【学会】末梢動脈疾患ガイドライン2025版 「主な改訂ポイントは?」
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HOKUTO編集部

11日前

【学会】末梢動脈疾患ガイドライン2025版 「主な改訂ポイントは?」

【学会】末梢動脈疾患ガイドライン2025版 「主な改訂ポイントは?」
『2025年 JCS/JSVSガイドライン フォーカスアップデート版 末梢動脈疾患』 (日本循環器学会/日本血管外科学会編) が、 2025年3月28日に発刊された。 今回の改訂では、 急性動脈閉塞や抗血栓療法など4つの分野を中心に、 新たなエビデンスが反映されている。 本稿では、 第89回日本循環器学会においてガイドライン班長/国際医療福祉大学三田病院血管外科の重松邦広先生が発表された内容とガイドライン原文に基づき、 重要な4つの改訂点をHOKUTO編集部がまとめました。

主な改訂ポイントは4項目

今回のフォーカスアップデートは『2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン』の一部改訂版にあたり、 主に以下の4項目について、 新たなエビデンスが取り入れられた。

  1. 急性動脈閉塞の治療
  2. 下肢閉塞性動脈硬化症 (LEAD) 血行再建後の抗血栓療法
  3. 包括的高度慢性下肢虚血 (CLTI) に対する血行再建
  4. CLTIに対する深部静脈動脈化 (DVA)

1 : 急性動脈閉塞の治療

UK供給停止と新規血栓吸引デバイスの導入より、 治療方針を全面改訂

第1の改訂点は、 急性動脈閉塞に対する新たな治療法として、 新規血栓吸引デバイスを用いた治療が導入されたことである。

2021年には、 ウロキナーゼ製剤 (UK) の突然の供給停止により、 血栓溶解療法の施行が困難となった。 これを受けて、 各種関連学会が連名で血栓吸引デバイスの早期薬事承認を求める要望書を提出した。 その結果、 ①急性下肢動脈閉塞②急性上腸間膜動脈血栓症③急性深部静脈血栓症の3疾患を適応に、 血栓吸引デバイスであるINDIGOシステムが2023年9月1日に保険収載された。

今回のフォーカスアップデートでは、 同承認を踏まえ、 急性動脈閉塞の治療に関する記載が2022年版から全面改訂されている。

急性下肢動脈閉塞へのハイブリッド治療の推奨度が引き上げ

急性下肢動脈閉塞に対する診断と治療アルゴリズム自体に関しては、 2022年版から変更はない。 ただし、 急性肢虚血/急性下肢虚血 (ALI) の治療方針に関する 「動脈硬化性病変の合併により血栓除去カテーテルの挿入が困難、 もしくは困難が予想される場合は、 ハイブリッド治療 (外科的血栓塞栓除去術+EVT) での血行再建を行う」 との推奨において、 クラス分類がClass IIa**からClass I*に引き上げられた。

*Class I : 有効・有用であるというエビデンスがある、 または見解が広く一致している
**Class IIa : 有効・有用である可能性が高い

2 : LEAD血行再建後の抗血栓療法

Class Ⅱaで低用量リバーロキサバンの追加が推奨

第2の改訂点は、 下肢閉塞性動脈硬化症(LEAD)に対する抗血栓療法の推奨の変更である。 2022年版では抗血小板薬のみがClass Iで推奨されていたが、 2025年版では下肢バイパス術後の抗血栓療法において 「グラフトが静脈か人工血管かにかかわらず出血リスクを評価の上、 低用量リバーロキサバンをアスピリンに追加することを考慮する」 とされ、 クラス分類はClass IIaに変更された。

3 : CLTIに対する血行再建

バイパスと血管内治療を比較した最新試験のエビデンスが追記

第3の改訂点は、 包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)に対する血行再建としての外科的バイパス術と血管内治療 (EVT) の選択に関するエビデンスの追加である。

2025年版では、 2022年版の公表後に実施された2つの無作為化比較試験 「BEST-CLI」¹⁾、 および 「BASIL-2」 ²⁾の結果が追記されている。

▼BEST-CLI試験、 BASIL-2試験の概要と結果
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出典1、 2を参考に編集部作成

上記の2試験の結果から、 良質な静脈が得られる場合はバイパスの方が主要有害下肢事故 (MALE)リスクは低減され、 そうでない場合は血管内治療の方が良好であることが示唆された。 このため治療アルゴリズムに大きな変更はなく、 2025年版では 「どちらの治療にも精通した下肢チームが個々の患者に合わせて最適な選択をすべきであることが、 改めて両試験で示された」 と追記されるに留まった。

4 : CLTIに対するDVA

新たな治療選択肢として、 適応病変・留意点を詳述

最後の改訂点は、 CLTIに対する足部深部静脈動脈化(Deep Venous Arterialization;DVA)についてである。 DVAとは血行再建が不可能な (no-option) CLTIに対し、 足部深部静脈に動脈血を流すことで酸素化された血液を供給し、 下肢大切断を回避する治療法であり、 外科的アプローチ(sDVA) と経皮的アプローチ(pDVA) の2種類がある。

DVAに関しては、 2022年版では 「エビデンスの蓄積が待たれる」 とのみ記載されていたが、 その後報告された症例や研究結果を踏まえ、 2025年版では各アプローチ法に対して適応や臨床成績、 留意点などが詳述された。

▼術式別の適応・留意点一覧
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重松氏講演内容を参考に編集部作成

なお、 CLTIに対するsDVAの無作為化比較試験は現時点で存在しないことから、 2025年版に追記されたエビデンスについては、 対象が 「no-option患者」 かつ 「大切断リスクが非常に高い状況下」 でのsDVAの臨床成績が評価されている。 このため 「救肢、 臨床症状の改善を含めた評価項目として肯定的な結果を示した論文が多いことを考慮することも必要」 と留意点が追記された。

さらにpDVAにおいては、 治療に用いる機器が日本でまだ薬事承認を取得していないため、 国内で正式導入されているとは言い難い状況である。 これらを踏まえて2025年版では 「DVAはその術後創管理や再建血行管理の特殊性から、 経験豊富な施設以外での実施は推奨されない」 と明記された。

重松氏はCLTIに対するDVAについて、 「日本ではまだ正式導入されておらず、 経験豊富な施設に限って推奨される治療法となっている。 全ての施設がDVAを行える状況ではないが、 『こうした選択肢が存在する』ことを、 まずは広く知っていただくことが重要だ」 と報告した。

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10の主な改訂点について

出典

¹⁾ N Engl J Med. 2022 Dec;387(25):2305-2316.

²⁾ Lancet. 2023 May 27;401(10390):1798-1809.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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