HOKUTO編集部
8ヶ月前
本稿では仮想の症例における 「経過」と「判断のポイント」を提示しながら、 irAE筋炎の特徴や対応法について概説する (解説医師 : 虎の門病院 臨床腫瘍科 山本一将先生)。
💡ECOG PS 0
💡特記すべき既往歴なし
X年に切除不能な進行胃癌に対する緩和的化学療法の1次治療として、 ①SOX+ニボルマブ(360mg/body/3週間毎) が開始された。 治療開始後14日目の外来では、 問診、 採血検査で異常所見は認めなかったが、 ②治療開始後19日目より③四肢の近位筋優位の筋肉痛を認めた。 2コース目投与日 (治療開始後22日目) の診察で④四肢の近位筋筋力低下、 眼瞼下垂、 複視を認め、 血液検査にてクレアチンキナーゼ (CK) の異常高値 (9,700U/L) を認めたため、 精査加療目的に緊急入院した。
①ICIによるirAE筋炎の頻度
一般にirAE筋炎の発生頻度は低く、 国内外における市販後調査や総説を含む論文では、 免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) を使用した癌患者の1~3%に筋障害が出現すると報告されている¹⁾。
②ICIによるirAE筋炎の発現時期
既報ではICI開始後、 2ヵ月以内に出現するとされており、 本邦からの報告でも発症時期はICI開始後平均29日であり、 比較的早期に出現する²⁾。 従来の炎症性筋疾患と異なり、 急性発症に近い点が特徴的である。
③ICIによるirAE筋炎の症状
初発症状として、 全身倦怠感、 筋痛、 筋力低下、 嚥下困難、 呼吸困難、 複視、 眼瞼下垂など多彩な症状が報告されている²⁾。
多くの症例で筋力低下に先行して筋痛が認められ、 筋力低下については、 四肢の筋肉以外にも、 頸部の筋力低下を認め、 首下がり症候群として発症することもある。 重症筋無力症と重複することもあるが、 純粋な筋炎でも重症筋無力症様の神経筋症状を呈することがある。
④ICI開始前・投与中・投与後の確認項目
頻度が低いものの、 ICI治療開始時には、 筋炎を含む神経筋障害のirAEが発現するリスクについて説明し、 重症化すると致命的な有害事象であることを伝える。 また筋炎症状を疑う場合は直ちに受診または担当医に相談するよう指導を行う。
開始前の抗アセチルコリンレセプター抗体測定については、 肺癌症例においてICI投与前に陽性であっても症状発現には至らず、 安全にICI治療を行うことが出来るという報告がある一方で³⁾、 胸腺腫の患者においては、 もともと抗体陽性であった症例でのみ筋炎が出現し、 陰性の症例では認められなかったという報告があり⁴⁾、 統一した見解はない。
投与中・投与後は、 診察毎に患者の自覚症状をしっかりと聴取することが重要である。
⑤アルドラーゼ、 ミオグロビンの測定の他に、 心筋炎の合併を検索するため、 CK-MB、 トロポニンTの測定、 心電図、 心臓超音波検査、 心臓MRIを行った。 ⑥また、 直ちに神経内科医へのコンサルトを行い、 神経診察、 抗アセチルコリン受容体抗体、 筋炎関連抗体の測定、 筋電図、 筋生検、 MRIが行われた。
筋生検では、 筋原線維間網の構築の乱れ、 再生線維、 壊死線維、 筋内鞘へのCD8陽性細胞浸潤が認められた。 また神経診察では、 四肢左右対称性の近位筋筋力低下を認め、 眼球運動を繰り返すと徐々に眼瞼下垂が増悪した。 上記の検査結果と臨床経過から総合的に判断し、 ICIによる筋炎および重症筋無力症と診断した。
神経内科と協議の上、 ⑦プレドニゾロン5mg/日と免疫グロブリンの投与を行う方針とした。
⑤ICIによる筋炎の検査所見
筋炎、 重症筋無力症、 心筋炎と本来は異なる病態である3病態が、 irAEではオーバーラップすることがあることに注意が必要である。 irAE心筋炎の25%で筋炎を合併、 11%で重症筋無力症を合併することが報告されている⁵⁾。 そのため、 筋炎、 重症筋無力症、 心筋炎のうち、 一つでも認められた場合には3病態全てを想定し、 検索を行うことが重要である。
irAE筋炎では、 全例でCK上昇を認め、 中央値は5,331U/L (範囲 : 732~12,119 U/L) と報告され、 筋炎関連抗体は通常陰性である²⁾。 筋病理では局所的な炎症細胞浸潤、 筋繊維の壊死、 再生像などが認められる²⁾。
⑥神経内科専門医へのコンサルト
筋炎を疑った場合、 重症度に関わらず、 神経内科にコンサルトを行い、 必要な検査や入院後の治療法などについて相談する。 非典型的な症状で発症することも多く、 神経学的な評価が極めて重要であるため、 疑った場合は、 神経内科医による神経学的な診察が望ましい。
⑦irAE筋炎の治療ストラテジー
筋炎では、 基本的に重症度に応じてステロイド治療が行われる。 治療経過については、 眼瞼下垂、 四肢および頚筋、 球症状の順で改善が認められたという報告がある¹⁾。 また重症筋無力症を合併した場合、 高用量ステロイドで治療を開始することで、 初期増悪を来すリスクが知られている⁶⁾。 米国臨床腫瘍学会(ASCO) のガイドラインでは、 重症筋無力症の場合、 初期増悪を来すリスクを考慮し、 0.5mg/kg/日が推奨されている⁷⁾。
重症筋無力症合併の可能性が疑われる場合には、 ステロイド開始後の初期増悪に注意する必要がある。
急性期の治療方針だけではなく、 退院後のフォローについても、 癌治療医だけで決定していくことは困難であり、 他科との連携が重要である。 寛解に至らない症例もあるため、 症状と付き合っていくことが必要になることを伝えることも重要である。
Grade 3/4のirAE筋炎では、 ICIは永続的に中止とする。 Grade 2以下の場合は、ベースラインまたはGrade1以下に回復した場合、 ICIの投与再開を検討する。 ただし、 心筋炎を合併した場合には、 永続的な中止が望ましい。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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