寄稿ライター
9ヶ月前

こんにちは、 Dr.Genjohです。 財務省の資料から我々保険医の将来を占う短期集中シリーズ 「医師の黄昏~氷河期の到来~」。 第5回では、 新規開業に潜む罠について考察します。
財務省の資料 「社会保障」 はコチラ。

日本の医師数は第二次世界大戦後から増加の一途を辿っています。 2020年の新入医学部定員数の維持を前提とした場合には、 2029年には医師の供給が需要を追い越してしまう、 つまり 「医師が余る」 と推定されています【図1】。
医師同士が生き残りを賭けた椅子取りゲームを開始せざるを得なくなるまで、 なんとあと4年しか残されていません。

仮に2024年の医学部定員数を維持した場合、 2050年には日本人口の約85人に1人が医学部に進学する計算になります【図2】。 1970年に約436人に1人であったことを鑑みると、 医師の稀少性は実に約5分の1まで低下してしまうわけです。
医師の待遇や社会的地位が絶望的な変化を遂げることは想像に難くありません。

ただ、 厚生労働省は 「医師数の増加に伴う医療費の増大が問題」 と既に認識しています。 2026年度の医学部定員数は約9400人ですが、 適正人数は6130人としています。
今後、 医学部の定員削減が見込まれますが、 急激な削減は困難でしょう。 つまり、 医師の需給バランスが適性化されるまでには相当の時間がかかると考えられ、 「医師余り」 時代は長く続くことになりそうです。

医師数の増加が止まらない原因の一つとして、 地方の病院における医師不足が挙げられます。
2022年に開催された厚生労働省の分科会では、 「病院で働く医師の数は減っているのに、 開業医の数は増え続けていることが問題だ。 開業医の診療所は6万か所あれば事足りる」 と提言されています。
2023年時点の診療所数は全国で8万6000か所余り。 つまり、 財務省は 「2万6000か所の診療所は潰れて結構。 潰れた診療所の開業医は、 地方の勤務医になって病院の医師不足を解消してくれ」 という見解です【図3右】。

どうすれば開業医を潰すことが出来るか。 少なくとも、 勤務医から開業医にシフトさせないように仕向けられるか。
答えは単純明快です。 勤務医から開業医へシフトしたくなくなるように、 開業医の診療報酬体系を適正化、 つまり悪化させればよいのです。

日本の保険診療は、 どの医療機関でも一律1点10円です。 今回の提言では、 長らく揺らぐ事が無かったこの不文律が崩れる可能性が示唆されています。
診療所過剰地域における保険点数を、 1点10円から削減することが検討されています。 仮に1点9円に削減された場合を想定してみましょう。
同じ治療であっても、 「僕は報酬1万円、 君は報酬9000円」 が現実となり得るのです。

さらに、 外来医師多数区域では、 新規開業希望者に対して救急や夜間・祝日診療、 在宅医療、 学校医など地域で必要とされる (けれどもみんなやりたがらない) 医療機能を求めるとしています【図5】。
求めに応じない場合には協議の場と言う名のお白州に引きずり出され、 裁きの結果は地域住民に公表されることとなります。
地域住民からの信頼は開業医にとって絶対的に欠かす事の出来ない最重要ファクターであり、 結果の公表は事実上の死刑宣告と言っても過言ではないでしょう。
現実的には逃れる事の出来ない雑徭 (無償もしくは低賃金の労役) が課されると考えて相違ないでしょう。

「外来医師多数地域」 は全国に存在する二次医療圏のうち、 医師偏在指標が上位3分の1以上である医療圏のことを指します。
少なくとも外来医師多数地域における診療所の新規開業がリスキーであることはご認識いただけましたでしょうか。
【図6】は関東の例ですが、 下記リンクから全国のデータを参照することができます。
「開業医が厳しいのであれば、 勤務医をすればいい」 なら話は簡単なのですが、 それはそれで正解とも言えません。
答えは何処にあるのでしょうか…。
次回はいよいよ、 メスが入る診療科ごとの評価についてお話します。
なお財務省の専門部会での検討内容を織り込んだ資料 「持続可能な社会保障制度の構築 (財政各論Ⅱ) 」 が公表されました (2025年4月23日)。 本シリーズ終了後、フォーカスアップデート版のミニ連載を予定しています。

Xアカウント : @DrGenjoh
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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