Beyond the Evidence
1年前
「Beyond the Evidence」 では、 消化器専門医として判断に迷うことの多い臨床課題を深掘りし、 さまざまなエビデンスや経験を基に、 より最適な解決策を探求することを目指す企画です。 気鋭の専門家による充実した解説、 是非参考としてください。
BRAF V600E変異切除不能大腸癌におけるBRAF/MEK阻害薬の使い時と使い分けは?
既治療のBRAF V600E変異切除不能大腸癌に対してはBRAF阻害薬/MEK阻害薬が2次治療以降で使用可能である。 BRAF V600E変異切除不能大腸癌は予後不良であり、 2次治療の段階でこのレジメンを使用するべきである。 また3剤か2剤の選択肢があるが、 有害事象を考慮すると基本的には2剤がベースである。 しかし腫瘍量が多い症例や手術移行を期待する症例では3剤併用療法を積極的に考慮する。
BEACON CRC試験の概要
BEACON CRC試験において、 1つまたは2つの前治療歴のある BRAF V600E変異切除不能⼤腸癌を対象にセツキシマブ (CET)とBRAF阻害薬であるエンコラフェニブ (ENCO)、 MEK阻害薬であるビニメチニブ (BINI) の3剤併⽤療法、 CETとENCOの2剤併⽤療法を従来の化学療法 (FOLFIRI+CETもしくはイリノテカン+CET) と⽐較する第III相試験が⾏われた¹⁾。
この試験ではENCO+BINI+CETの3剤併用療法は奏効割合 (ORR) 26%、 無増悪生存期間 (PFS) 中央値4.3カ月、 全生存期間 (OS) 中央値9.0カ月と良好な結果であった。 またENCO+CETの2剤併用療法も奏効割合20%、 PFS中央値4.2カ月、 OS中央値8.4カ月と良好な結果であった。
標準治療との比較
標準治療との⽐較において3剤併⽤療法はOS中央値9.0カ⽉ vs 5.4カ⽉でHR 0.52 (95%CI 0.39-0.70、 P<0.001) と有意に⽣存期間の延⻑を認めた (表1)。 また2剤併⽤療法においてもOS中央値8.4カ⽉ vs 5.4カ⽉でHR 0.60 (95%CI 0.45-0.79、P<0.001) と有意に⽣存期間の延⻑を認めた。 これらの結果から本邦において2020年11⽉にENCOとBINIが薬事承認されている。
BEACON CRC試験の事後解析
BEACON CRC試験の事後解析が⾏われ、 2剤併⽤療法 (ENCO+CET) の2次治療と3次治療の有効性の検討が⾏われ、 2023年6⽉のESMO-GIで報告された²⁾。 この報告で2次治療での PFS中央値は4.3カ⽉、 OS中央値9.7カ⽉、 ORR 21.2%であった。 ⼀⽅で3次治療でのPFS中央値は4.2カ⽉、 OS中央値7.9カ⽉、 ORR 18.9%であり、 ともに化学療法に対して良好な有効性を⽰していた。
1次治療に関する問題点
しかしBRAF V600E変異陽性切除不能大腸癌は1次治療で、 次治療への移行率が低いことが報告されている³⁾。 1次治療において急速に進行し、 その後の治療を受けることができないか、 2次治療中に急速な進行をする。 1次治療における増悪後生存期間 (post-progression survival : P-PS) がBRAF V600E野生型と比較して有意短い (4.2カ月 vs 9.2カ月、 HR=1.69、 P<0.001)。 さらに2次治療を受ける患者もBRAF V600E変異患者ではより少なくなる(33% vs 51%、 P< 0.001)。
治療方針
この結果を踏まえると後⽅治療への移⾏を期待できる可能性が低くなるため、 より早期に有効性の期待できるレジメンを使⽤すべきであり、 BEACON レジメンの使⽤は原則2次治療での使⽤が勧められる。 2次治療においても、 33%しか2次治療を受けることができていない現状があり、 今後は効果が期待されるレジメンを1次治療から⾏っていく必要性がある。 現在1次治療で、 2剤併⽤療法 (ENCO+CET) に化学療法の上乗せを標準治療である化学療法と⽐較検討するBREAKWATER試験が進⾏中であり、 この結果が待たれるところである。
3剤併用療法と2剤併用療法における有害事象
3剤併用療法と2剤併用療法ともに従来の化学療法に対して有意な生存期間の延長を認めていたが、 有害事象においてこれらのプロファイルは異なっている。 この試験において、 3剤併用療法はGrade3以上の有害事象の出現が58%と報告されており、 2剤併用療法では50%と10%弱の有害事象の追加を認めている。 具体的にはGrade3以上の消化器症状の有害事象の出現が増えており、 下痢 (10% vs 2%)、 悪心 (5% vs <1%)、 嘔吐 (4% vs 1%)、 腹痛 (6% vs 2%) となっている (表2)。
BEACON CRC試験の探索的解析結果
BEACON CRC試験の探索的解析において、 3剤併用療法と2剤併用療法の有効性の比較においてOS 中央値がともに9.3カ月であり、 HR 0.95 (95%CI 0.74-1.21) と3剤併用療法は2剤併用療法と比較して、 死亡リスクの低下効果に差を認めなかった⁴⁾。 この結果から米国食品医薬品局 (FDA) および欧州医薬品庁 (EMA) において、 2剤併用療法のみが薬事承認となっている。 本邦においても有害事象と全体的な有効性を考慮すると基本的には2剤併用で十分であると考える。
サブグループ解析の結果
サブグループ解析では、 ECOG PS 1、 転移臓器3個以上、 血清CRP高値 (>1mg/dL)、 原発巣切除歴なしの集団においては3剤併用療法が良好な傾向であった。 これらの集団は腫瘍量が多いことが予想されるため、 腫瘍量が多い症例においては3剤併用療法を積極的に考慮するのが良い。
基本的には2剤併用療法で良いと考えられるが上記のようにPFS中央値は依然として4.2カ月と十分でない。 BRAF V600E変異型大腸癌におけるBRAF阻害薬の耐性機序として、 MAPK に関連する異常が多く報告されている。 このため2剤併用療法で抗腫瘍効果が得られなくなった症例にMEK 阻害薬を併用し、 3 剤併用療法で再導入することで抗腫瘍効果が得られる可能性がある。 このことから2剤併用療法後の病勢進行後に3剤併用療法を検討するTRIDENTE試験およびBAYONET試験が進行中であり、 これらは本邦での独自試験であり結果が期待される。
BRAF V600E変異陽性切除不能大腸癌においては予後不良であり、 この有効なレジメンを可能な限り早期に使用する必要がある。 また2剤併用療法がベースとなるが、 本邦で許容されている3剤併用療法も積極的に症例ごとに使用を検討するべきである。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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