医師の守秘義務、 どこまで及ぶ?
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5ヶ月前

医師の守秘義務、 どこまで及ぶ?

医師の守秘義務、 どこまで及ぶ?
医療訴訟が珍しくなくなった今、 医師は法律と無関係ではいられない。 連載 「臨床医が知っておくべき法律問題」 第22回は、 「刑事上の医師の守秘義務」 について考察したい。

刑法134条とその意味

医師は患者の秘密を守る義務を負う。 古くから医の倫理として語られてきたが、 刑法134条はこれを明文で規定している。

医師が業務上知り得た秘密を、 正当な理由なく漏らした場合、 6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金に処する

さらに刑法135条は 「告訴がなければ公訴を提起できない」 と定める。 すなわち、 患者や関係者から告訴されなければ処罰はされないが、 告訴があれば刑事責任を免れない。

この条文の目的は、 患者が医師に安心して本当のことを語れる環境を守る点にある。 医師にとっては、 正確な診断・治療を行うための信頼の基盤といえる。

医療情報の漏洩、 より厳罰化

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条文には医師以外にも薬剤師や助産師などが列挙されているが、 これは明治期に刑法が制定されたものをを引き継いだからである。 看護師などは個別の業法に処罰規定が設けられている。

一方、 近年は個人情報保護法が制定され、 医療情報 (要配慮個人情報) の保護が強化されている。 特に個人情報データベース等を不正な利益目的で提供・盗用した場合には、 1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が科される。 これは刑法134条と比べてもより重い罰則であり、 現代において守秘義務が一層厳格に扱われていることを示している。

単なる漏洩行為そのものが直ちに刑事罰に問われるわけではないが、 要配慮個人情報の漏洩については報告義務や行政対応が課されており、 医療機関には迅速な対応と管理体制が求められる。

つまり、 現代の医師にとって守秘義務は刑法だけでなく、 個人情報保護法を含め複数の法制度で重く問われることを意識する必要がある。

守秘義務をめぐる最高裁判例

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医師の守秘義務を大きく揺るがせたのが、 平成24年2月13日の最高裁決定である。

当時高校生だった少年が自宅を放火して家族3人を殺害したという重大事件の精神鑑定を担当した精神科医が、 取材を受けたジャーナリストに鑑定資料 (捜査記録など) を閲覧させたというものだ。 精神科医は秘密漏示罪に問われた。

弁護側は

  • 「鑑定医は精神病でコントロールができなかったふりをしている被告人に責任能力があると見破る仕事であり、 診断次第で死刑にもなりうる。 刑法134条の法益を侵害するものではない」
  • 「鑑定の依頼者は家庭裁判所であり、 患者本人ではない」 
  • 「供述調書は本来裁判における証拠として使用され、 公開される性質のものであり、 秘密に当たらない」 
  • 「少年に対する誤った世間の認識を正すという少年の利益を図る目的や,取材協力という公益目的で供述調書等を閲覧させたため、 正当な理由がある」 
  • 「少年自身ではなく、 父親が告訴をしており、 そもそも告訴権がない」 

などと主張した。

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ただ、 最高裁は以下の判断を示し、 鑑定医の有罪が確定した。

・精神鑑定も医師の業務に基づく行為であり、 守秘義務の対象となる。
・守秘義務の対象は鑑定対象者本人だけでなく、 鑑定過程で知り得た家族の情報も含まれる。
・公益目的や取材協力は 「正当な理由」 とはならない。
・患者本人のみならず、 家族にも告訴権が認められる。

この判例により、 守秘義務の範囲は患者本人にとどまらず、 その周囲の家族など広く及ぶことが明確化された。 医師にとって 「直接の患者でなければ守秘義務の対象外」 という考え方は通用しないことが示されたのである。

守秘義務は 「義務」 であり 「権利」 でもある

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刑法134条は守秘義務を定める規定だが、 同時に医師には 「秘密を守る権利」 も認められている。 刑事訴訟法105条・149条は、 医師が職務上知り得た秘密に関しては、 証拠提出や証言を拒否できると定めている。

すなわち守秘義務は、 患者のプライバシーを守ると同時に、 医師自身が不当に秘密を開示させられないための防御手段でもある。

臨床医が押さえておくべきポイント

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守秘義務違反が刑事責任を問われる例は歴史的に少なかったが、 情報管理が厳格化する現代では無視できないリスクである。 臨床現場で特に注意すべき点を整理すると――

  • 患者だけでなく家族情報も守秘義務の対象
  • 「公益目的」 「取材協力」 などは正当な理由とされない
  • 紙資料や電子データの管理を徹底することが必須
  • 守秘義務は刑事責任だけでなく、 民事訴訟リスクにも直結

適切に秘密を守ることは医師自身を守る手段でもある。

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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