【亀田呼吸器2023】血ガスの診かた・呼吸不全の診かた (永井達也先生)
著者

亀田総合病院

3ヶ月前

【亀田呼吸器2023】血ガスの診かた・呼吸不全の診かた (永井達也先生)

【亀田呼吸器2023】血ガスの診かた・呼吸不全の診かた (永井達也先生)
本コンテンツは昨年11月23日に開催された 「亀田総合病院 呼吸器セミナー2023」 にて行われた講演を基に作成したものとなります。 多くの先生の臨床の参考となれば幸いです。

講演情報

講師 : 永井達也先生

亀田総合病院 呼吸器内科 医長

はじめに : 本セミナーの目標

  1. 呼吸不全の病態を理解する
  2. 血液ガスを使用して呼吸不全を評価できる
症例を提示し、 具体的数値を用いた鑑別診断の手順とポイント、 計算方法、 重要点を解説

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呼吸不全の分類

呼吸不全はⅠ型とⅡ型の2種類に分類される。

  • Ⅰ型呼吸不全 : PaO₂≦60mmHg
  • Ⅱ型呼吸不全 : PaO₂≦60mmHgかつPaCO₂≧45mmHg

Ⅰ型とⅡ型の違いは低酸素血症かつPaCO₂が貯留するか否かの差であり、 貯留している場合はⅡ型に分類される。

低酸素血症の鑑別

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手順1 : PaCO₂の確認

動脈血ガス分析でPaCO₂の貯留有無を確認し、 貯留が認められる場合はⅡ型呼吸不全、 認められない場合はⅠ型呼吸不全と推定される。

手順2 : 呼吸不全型ごとの対

Ⅱ型呼吸不全の場合

A-aDO₂開大の有無を確認。 開大が確認できる場合、 肺胞低換気に加えてV/Qミスマッチやシャントの合併が考えられる。 開大が認められない場合は単独の肺胞低換気と推定される。

Ⅰ型呼吸不全の場合

酸素投与に反応するか否かを確認する。 反応ありの場合はシャント、 なしの場合はV/Qミスマッチの合併を考える。

図.低酸素血症の鑑別 (永井達也氏提供)
【亀田呼吸器2023】血ガスの診かた・呼吸不全の診かた (永井達也先生)
(※田中竜馬著 「竜馬先生の血液ガス白熱講義150分」 p43図22を参考に作成¹⁾)

肺胞低換気・シャント・V/Qミスマッチの発生要因

肺だけでは呼吸はできず、 空気が肺に届くまでの過程 (ガス交換) が存在する。 肺胞から酸素・二酸化炭素が排出される過程か、 血液-肺胞間の空気の流れが障害されればガス交換は滞る。

ガス交換の順序

  1. 中枢が呼吸の司令を出す
  2. 司令を受けて呼吸筋が働き、 肺を広げて空気を取り込み肺胞に届ける
  3. 肺胞でガス交換が起こる

基本的に、 PaCO₂貯留による肺胞低換気は拡散 (血管-肺胞間における二酸化炭素と酸素の交換) の過程ではなく、 より上流である酸素の取り込みの過程が障害されて起こる事が多い。 

一方、 ガス交換系の過程が障害された場合はV/Qミスマッチやシャントが起こる。

肺胞低換気の原因

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どの部位に異常が生じたことで肺胞低換気が発生しているのかを鑑別する。

呼吸中枢 (コントロール系) の異常

  • 頸動脈体の機能異常、 外傷
  • 持続的な低酸素
  • 脳炎、 脳梗塞、 脳腫瘍
  • サルコイドーシス
  • 慢性的な薬剤服用
  • 原発性肺胞低換気症候群

胸郭系、 末梢神経、 呼吸筋の異常

  • 運動ニューロン病
  • 末梢神経炎
  • 重症筋無力症
  • 筋ジストロフィー
  • 肥満低換気症候群
  • 側弯症、 線維胸
  • 強直性脊椎炎
※その他、 筋力低下や痩せ過ぎもリスクになりうる

肺および気道系の異常

  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 重症気管支喘息
  • 閉塞型睡眠時無呼吸症候群
  • 咽喉頭狭窄

