になれば幸いである。

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こちらの記事の監修医師
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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