仲野 兼司(がん研有明病院 総合腫瘍科)
2ヶ月前
局所進行頭頸部扁平上皮癌に対する非手術治療では、 シスプラチン (CDDP) を併用した同時化学放射線療法 (CRT) が標準とされてきました。 ただし、 高用量CDDPは骨髄抑制、 消化器毒性、 腎障害などのリスクが高く、 治療の継続が困難となる場合もあります。 そのため、 代替レジメンや新規薬剤の開発が進められてきました。 連載第6回目となる本稿では、 CRTの代替として検討されてきたセツキシマブ (Cmab) 併用放射線療法 (Bioradiotherapy;BRT)や、 免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の併用療法について概説します。
専門 : 腫瘍内科 (骨軟部腫瘍、 頭頸部腫瘍、 原発不明癌、 希少癌、 その他癌薬物療法全般)
抗EGFR抗体セツキシマブ (Cmab) は、 2006年のBonner試験¹⁾において、 放射線治療への上乗せにより主要評価項目である局所制御の改善を示し、 さらに生存期間 (OS) の延長も報告されたことで、 頭頸部癌に対する初の分子標的薬としてエビデンスが確立された。
その後の解析では、 Cmabは皮膚症状の出現が治療効果の指標となる可能性²⁾や、 ヒトパピローマウイルス (HPV) 関連中咽頭癌での上乗せ効果の高さ³⁾が報告された。 こうした結果を受け、 Cmab併用放射線療法はBRTとして国内でも承認された。
BRTはCDDP併用CRTに比べて有効性が劣り、 安全性の利点にも乏しいことから、 使用は推奨されない。
しかし、 局所進行頭頸部扁平上皮癌を対象としたCDDP併用CRTに対するCmabの上乗せ効果を検証したRTOG0522試験⁵⁾で有効性は示されず、 その後の試験でもBRTの有用性は否定的な結果が続いた。 また、 ARTSCAN III試験⁶⁾ではCDDP併用CRTに対するBRTの非劣性が示されず、 HPV陽性中咽頭癌を対象としたRTOG1016試験⁷⁾およびDe-ESCALaTE試験⁸⁾でも同様の結果であった。 さらに、 CDDP不耐例に対する後方視的研究でも、 BRTはカルボプラチン併用CRTより生存率で劣る傾向が示された⁹⁾。
こうした背景から、 BRTは保険診療上は実施可能であるものの、 実臨床で使用される機会はごく限られている。
再発・転移例に対する予後改善効果が確立しているICIは、 局所進行例への応用も試みられてきた。 抗PD-1抗体ペムブロリズマブを用いたKEYNOTE-412試験¹⁰⁾では、 CRT中および治療後に維持療法として追加投与する戦略がプラセボ対照で検証されたが、 主要評価項目である無イベント生存期間 (EFS) の有意な延長は認められなかった。
抗PD-L1抗体アベルマブをCRTの前後に投与するJAVELIN Head and Neck 100試験¹¹⁾でも、 ICIの上乗せによる臨床的有用性は示されなかった。
一方、 CDDP不耐例に対する代替治療としてもICI併用放射線療法の検討が行われている。 NRG-HN004試験¹²⁾では、 抗PD-L1抗体デュルバルマブ併用放射線療法がBRTを対照に比較されたが、 有効性の点でBRTを上回ることはできなかった。
現時点では、 BRTにICIを上乗せする試みが第I相試験で進められており、 Cmabと抗CTLA-4抗体イピリムマブまたはアベルマブを併用する免疫放射線療法の安全性データが報告されている¹³⁾⁻¹⁵⁾。 ただし、 有効性については今後の結果を待つ段階である。
放射線治療との併用で治療効果の増強が期待されていたxevinapantは、 経口アポトーシス阻害タンパク質 (IAP) 阻害薬として第Ⅱ相試験¹⁶⁾で有望な結果を示していたが、 進行中の第Ⅲ相比較試験TrilynXは中間解析の結果、 主要評価項目の達成が困難と判断され、 2024年6月に中止となった。 これにより、 開発継続は不透明な状況となっている。
また、 頭頸部癌において広く発現が認められるMET受容体を標的とする戦略として、 肺癌で承認されているMET阻害薬テポチニブを放射線治療に併用する前臨床試験¹⁷⁾が実施されており、 有望な放射線増感効果が示されている。 今後の臨床応用に向けたエビデンスの蓄積が期待される。
局所進行頭頸部癌に対する放射線治療への化学療法併用戦略については、 これまでにBRTやICIの併用、 新規薬剤の導入が試みられてきたものの、 現時点でCDDP併用CRTを上回る有効性を示した治療法は確認されていない。
一方で、 再発・転移例で有効性のある薬剤の局所進行例への応用や、 新たな標的治療薬の開発は継続しており、 今後の臨床試験の成果が期待される。
▼ASCO2025解説
▼仲野兼司先生解説、 頭頸部癌薬物療法の解説
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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