がん診療の多職種カンファレンスで意識すべき「3つの視点」
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HOKUTO編集部

2ヶ月前

がん診療の多職種カンファレンスで意識すべき「3つの視点」

がん診療の多職種カンファレンスで意識すべき「3つの視点」
長らく4人の腫瘍内科医による共同企画としてお届けしてきた 「がん診療の羅針盤」 シリーズは、 2025年4月より新たに3人の先生方に参画いただき、 今回より7人の新体制でスタートします。 引き続き、 がん診療専門医でない方でもちょっとしたヒントが得られるようなエッセンスをお届けしていきます。 第21回は新メンバー・虎の門病院臨床腫瘍科部長の内野慶太先生から「多職種カンファレンスで意識すべきこと」 です! ぜひご一読ください。

はじめに

がん診療をはじめさまざまな医療の現場でよく行われる 「多職種カンファレンス」。 進行がんの患者さんに対して、 私たちは診断時から緩和ケア専念の時期まで、 チーム医療で患者さん、 家族のケアを行い、 支えていきます。 その中で繰り返し行われるのが多職種カンファレンスです。 皆さんも参加した経験があるのではないでしょうか?

定義された多職種カンファレンスの型や方法論は少なく、 その意義や自身の役割、 課題の抽出方法などを直接教わる機会もあまりないと思います。 皆さん、 感覚や経験で身につけていくのが実際ではないでしょうか。 しかしながら"これは大事"というエッセンスが発信されているのも事実です。

本記事では、 抗がん薬治療を受けている進行胃がん患者さんを例に、 がん診療における多職種カンファレンスで大事にすべき3つのポイントを解説します。

チーム医療・多職種カンファの意義

チーム医療は「各職種が連携・補完し合う」

最初にチーム医療について述べておきます。 チーム医療は、 一般的に 「医療に従事する多種多様な医療スタッフが、 各々の高い専門性を前提に、 目的と情報を共有し業務を分担しつつ、 互いに連携・補完し合い、 患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」 とされます。 このチーム医療の定義は、 厚生労働省の推奨もあって医療現場に広く浸透しました。 がん領域においても同様で、 チーム医療の推進は 「多職種間の連携」 や 「ケアや医療安全の向上」 に結びついていると報告されています。

チーム医療では、 各職種が自身の役割を認識し、 専門性を高め連携することが必要です。 これにより患者さんの身体的・精神的・倫理社会的問題を多角的にケアし、 効率よく質の高い医療を目指します。

多職種カンファレンスでは 「各々が3つの役割を有する」

またチーム医療を推進する上では、 カンファレンスの持ち方が、 提供する医療の質を左右するとも言われます。 相互の価値観や役割、 コミュニケーションスタイルを理解し認め合い、 協働して討議することが大切とされています。

そのためカンファレンスに参加する際には、 以下の3つの役割を発揮することが望まれます。

  • 自分の意見を述べる
  • チームの一員としての役割を発揮する
  • 決定に責任をもつ

多職種カンファで大事な3つの視点

多職種カンファレンスを行うにあたって大事なことは以下の3つだと考えます。

  1. 職種間の目的の共有
  2. お互いにわかりやすい共通言語でのコミュニケーション
  3. お互いを必要とする尊重の気持ち

職種間の目的の共有

下図のように、 「つらい」 といった漠然とした訴えも、 各職種が専門性をもってケアすることによって、 より具体的で対応可能なレベルにまで細分化されます。 この多角的な視野で細分化された問題をお互いに、 コミュニケーションしやすい方法で治療の目的にむけて実践していきます。

しかし、 同じ目的や目標を持っていないと、 細分化の仕方が偏ってしまい、 まるで大小さまざまな岩になって取り除き難くなります。

がん診療の多職種カンファレンスで意識すべき「3つの視点」
(編集部作成)

共通言語によるコミュニケーション

自身の専門分野を他の職種に理解してもらうときや協調する際に、 コミュニケーションがうまく取れるように共通の言語を用いる意識や、 相手の専門用語および文化を理解することも必要です。

お互いを必要とする尊重の気持ち

また、 何よりもチームメンバーを信頼し、 積極的に話し合う姿勢とお互いを尊重する気持ちが大切です。

実際の多職種カンファレンスの一例

進行胃がんの田中さん、 治療方針をどうするべきか?

