HOKUTO編集部
12ヶ月前
本企画は、 4人の腫瘍内科医による共同企画です。 がん診療専門医でない方でも、 ちょっとしたヒントが得られるようなエッセンスをお届けします。 第5回は、 がん研究会有明病院乳腺内科の木澤莉香先生からです! ぜひご一読ください。
「Do Not Attempt Resuscitation (DNAR) はとっていますか?」と聞かれたことはないでしょうか。 この話が出る時は大抵がん患者さんの死期が差し迫っていて、 医師は急いで病状説明を行います。 ところが、 予想外に話がまとまらず、 看護師や上級医から結論を急かされる…そんな状況を経験したことのある先生も少なくないと思います。
DNARの「言質をとる」ことも必要ではありますが、 コードステータスを話し合うことは「良い死の過程をともに考える」ことでもあり、 サインをもらう以前の話し合いが、 本来重要であることは間違いありません。 しかし、 この話し合いは医療者にも患者さんにも心理的負担が大きく、 なんとかDNARを「とらなきゃ」という感覚を持ってしまうわけです。
コードステータスの話し合いはadvanced care planning (ACP) の一環でもあるため、 完治不能ながんと診断されてから折に触れてACPを行えていると、 終末期を迎える前の早い時期に話ができて理想的です。 しかし、 多忙な外来の中で思うように進んでいないことの方が、 正直多いかもしれません。 そのため多くの場合、 急な病勢進行の中で急いで話す必要に迫られますが、 どんな場合でも、 DNARの話をする前に以下の3つを押さえることが鍵になると考えています。
①病状の理解
②治療のゴールの理解 (残されている時間の質を高くするというゴール)
③予後予測 (告知する場合は希望を確認した上で、 幅を持たせた表現をする)
①~③を確認した上で、 終末期の心停止は、 蘇生処置を行って元に戻る病態ではなく、 ほとんど予期されたものであり、 蘇生処置の適応はないことをお伝えするようにしています。 なお、 それでも強くご希望された場合には、 ご家族の心情のためやむを得ず行う場合もあります。
💬 腫瘍内科医のTips
蘇生処置について、 希望する・しないの二者択一で問いかけると、 ご家族は「蘇生処置を望んだらもっと長く生きられたのではないか、 自分たちが選んだせいではないか」と後悔される可能性もあります。 そこで、 「がんの終末期における蘇生処置については良いことがないばかりか、 苦痛を生じる可能性があり、 そもそも提示すべき治療法ではありません」と、 明確にお伝えするようにしています。
慣れていない場合や当直で突然コードステータスについて話さなければならなくなった時でも、 有名な 「SHAREモデル」 が非常に役立ちます。 詳細は割愛しますが、 特にReassurance and Emotional support (RE ; 安心感と情緒的サポート) はとても重要です。
例えば面談を、 気持ちを和らげる言葉がけから始め (「最近寒くなりましたね」)、 心の準備を促し (「今日は少し大切なお話をします」)、 Bad Newsを伝えた後は感情を受け止め (沈黙の時間をとる、 「驚かれましたよね」)、 できないことだけでなくできることも伝え (「痛みを和らげていきましょう」)、 最後に、 今後も責任を持って診療にあたることを伝える、 という流れで進めます。 DNARの話もこの流れに沿うことで、 話しにくさも軽減するように思います。
DNARはbest supportive care (BSC)とイコールではありません。 これは、 患者さん・ご家族だけではなく、 医療者も誤解することがあります。
DNARの方針なので昇圧剤を投与しない、 輸血をしない、 採血をしない、 というのはいずれも誤用です。 DNARはあくまで「心停止時に蘇生処置を試みないこと」を意味するため、 心停止時以外の方針を示すものではありません。 ただ、 BSCに専念している終末期のがん患者さんにおいて、 症状緩和を第一として種々の処置を控えることと混同しやすいのは事実です。
医療者でもそうなので、 患者さん・ご家族は、 DNARに同意することで全てを諦めるような印象を受けることがあるということに、 注意が必要です。
💬 腫瘍内科医のTips
DNARの話をする時は必ず、 その他の必要な医療・ケアについては、 穏やかに過ごせるよう引き続き最善を尽くすことを、 お伝えするようにしています。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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