HOKUTO編集部
3ヶ月前
ニボルマブ (Nivo) とイピリムマブ (Ipi) の併用療法は長期奏効が期待できるレジメンとして、 消化器癌の領域においても注目が集まっています。 本稿では、 消化器癌におけるNivo+Ipi療法の立ち位置や展望について、 国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科/消化器内科の山本駿先生にご解説いただきました。
消化器癌に対する薬物療法は、 殺細胞性抗癌薬をベースに、 胃癌におけるトラスツズマブや大腸癌におけるベバシズマブやセツキシマブといった分子標的薬の開発が進められ実臨床に応用されてきた。 近年、 免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の開発が進み、 食道癌や胃癌、 肝癌、 胆道癌で初回薬物療法の標準治療を構成する薬剤の一つとして実臨床に応用されている。 ICIの2剤併用療法であるNivo+Ipi療法も一部の癌種では実臨床への応用や開発が進められている。
本稿ではNivo+Ipi療法の立ち位置と展望に関して、 各癌種別に概説する。
食道癌では、 CheckMate 648試験においてNivo+Ipi療法が開発された。 CheckMate 648試験は、 未治療の進行食道扁平上皮癌を対象に、 シスプラチンとフルオロウラシル (5-FU) 併用 (CF) 療法を対照群として、 CF+Nivo療法、 Nivo (3mg/kg, day 1, 15, 29, 6週間隔投与) + Ipi (1mg/kg, day 1, 6週間隔投与)療法を試験治療として比較した国際共同第Ⅲ相無作為化比較試験であり、 主要評価項目としてPD-L1陽性 (PD-L1 TPS 1%以上) 例における全生存期間 (OS) 等が設定された。
CheckMate 648試験には970例が登録され、 1:1:1で各群に割り付けられた。 主要評価項目であるPD-L1陽性例におけるOS中央値は、 Nivo+Ipi療法群で13.7ヵ月で、 CF療法群の9.1ヵ月に対する優越性が証明された (HR 0.64、 98.6%CI 0.46~0.90)。
副次評価項目である全集団でのOS中央値においても、 Nivo+Ipi療法群では12.7ヵ月で、 CF療法群の10.7ヵ月に対する優越性が証明された (HR 0.78、 98.2%CI 0.62-0.98)¹⁾。
さらに今年の米国臨床腫瘍学会 (ASCO 2024) で発表されたCheckMate 648試験の45ヵ月フォローアップデータでは、 48ヵ月生存割合がPD-L1陽性例で18%、 全体集団で17%と、 PD-L1発現を問わず、 長期奏効が得られていた²⁾。
有害事象に関しては、 全Grade (括弧内はGrade 3-4) で、 皮膚障害が34.2% (4.0%)、 内分泌障害が27.3% (5.9%)、 肝障害が13.0% (4.3%)、 消化管障害が11.8% (1.6%) と報告されており¹⁾、 実臨床で使用する場合には定期的な診察とホルモン値を含む採血検査が必要であると考えられる。
CheckMate 648試験の結果から、 進行食道扁平上皮癌の初回薬物療法の一つとして、 Nivo+Ipi療法は確立されており、 長期奏効も期待できることから優先順が高いと考えられる。 しかし、 短期的には初回画像評価で増悪を来す症例もいることから、 CheckMate 648試験の副次解析などで示唆されているデータを基に、 対象症例の適切な選択が必要と考えられる。
胃癌では国際共同第Ⅲ相試験であるCheckMate 649試験で当初Nivo(3mg/kg、 day1、 3週間隔投与)+Ipi (3mg/kg、 day1、 3週間隔投与)療法が開発されたが治療効果が得られなかった³⁾。 そのため、 他癌種での開発動向も含めて、 ICIの有効性が期待できる集団であるMSI-highに対象を絞り、 Ipiを1mg/kgに減量したレジメンが、 西日本がん研究機構 (WJOG) が中心となって実施されたNO LIMIT試験において検討された。
NO LIMIT試験は、 未治療のMSI-highの進行胃癌を対象に、 Nivo+Ipi療法の有効性と安全性を検討した単群の第Ⅱ相試験である。 主要評価項目は奏効率 (ORR) と設定された。
NO LIMIT試験には29例が登録され、 主要評価項目であるORRは62.1% (95%CI 42.3-79.3%) と報告され (閾値35%)、 CR割合は10.3%と報告された。 PFS中央値とOS中央値はともに未到達と報告された。