以下に示すような場面に遭遇したことはありませんか。

【田中さん】

・背景 : 78才女性。 進行胃がん
・現況 : 2次治療を入院で導入している。 病気の進行で摂食量や筋肉量も落ち、 抗がん薬治療の効果でその回復を待っているが見通しが立たない状態。 本人は自宅に帰りたがっている様子
・家族状況 : 自宅では高齢の夫と二人暮らし。 子どもは遠方に住む長女1人がいる。
・コミュニケーションの状況 : 今まで本人の病気や治療への想い、 また費用面における不安などを十分に聴取したことはない
・予後について具体的な数字などを用いた説明は行っていない

田中さんの診療において、 病棟で以下のようなやりとりがありました。


👩‍💼病棟看護師

 「先生、 田中さんの治療目標や退院の目処を知りたいので、 カンファレンスを開きたいです」 

👨‍⚕️担当医

 「パクリタキセル+ラムシルマブ併用療法を開始したばかりなので、 今後の経過次第で判断することになります。 エビデンスでは奏効率は○○%、 無増悪生存期間中央値は△ヵ月だからもう少し経過をみてみないとわからないですね」 

👩‍💼病棟看護師

 「あまり食べられていないうえ、 臥床が多いため、 入院中でもADLが落ちてきているのがわかります。 リハビリはいかがですか?食事の形態も、 栄養士と相談して食べやすいものに変更して良いでしょうか?」 

👨‍⚕️担当医

 「今は症状の改善が乏しいから、 リハビリも難しいのではないかな。 元気になってきたら始めよう」 

👩‍💼病棟看護師

 「旦那さんが昨日面会にいらして、 退院の見通しや退院後のことについて心配されていたようです」 

👨‍⚕️担当医

 「状態が良くなるかもしれないし、 悪くなるかもしれない。 今は判断できないですよ。 経過をみながらかな」 

どちらの気持ちもわかるような、 もどかしいような……。 田中さんのがん診療にチームで進めていく必要性を感じます。

3つの視点で多職種カンファレンスを実践

① 「職種間の目的の共有」 の視点から

田中さんの診療には、 定期的かつ何度も繰り返し多職種カンファレンスを開いていきました。 カンファレンスで具体的にどのようなことを話すかというと、 まずは職種間で田中さんへの治療目的を共有しなければなりません。 また、 予後予測も立て、 実現可能なケアを検討し、 各職種が行う必要があります。

担当医としては、 田中さんの抗がん薬治療の目的について

  • 「延命」 「緩和」 である
  • 治療効果と副作用のバランスが目的に対して適度である
  • 日々の生活を少しでも維持できるQOLを伴っている

と説明しました。

標準治療である2剤併用を行うこと自体はとても大事なことですが、 78才という年齢や夫の介護力、 緊急受診の体制作りなど治療開始にあたって検討される項目も多いため、 治療方針は各職種から多角的に情報を得た上で決定すべきでしょう。

「共通言語によるコミュニケーション」 の視点から

各職種の高度な専門用語は用いず、 治療目標の共有に合わせて言葉をわかりやすく変換した会話を意識しましょう。 奏効率や無増悪生存期間中央値も大事な情報ですが、 効果が示された際のADLの改善具合、 あるいは効かなかった際の状況を共通言語に落とし込み本質に変換することが必要です。 同時に、 他職種の言語や文化を体得していくことも大事です。

「お互いを必要とする尊重の気持ち」 の視点から

また、 カンファレンスで自由に発言できる雰囲気を作るのも主治医の大事な役割で、 相手の専門性や得られた見解を尊重し、 方針を再構築していくことも重要です。

患者さんの意思決定を受け、 療養を支援

田中さんの診療では、 その後も多職種カンファレンスを複数回開催し、 ご本人・夫・娘さんに 「予後予測や体力回復の見込みも含め、 治療の目的が延命・緩和である」 ことを話したところ、 自宅での緩和ケア療養を希望されました。

その後、 医療ソーシャルワーカー (MSW) に相談しながら娘さんが介護休暇を取得し、 在宅医療の体制を整えてから田中さんは退院されました。 在宅医療の準備期間、 看護師は面会に来た夫に在宅での点滴手技を何度もレクチャーし、 対話を続けました。 ご本人が少しでも自立できるようリハビリも体得していきました。 さらに、 娘さんが来院できた日に合わせて栄養相談を行い、 好きなものを食べてもらえる工夫を考えました。

退院してから約1ヵ月後、 田中さんはご家族に見守られて永眠されました。 看護師が入院中、 田中さんとの対話の中で知り得た情報として、 家での療養を選んだ理由は 「夫と共に娘を育てた家だから」、 そして 「愛犬の世話を最期にしたかったから」 だそうです。

おわりに

今のがん診療には多職種の関わりと協働が必須です。 医師としてどのような役割があるのか、 またカンファレンス自体の結論をどのような目標に落とし込むのかを意識しておくだけで、 視野が大きく変わると思います。 そのために、 目的の共有、 専門性と共通言語、 相手への尊重という3点を大事にすることで、 意義あるカンファレンスになると考えます。

解説医師

がん診療の多職種カンファレンスで意識すべき「3つの視点」

参考文献

1.チーム医療の推進に関する検討会. 厚生労働省

2. 患者さんとともにあるチーム医療 「チーム医療を推進するために」 チーム医療推進協議会

3. 日本赤十字社.チーム医療の推進に関するガイドライン第2版.日本赤十字社

4. Int J Surg. 2013;11(5):389–94.

5. Int J Integr Care. 2016 Apr 8;16(1):9.

6. JAMA. 2016;316(8):826–34.

7. J Hosp Med. 2012;7(1):48–54.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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