HOKUTO編集部
3ヶ月前
2024年6月にドイツ・ミュンヘンで開催された欧州臨床腫瘍学会消化器癌シンポジウム (ESMO GI 2024) において発表された注目の3演題について、 国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科/消化管内科の山本駿先生にご解説いただきました。
ESMOは欧州最大の臨床腫瘍を専門とする学会であり、 ESMO GIはESMOのなかでも消化器癌に特化した学会である。 その特徴から、 消化器癌の試験における主要なエビデンスのサブ解析やアップデート解析が多く報告される。 その中でも重要な報告に着目し、 HOKUTOのユーザーの皆様とその内容を共有したいと思う。
本邦では、 切除可能な局所進行胃癌の標準的な周術期治療は、 ACTS-GC試験やJACCRO-GC07試験の結果から、 術後S-1 (テガフール・ギメラシル・オテラシル) 療法や術後DS (ドセタキセル+S-1) 療法であるが、 欧米ではMAGIC試験やFLOT4試験の結果から、 現在では術前後のFLOT (ドセタキセル+オキサリプラチン+レボホリナート+フルオロウラシル) 療法である。
そのような中、 術前後の薬物療法に免疫チェックポイント阻害薬を上乗せする治療開発が進められ、 その1つが抗PD-1抗体ペムブロリズマブの上乗せを検証したKEYNOTE-585試験である。 すでにKEYNOTE-585試験の主要評価項目である無イベント生存期間 (EFS) に関して、 昨年のESMO 2023で発表された中間解析の段階で優越性が証明されず、 negative試験と報告されている。 今回はKEYNOTE-585試験の最終解析結果が報告された。
未治療の切除可能な局所進行胃癌を対象に、 周術期薬物療法へのペムブロリズマブの上乗せを検証した第III相二重盲検無作為化比較試験KEYNOTE-585試験では、 すでに第3回目の中間解析において、 病理学的完全奏効 (pCR) 割合の改善は認められたものの、 主要評価項目であるEFSの有意な改善は認められなかった。 今回は最終解析として全生存期間 (OS) が報告された。
本試験にはメインコホートとFLOTコホートに合計1,007例が登録され、 ペムブロリズマブ群に502例、 プラセボ群に505例が割り付けられた。 最終解析時点でのpCR割合 (95%CI) はペムブロリズマブ群で14.2% (11.3-17.6%)、 プラセボ群で2.8% (1.6-4.7%) であった。 また、 EFS中央値 (95%CI) はペムブロリズマブ群で47.0ヵ月 (36.2ヵ月-NR)、 プラセボ群で26.9ヵ月 (22.1-34.7ヵ月)、 HR 0.80 (95%CI 0.67-0.95) だった。
OS中央値 (95%CI) はペムブロリズマブ群でNR (59.2ヵ月-NR)、 プラセボ群で55.7ヵ月 (42.8ヵ月-NR)、 HR 0.86 (95%CI 0.71-1.03) であった。 なお、 メインコホートのみの結果も全体と同様だった。
KEYNOTE-585試験は、 術前治療の段階で約10%もpCR割合を改善しており、 胃癌周術期薬物療法のpractice changeが期待された臨床試験であったが、 結果はnegativeであり、 すでに報告されたATTRACTION-5試験ともに胃癌周術期治療への免疫チェックポイント阻害薬の導入は保留となった。
今回のOSのサブ解析では、 PD-L1 CPS≧10%の症例やMSI-highの症例ではペムブロリズマブの上乗せで良好な傾向が得られており、 特定の集団のみに限った開発も選択肢ではあり得る。 また、 現在抗PD-L1抗体デュルバルマブを周術期に上乗せするMATTERHORN試験が進行中であり、 この試験結果次第で、 胃癌周術期薬物療法への免疫チェックポイント阻害薬導入の可否が決まりうることから、 今後の動向に注意が必要である。
