HOKUTO編集部
1ヶ月前
愛知県がんセンターは10月7日、 2022年2月14日に開始した日本初の完全オンライン治験において、 第2回となる成果報告会を開催した。 固形がんにおける頻度が0.2%の希少疾患を対象にした医師主導治験において、 オンライン治験を組み入れたことにより、 予想を上回るスピードで登録目標を達成したという。 同センター薬物療法部医長の谷口浩也氏が、 治験の最新成果と今後の展望について報告した。
愛知県がんセンターは、 全国のがん患者が治験実施施設に一度も来院することなく治験に参加できる 「完全オンライン治験」 の取り組みを開始している。かかりつけ医療機関を"パートナー医療機関"とし、 オンライン診療アプリを通じて診察を行う "D to P withD"モデルを実践することで、 患者はかかりつけ医療機関の担当医とともに治験に参加できる仕組みだ。
治験に必要な血液検査やCT等はパートナー医療機関で実施し、 FAXやCD-Rを介してデータが愛知県がんセンターに届く流れとなっている。 この手順は日本の医療機関が従来行っている紹介・逆紹介に近く、 アナログな方式を採用することで治験へのハードルを下げている。
現在オンライン治験の"導入第1号"として、 非小細胞肺がん (NSCLC) を除くALK融合遺伝子陽性の固形がんを対象に、 次世代ALK阻害薬ブリグチニブの有効性・安全性を検証する第Ⅱ相バスケット試験ALLBREAK (WJOG15221M) が進行中である。 同試験には愛知県がんセンターを含む国内10施設が参加している。
NSCLCを除くと、 ALK融合遺伝子陽性固形がんの疾患頻度はわずか0.2%。 当初の登録目標は30ヵ月で14例とされたものの、 疾患頻度が同程度であるNTRK融合遺伝子陽性固形がんを対象に行われた過去の国際共同治験では、 日本人登録患者はわずか1例という事例もあった。
しかし、 実際には登録開始後22ヵ月の2024年3月14日時点で14例と、 無謀とも思えた症例目標の予定を上回るスピートでの症例登録を達成した。 うち6例 (約40%) はオンライン治験だったことから、 谷口氏は 「オンライン治験を組み入れていなければ、 6例は登録できなかった可能性もある。 オンライン治験を導入したことで、 登録スピードが40%上昇したとも言える」 と説明した。
また、 現在は目標数を28例に引き上げて登録継続中であり、 10月7日時点で21例 (うちオンライン治験8例) が登録されている。
なおオンライン治験に参加した患者に満足度を尋ねたところ、 全員が 「とても満足」 と回答した。 特に、 オンライン診療におけるかかりつけ医の同席は高く評価され、 谷口氏は 「今までの主治医と関係が継続することは、 患者さんの安心感につながっている。 かかりつけ医と診療時間を合わせるという手間はあるものの、 情報共有がその場で行えるため、 総合的には時間の効率化にもつながっているのではないか」 と話した。
そのほかにも、 「補足説明が受けられ安心感がある」 「自分では伝えにくい状況をかかりつけ主治医が説明してくれる」 などの声が挙げられたという。
ALLBREAK試験での知見を踏まえ、 愛知県がんセンターでは今後、 他の医師主導試験および企業治験にもオンライン治験の導入を検討中であるという。 現在計画されている医師主導治験の1つが、 唾液腺がんに対する経口キナーゼ阻害薬の第Ⅱ相試験だ。 予定登録数は45例、 5施設が参加予定となっており、 複数施設でオンライン治験が導入される見込みである。
オンライン治験の取り組みは国からも支援を受けており、 今後は産官学一体となり、 さらなる推進・拡大が予測される。 特に、 ドラッグ・ラグおよびドラッグ・ロス解消の手段として、 オンライン治験に大きな期待が寄せられている。
さらに、 谷口氏は 「非常に嬉しいお知らせ」 として、 2024年7月8日には、 今までは実施できなかった注射薬に対する分散型臨床試験 (DCT) が解禁され、 今後正式な通達が公表される予定であることを紹介した。 現在は、 注射薬治験におけるオンライン治験の導入準備が進められているという。
最後に、 谷口氏は 「当院は今回報告したオンライン治験だけでなく、 プラグマティック試験やプラットフォーム試験など、 臨床試験の近代化に関する取り組みを今後も継続的に行っていく。 引き続きご協力・ご支援をお願いしたい」 とコメントした。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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