Grade 3の治療関連有害事象は、 甲状腺機能低下症が6.9%、 発疹が6.9%、 肺臓炎が3.4%で報告され、 Grade4の治療関連有害事象は、 1例で脳炎が報告された。 治療関連死は報告されなかった⁴⁾。
これらの結果から、 対象をバイオマーカーで絞ることでNivo+Ipi療法が有望である可能性が示唆された。 なお現在ATTRACTION-6として、 2剤併用化学療法へのNivo+Ipiの上乗せを検証する第Ⅲ相試験が進行中であり、 この結果次第でNivo+Ipiを含む治療が標準治療となり得ると考えられる。
大腸癌は腫瘍免疫学的にcold tumorとされ、 ICIの治療効果が得られにくい腫瘍と考えられている。 実際に各種のICIの臨床試験が行われたが、 多くが有効性を証明できなかった。 そのため、 胃癌同様、 バイオマーカーで絞り込む形での治療開発が進められ、 MSI-high/dMMRを有する大腸癌を対象としたCheckMate 8HW試験でNivo+Ipi療法が初回治療として開発された。
CheckMate 8HW試験は未治療のMSI-high/dMMRを有する切除不能な進行大腸癌を対象にして、 化学療法±分子標的薬を対照群として、 Nivo(240mg/body、 day 1、 3週間隔投与)+Ipi (1mg/kg、 day 1、 3週間隔投与) 療法、 Nivo単剤療法を試験治療として比較した国際共同第Ⅲ相無作為化比較試験である。
主要評価項目はPFS (Nivo+Ipi療法 vs 対照群、 Nivo+Ipi療法 vs Nivo単剤) と設定され、 米国臨床腫瘍学会消化器癌シンポジウム (ASCO-GI 2024) ではNivo+Ipi療法と対照群の2群に関するPFSとその安全性が報告された。
CheckMate 8HW試験には初回治療例として303例が登録され、 中央判定により255例がMSI-highと同定された。 主要評価項目の一つであるPFS中央値はNivo+Ipi療法群で未到達で、 対照群の5.8ヵ月に対する優越性が証明された (HR 0.21、 95%CI 0.14-0.32)。
Grade 3~4の治療関連有害事象の発生頻度は、 Nivo+Ipi療法群で23% 、 対照群で48%と報告されたが、 Nivo+Ipi療法群では、 Grade 3以上の下痢 (5%) や副腎不全 (4%)、 肝障害 (3%)、 下垂体炎 (3%) が報告され、 治療関連死も1%に報告された⁵⁾。
すでに既治療のMSI-high/dMMRを有する大腸癌においては、 CheckMate 142試験⁶⁾で有効性が報告され実臨床で使用されているが、 今後初回治療でもNivo+Ipi療法が使用可能になることが期待される。
肝細胞癌ではCheckMate 9DW試験でNivo+Ipi療法が開発された。 CheckMate 9DW試験は未治療の切除不能な進行・再発肝細胞癌を対象に、 レンバチニブまたはソラフェニブを対照群とし、 Nivo (1mg/kg、 day 1、 3週間隔投与) +Ipi (3mg/kg、 day 1、 3週間隔投与) 療法を試験治療として比較した国際共同第Ⅲ相試験であり、 主要評価項目にはOSが設定された。
CheckMate 9DW試験には668例が登録され、 1:1で各群に割り付けられた。 主要評価項目であるOS中央値はNivo+Ipi療法群で23.7ヵ月であり、 対照群の20.6ヵ月に対する優越性が証明された (HR 0.79、 95%CI 0.65~0.96)。
有害事象に関しては、 Nivo+Ipi療法では、 Grade 3以上の主な有害事象はAST上昇 (6%)、 ALT上昇 (5%)、 リパーゼ上昇 (5%) と報告された⁷⁾。
この結果から、 今後実臨床において、 Nivo+Ipi療法が標準治療の一つとして使用され得ると推測されるが、 既に肝細胞癌においてはアテゾリズマブとベバシズマブ併用療法 (IMbrave 150)⁸⁾や、 デュルバルマブとトレメリムマブ併用療法 (HIMALAYA)⁹⁾が初回治療として有効性を示している。
その中で、 CheckMate 9DW試験ではレンバチニブも含めた場合でも優越性が証明されていることや、 高い奏効割合も報告されている点などから、 1次治療のレジメンの使い分けが重要なポイントになると考えられる。
Nivo+Ipi療法は従来の化学療法と異なり、 長期奏効の可能性を秘めたレジメンであり、 生存期間の延長を目的の一つとする緩和的薬物療法として重要な位置を占めている。 そのため、 実臨床で運用する際には、 対象集団の選択や有害事象管理が重要と考えられる。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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