HER2陰性の切除不能な進行胃癌に対する標準的な初回治療は、 CheckMate 649試験やKEYNOTE-859試験の結果から、 免疫チェックポイント阻害薬+2剤併用化学療法であり、 HER2陰性かつClaudin (CLDN) 18.2陽性であればSPOTLIGHT試験とGLOW試験の結果からゾルベツキシマブ+2剤併用化学療法も治療選択肢として確立されている。 ただしPD-L1陰性例では免疫チェックポイント阻害薬の治療効果が限定的であるとされ、 従来の2剤併用化学療法が行われることもある。
第Ⅲ相無作為化比較試験ARMANIでは、 オキサリプラチンを含む初回薬物療法開始後3ヵ月で増悪を認めなかったHER2陰性の進行胃/食道胃接合部癌を対象に、 維持療法としてパクリタキセル+抗VEGFR-2抗体ラムシルマブ併用療法へ移行する治療戦略 (arm1) と、 引き続き2剤併用療法を3ヵ月間行い、 以降フルオロピリミジン系薬単剤へ移行する治療戦略 (arm 2) が比較された。
同試験の主解析については、 既にASCO 2024で報告され、 パクリタキセル+ラムシルマブ併用療法へ早期に移行する治療戦略を行うことで、 生存期間の改善が示唆された。 今回は同試験の最終解析およびバイオマーカー解析の結果が報告された。
ARMANI試験の主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS) であり、 今回はPD-L1 CPSとCLDN18、 ミスマッチ修復機能 (MMR) に着目したバイオマーカー解析の結果が報告された。
追跡期間中央値は43.7ヵ月、 PFS中央値はarm 1で6.6ヵ月、 arm 2で3.5ヵ月、 HR (95%CI) 0.63 (0.49-0.81) だった。 またOS中央値はarm 1で12.6ヵ月、 arm 2で10.4ヵ、 HR (95%CI) 0.75 (0.58-0.97) と、 PFSとOS両方ともarm 1で良好な結果であった。
バイオマーカー解析では、 CLDN18陽性が35%、 PD-L1 CPS≧5%/≧10%が40% / 29%、 dMMRおよび / またはMSI-highが6%であった。 CLDN18陰性かつPD-L1 CPS<5%の集団は35%であり、 同集団におけるPFS中央値はarm 1で7.5ヵ月、 arm 2で4.2ヵ月、 HR (95%CI) 0.69 (0.41-1.18) であった。
本試験は切り替え維持療法の意義を検証した研究であり、 PFSのみならずOSの延長も認めた点で非常に意義のある研究といえる。 ただ、 現状HER2陰性の初回薬物治療で免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物療法が実臨床で広く行われていると推察されることから、 本試験の結果が外挿可能な対象は、 本邦においては限定的と考えられる。
消化器原発の神経内分泌新生物は希少癌に該当する疾患で、 その分化度や増殖能等から、 神経内分泌腫瘍(NET)と神経内分泌癌に分類される。 NETは一般的に緩徐進行性な腫瘍であるが、 NET Grade (G) 2/3では病勢が急速なケースもあり、 治療効果の高い薬物療法も限定的であることから、 さらなる予後改善を目指して治療開発が行われている疾患である。
その中でもNETTER-1試験で、 放射線同位体ルテチウムオキソドトレオチド (177Lu) を標識した放射性医薬品-DOTATATE (¹⁷⁷Lu-DOTATATE) によるペプチド受容体核医学内用療法 (PRRT) の有効性がNETの後治療を主軸に証明され、 以降NETTER-2試験ではNET G2/3を対象に、 1次治療としてのPRRTが開発された。 主要評価項目の結果はすでに論文で報告され、 NET G2/3の新たな初回標準治療として確立されたが、 ESMO GI 2024ではその詳細なサブ解析が報告された。