PAO₂およびA-aDO₂の計算

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PAO₂の計算式

PAO₂ = (760-47)×FiO₂-PACO₂/0.8
PAO₂ = (760-47)×0.21(大気)-PACO₂/0.8
PAO₂ = 150-PaCO₂/0.8
※CO₂はO₂の20倍速で拡散 (PACO₂≒PaCO₂) 
※A:肺胞気、 a: 動脈血、 v;静脈血 大文字は気体、 小文字は液体

肺胞中のPaCO₂が貯留するとPACO₂も増加し、 上記計算式上のマイナス部分が増えていくため、 肺胞内のPAO₂が減少する。  PAO₂および血中酸素が下がると、 A-aDO₂は開大しなくなる。 

A-aDO₂は肺胞低換気では 「正常」、 拡散障害、 VQミスマッチシャントでは 「開大」 となる。

A-aDO₂の計算式 🔢計算する

A-aDO₂ = PAO₂-PaO₂
A-aDO₂ = (760-47)×FiO₂-PaCO₂/0.8-PaO₂
※基準値 : 10mmHg以下または (4+年齢) ÷4

肺胞内の酸素は足りているのに低酸素血症になるケースは、 酸素が正常=二酸化炭素も正常であり、 Ⅰ型呼吸不全の場合に起こりうる。  特徴としては下記が挙げられる。

  • 血管と肺胞間でのガス交換過程の異常 (ガス交換障害)
  • V/Qミスマッチ、 シャント、 拡散障害
  • A-aDO₂開大
これらはA-aDO₂を計算しないとわからないので、 呼吸不全患者を診る際には必ず動脈血ガス分析を行って、 開大が生じていないかどうかを診ることが大事。

症例提示

病院受診歴の乏しい78歳男性 (IADL自立)

【主訴】亜急性経過の労作時呼吸困難 

 →入院2ヵ月前から自覚あり

【既往歴】医療受診歴は乏しいが高血圧指摘

【内服薬】カルボシステイン

【生活歴】喫煙20本*44年、 機会飲酒


【身体所見】BT36.2℃、 HR112回/分、 BP 232/140mmHg、 RR 28/分、 SpO₂ 85% (2L) 

【血液検査】BNP 41.4 pg/ml、 Tn-I 18.78 pg/ml

【血液ガス】O₂ 2L : PH 7.27、 PaCO₂ 72.5 mmHg、 PaO₂ 76.3 mmHg、 HCO₃ 32.7mmol/L

【胸部X線】心拡大なし、 両側CPA Sharp

【胸部CT】 特記事項なし、PE示唆欠損なし

【呼吸機能検査】高度の拘束性換気障害

VC 1.48 (47.7%)、 FEV1.0 1.52(73.4%)、 FEV1.0% 100.0%

このような症例において、 ここまでの鑑別ポイントを用いて推測される疾患は?

鑑別ポイント

  1. PaCO₂貯留あり→Ⅱ型呼吸不全、 肺胞低換気あり。
  2. A-aDO₂の計算結果より、 V/Qミスマッチやシャントあり。
  3. 肺野の所見や肺塞栓を画像検査で確認、 肺に炎症や水腫はない。 
  4. 呼吸機能検査より高度の拘束性換気障害を確認、 肺胞低換気の原因が呼吸中枢 (コントロール系) の異常か、 胸郭系、 末梢神経、 呼吸筋の異常か、 肺および気道系の異常かを推定する。
  5. 本症例は中枢に異常なし、 高度の拘束性換気障害を伴うため、 胸郭に異常があると推定される。
  6. 呼吸機能検査の結果 (VC:1.48 (47.7%) より神経、 筋疾患の可能性を考慮する。

結果

本症例は神経筋疾患と推定される。 また、 COPDや喘息の合併が考えられる。

最終診断

ALS、 神経内科に転科

まとめ

  • 呼吸不全患者を診るにあたっては、 まずは動脈血ガスを採取し、 Ⅰ型かⅡ型かを見極める
  • Ⅱ型の場合は肺胞低換気であり、 肺以外の原因を考える必要がある
  • ガス交換障害はV/Qミスマッチ、 シャントの有無から判断する

出典

1) 田中竜馬. 竜馬先生の血液ガス白熱講義150分. 2017. 中外医学社.


亀田総合病院呼吸器内科からのメッセージ

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一言 : 当科では教育および人材交流のために、 日本全国から後期研修医・スタッフ (呼吸器専門医取得後の医師) を募集しています。 ぜひ一度見学に来て下さい。

連絡先 : 主任部長 中島啓

メール : kei.7.nakashima@gmail.com

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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