HOKUTO編集部
8ヶ月前
日本臨床腫瘍学会による「発熱性好中球減少症 (FN) 診療ガイドライン改訂第3版」 が2024年2月25日に発刊された。 改訂第3版の作成においては、 2017年に発刊された改訂第2版の遵守状況に関するアンケートの結果を踏まえた検討が行われたという。 第21回日本臨床腫瘍学会 (JSMO 2024) では、 同ガイドライン作成グループ委員でさがみひまわりクリニック院長の秋山暢氏が、 同調査の概要と結果を解説した。
改訂第2版の遵守状況に関するアンケート調査は、 厚生労働科研費/癌対策推進総合研究事業による研究班*により行われた。
同調査の主な目的について、 秋山氏は 「改訂第2版がどの程度周知・活用されているかを調査し、 エビデンスに基づいたFN診療の均てん化を図るための阻害・促進要因を明らかにすること」 と説明した。 実臨床で実際に同ガイドラインが活用されているかの検証はこれまで行われてこなかったという。
同調査は2020年3~5月、 日本癌サポーティブケア学会、 日本臨床腫瘍学会、 日本乳癌学会、 日本血液学会の医師会員を対象に、 サーベイモンキーによる無記名アンケートを実施。
その結果から、 改訂第2版で設けられているクリニカル・クエスチョン (CQ) のうち、 特に遵守率が低い項目が可視化されることとなった。
アンケートでは、 性別、 年齢、 卒業年度、 勤務施設、 専門、 専門医資格、 所属学会といった属性、 およびガイドライン遵守状況関連の21項目についての調査が行われた。
回答選択肢は下記の四肢一択とされ、 自由記載欄も設けられたという。
このうち、 「いつも行っている」 と回答が得られた場合は 「完全遵守」、 「おおむね半分以上行っている」 と回答が得られた場合は 「部分遵守」 として、 完全遵守率および完全遵守+部分遵守率が算出された。
ただし、 行わないことを推奨するCQについては 「全く行っていない」 を 「完全遵守」、 「おおむね半分未満行っている」 を 「部分遵守」 とした。
秋山氏は以下の通り、 結果の概要を報告した。
800件の回答が得られ、 回答者の特徴は以下の通りであった。
全質問項目のうち顕著に遵守率が低かった項目は、
の3項目であった。
3割がMASCCスコアを利用せず
MASCCスコアの使用状況については、
「いつも使用している」 : 16.5%
「おおむね半分以上使用している」 : 31.2%
と、 およそ半数がMASCCスコアを用いたFNのリスク評価を実施していた。 しかし、
「全く使用していない」 : 28.2%
と、 3割弱の回答者はMASCCスコアを使用していないことが明らかにされた。
なお、 MASCCスコアを用いたリスク評価を行わない理由については、 厚生労働科研費/癌対策推進総合研究事業研究班により行われた改訂第2版の遵守状況に関するアンケートの自由記載欄から、
「FNを経験していない」
「もともと高リスクあるいは低リスクの患者を診ているためリスク分類の必要がない」
「MASCCスコアの評価項目が具体的でない」
「MASCCスコアを知らなかった」
などの回答が得られているという。
大多数が外来抗菌薬治療を遵守
また、 低リスクと判断されたFN患者に対する経口抗菌薬治療の遵守率 (Q7) および外来治療の遵守率 (Q8) は、 いずれも約77%と大多数を占めていた。
これらの結果から秋山氏は、 「ガイドラインで推奨されるFNのリスク評価を行わないまま、 外来での抗菌薬投与が行われている可能性がある」 と指摘した。
過半数がG-CSFの治療的投与を実施
FN発症後におけるG-CSFの治療的投与は、 ガイドライン上では推奨されていない。 これに対し、 FN発症後におけるG-CSFの治療的投与については、
「いつも実施している」 : 33.6%
「おおむね半分以上実施している」 : 31.0%
というアンケート回答が合計約65%を占め、 多数の回答者が治療的投与を実施していることが明らかにされた。
G-CSFによる一次予防の実施は十分に普及せず
G-CSFの一次予防実施状況は以下のとおりであった。
G-CSFによる一次予防は、 FN発症頻度が20%以上の癌薬物療法を行う患者と、 FN発症頻度が10~20%の癌薬物療法でFN発症リスクが高い患者に対して推奨され、 発症頻度10%未満の癌薬物療法においては推奨されていない。
しかし、 約4割の回答者が発症頻度10~20%の患者に一次予防を行っておらず、 一方でガイドライン非推奨である発症頻度10%未満の患者に一次予防を行っている回答者もいることが明らかになった。
適切なFNリスク評価の実施が課題に
以上の調査結果を受けて、 秋山氏は 「実臨床においては、 FNリスク評価の実施率が低く、 リスクに応じた適切な治療選択がなされていない可能性がある。 さらにはG-CSFを用いた一次予防が適切に行われておらず、 その結果として治療的投与が行われている実態があるのではないか」 と指摘した。
これらを踏まえて、 改訂第3版では、 特にFN患者のリスク評価法について大きな変更があったという。
(後編に続く)
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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