メイヨークリニック感染症科 松尾貴公
1ヶ月前
Septic Arthritis of the Spinal Facet Joint: Review of 117 Cases
研究デザイン
過去の報告101例に加え、 ボストンの3施設で2006年~2018年に診断された16例を含む計117例の後ろ向き観察研究。
対象
画像上で椎間関節に炎症所見を認め、 関節液・血液・硬膜外膿瘍などから起因菌が同定された18歳以上の症例。
起因菌の同定方法
関節穿刺、 血液培養、 髄液培養、 膿瘍培養のいずれかを用いて同定。
患者背景と罹患傾向
解析対象となった患者の平均年齢は60歳、 男女比は約6:4 (男性57%) であった。
最も多い罹患部位は腰仙椎部 (78%)であり、 特にL4-L5 (39%) とL3-L4 (17%) が多かった。
原因菌はS. aureusが最多 (64%)、 続いて連鎖球菌 (23%)、 グラム陰性桿菌 (5%)、 その他 (真菌や結核など、 4%) であった。
合併症と神経所見
合併症として、 硬膜外膿瘍 (56%)、 傍脊柱筋膿瘍 (54%)、 椎体骨髄炎 (15%)、 腸腰筋膿瘍 (10%) などがみられた。
神経障害は10例 (9%) で、 特に頸椎・胸椎病変で高頻度 (32%) に認められた。
治療・予後
治療は抗菌薬単独が57例、 抗菌薬+穿刺が33例、 抗菌薬+手術が7例、 抗菌薬+穿刺+手術 が10例であった。
神経障害を呈した10例中、 3例が完全回復、 5例が部分回復、 1例が遷延性麻痺、 1例が死亡した。
なお、 抗菌薬の平均治療期間は2000年以前では18週、 2000年以降は8週であった (中央値6週)。
化膿性椎間関節炎 (face joint septic arhtiritis) は化膿性椎体炎とほぼ同じような病態ですが、 本研究はこの椎間板炎のみに焦点を当てて検証していることが特徴です。 化膿性椎間関節炎は脊椎感染症の中では頻度は高くないものの、 MRIで典型的な画像をきたすことから、 臨床医としておさえておきたい骨関節感染症疾患の一つです。
特に、 本研究の結果にもあったように硬膜外膿瘍や傍脊柱筋膿瘍を高頻度に合併する点で注意が必要です。
また、 特に高齢者で関節の変性を背景に菌血症から感染が波及する病態が多く、 他の関節感染と異なり 「腰椎後方」 の解剖的構造が病態形成に関与していることが示唆されました。
本疾患では多くが腰椎に病変を認め、 内科的な保存的治療でも予後は比較的良好です。 ただし、 硬膜外膿瘍や傍脊柱筋膿瘍を合併する際にドレナージが可能かどうかを判断することが、 ソースコントロール (感染巣の除去) の観点でも重要です。
抗菌薬の治療期間については、 本研究では化膿性椎体炎と同様に6週間前後の治療で良好な成績が示されました。 ただし、 併存する膿瘍や合併症の有無、 臨床的な改善に応じて個別化した方針決定が重要です。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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