第Ⅲ相非盲検並行群間無作為化比較試験NETTER-2では、 ソマトスタチン受容体 (SSTR)陽性で未治療の切除不能な消化器原発NET G2/3を対象にして、 ¹⁷⁷Lu-DOTATATEを用いたPRRT+オクトレオチド併用療法と高用量オクトレオチド単剤療法が直接比較された。 すでに主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)に関してはPRRT群の有意な延長が報告され、 奏効割合も43%と良好な結果であった¹⁾。 今回は、 G2とG3、 原発部位別 (膵原発および小腸原発) のサブ解析が報告された。
PFS中央値 (95%CI) は、 NET G2のPRRT群で29.0ヵ月 (21.8ヵ月-NE)、 オクトレオチド群で13.8ヵ月 (8.4-19.3ヵ月) と報告された。 一方、 NET G3においては、 PFS中央値 (95%CI) はPRRT群で22.2ヵ月 (13.9-27.8ヵ月)、 オクトレオチド群で5.6ヵ月 (3.7-8.9ヵ月) と報告された。
また奏効割合 (95%CI) に関しては、 NET G2のPRRT群で40.4% (30.7-50.7%)、 オクトレオチド群で10.4% (3.5-22.7%)、 NET G3のPRRT群で48.1% (34.0-62.4%)、 オクトレオチド群で7.4% (0.9-24.3%) と報告された。
原発部位別の解析の結果、 膵原発集団におけるPFS中央値 (95%CI) は、 PRRT群で19.4ヵ月 (16.6-24.9ヵ月)、 オクトレオチド群で8.5ヵ月 (3.8-16.6ヵ月) と報告された。 一方、 小腸原発集団のPFS中央値 (95%CI) は、 PRRT群で29.0ヵ月 (21.8-NEヵ月)、 オクトレオチド群で8.4ヵ月 (5.4-NEヵ月) と報告された。
また奏効割合 (95%CI) に関しては、 膵原発集団ではPRRT群で51.2% (39.9-62.4%)、 オクトレオチド群で12.2% (4.1-26.2%)、 小腸原発集団ではPRRT群で26.7% (14.6-41.9%)、 オクトレオチド群で4.8% (0.1-23.8%) と報告された。
奏効例のみの解析ではあるが、 奏効までの期間の中央値 (範囲) は、 G2で5.73ヵ月 (3.4-22.5ヵ月)、 G3で5.82ヵ月 (3.7-13.8ヵ月)、 膵原発集団で5.85ヵ月 (3.4-22.5ヵ月)、 小腸原発集団で5.78ヵ月 (3.9-12.7ヵ月) と報告された。
また、 治療奏効期間 (95%CI) は、 G2で24.9ヵ月 (23.3ヵ月-NE) 、 G3で19.3ヵ月 (17.8ヵ月-NE) 、 膵原発集団で18.4ヵ月( 11.3-23.3ヵ月) 、 小腸原発集団でNE (24.9ヵ月-NE) と報告された。
G2/3、 原発部位別解析においては、 どのサブグループにおいてもPRRTの有効性が示唆されており、 試験対象となったNETにおいて、 PRRTはまず1次治療として考えるべき治療法であろう。 またPRRTによる治療奏効までの期間が約5ヵ月で、 治療効果が得られた場合にその効果は一定期間持続することも、 実臨床で使用する際には有益な情報である。
なお本邦では未治療のNETを対象に、 エベロリムス単剤と、 エベロリムス+持続性ソマトスタチンアナログ徐放性製剤ランレオチド併用療法を直接比較するJCOG1901試験(STARTER-NET)が進行中であり、 一部NETTER-2試験と対象が重なることから、 PRRTとの使い分けが今後重要になると考えられる。
ESMO GIは欧州で開催される学会であることから、 アクセスが容易とは言い難い学会である。 ただし、 基礎から応用まで幅広い消化器癌領域のセッションが準備されており、 本邦からも若手~中堅の腫瘍内科医や消化器内科医が一定数参加している。 消化器癌に興味のある医師には是非お薦めしたい学会である。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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