【印象記】米国胸部学会 (ATS) 2024 -領域別注目演題を解説- (中島啓先生)
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亀田総合病院

3ヶ月前

【印象記】米国胸部学会 (ATS) 2024 -領域別注目演題を解説- (中島啓先生)

【印象記】米国胸部学会 (ATS) 2024 -領域別注目演題を解説- (中島啓先生)
2024年5月に米・サンディエゴで、 米国胸部学会 (American Thoracic Society ; ATS) 2024が開催されました。 同学会はあらゆる呼吸器内科学の最新の研究に関して、 世界中の研究者が発表・議論を行う世界最大規模の呼吸器学会です。 本稿では、 ATS2024における注目演題について、 領域別に紹介します。

COPD

【NOTUS】タイプ2炎症を有するCOPD、 デュピルマブで増悪減少

Efficacy and Safety of Dupilumab in Patients With Moderate-to-Severe COPD and Type 2 Inflammation: Phase 3 NOTUS Trial.

N Engl J Med. 2024 May 20. PMID: 38767614


▼背景

タイプ2炎症を有するCOPD患者に対するヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体デュピルマブの有効性を評価した二重盲検無作為化比較試験です。

▼試験デザイン

末梢血好酸球数300/uL以上のCOPD患者に対しデュピルマブあるいはプラセボを投与しました。 主要評価項目として、 中等度または重度のCOPD増悪の年間発生率が比較されました。

▼試験結果

935例の患者が無作為化され、 デュピルマブ群に470例、 プラセボ群に465例が割り付けられました。 中等度または重度の増悪の年間発生率はデュピルマブ群で0.86 (95%CI 0.70-1.06)、 プラセボ群で1.30 (95%CI 1.05-1.60) であり、 プラセボと比較した発生率比は0.66 (95%CI 0.54-0.82、 p<0.001) でした。

タイプ2炎症を伴うCOPD患者において、 デュピルマブはプラセボに比べて増悪の減少と関連していました。

💬 補足コメント

現在COPDに対するデュピルマブの追加適応が申請中です。

【COURSE】中等度~重症患者へのテゼペルマブで増悪減少

Tezepelumab in Adults With Moderate to Very Severe Chronic Obstructive Pulmonary Disease (COPD): Efficacy and Safety From the Phase 2a COURSE Study.

▼背景

中等度から重症のCOPD患者に対する抗TSLP ヒトモノクローナル抗体テゼペルマブの有効性と安全性を評価した第Ⅱ相試験です。

▼試験デザイン

中等度から重度のCOPDを有する患者333例に、 テゼペルマブまたはプラセボが投与されました。 主要評価項目として、 中等度または重度のCOPD増悪の年間発生率が評価されました。

▼試験結果

333例の患者が無作為化され、 テゼペルマブ群に165例、 プラセボ群に168例が割り付けられました。 全体として、 テゼペルマブはプラセボと比較して中等度または重度のCOPD増悪の年間発生率を17%減少させました (90%CI -6-36%、 p=0.1042)。 末梢血好酸球数が150/µL以上の患者では37% (95%CI 7-57%)、 300/µL以上の患者では46% (95%CI -15-75%) の減少が観察されました。

テゼペルマブは、 中等度または重度のCOPD増悪の全体的な発生率を減少させましたが、 プラセボと比較した場合の統計的有意性は達成されませんでした。 しかし、 末梢血好酸球数が150/µL以上の患者では全体よりも大きな減少が観察されています。

💬 補足コメント

COPDにおいて、 特にタイプ2炎症を有する患者は、 テゼペルマブのベネフィットを得られる可能性があります。

【BICS】ハイリスク患者へのビソプロロールで増悪は減少せず

Bisoprolol in Patients with COPD at High Risk of Exacerbation: The BICS Randomized Clinical Trial.

JAMA. 2024 May 19. PMID: 38762800


▼背景

観察研究では、 β遮断薬の使用はCOPD増悪リスクの低下と関連する可能性があると報告されています。 本研究は、 増悪リスクの高いCOPD患者において、 β₁受容体選択性遮断薬ビソプロロールがCOPD増悪を減少させるかどうかを検証した二重盲検無作為化比較試験です。

▼試験デザイン

英国の76施設 (プライマリ・ケアクリニック45施設、 1次クリニック31施設) で実施されました。 登録患者は、 ビソプロロール群 に261例、 プラセボ群に258例が割り付けられました。

▼試験結果

主要評価項目であるCOPD増悪は、 ビソプロロール群で526回、 平均増悪率は2.03/年であったのに対し、 プラセボ群では513回、 平均増悪率は2.01/年でした。 調整後の発生率比は0.97 (95%CI 0.84-1.13、 p=0.72) でした。

重篤な有害事象は、 ビソプロロール群では14.5% (255例中37例) に発生したのに対し、 プラセボ群では14.3% (251例中36例) に発生した (相対リスク 1.01、 95%CI 0.62-1.66、 p=0.96)。 ビソプロロールの安全性プロファイルはプラセボの安全性プロファイルと同様で、 重篤な有害事象や全ての副作用または呼吸器系の有害反応の増加はありませんでした。

増悪リスクの高いCOPD患者において、 ビソプロロールによる治療はCOPD増悪を減少させませんでした。 しかし、 呼吸器系を含む有害事象の増加をビソプロロールで認めることはなく、 ビソプロロールの安全性が示されました。

💬 補足コメント

COPD患者においても、 心血管疾患があり、 ビソプロロールの必要性がある患者においては、 ビソプロロールは比較的安全に使用できる可能性が示唆されました。

びまん性肺疾患領域

【STARSCAPE】IPFへのzinpentraxin alfaに有効性認めず

Zinpentraxin Alfa for Idiopathic Pulmonary Fibrosis: The Randomized Phase III STARSCAPE Trial.

Am J Respir Crit Care Med. 2024 May 1;209(9):1132-1140. PMID: 38354066


▼背景

第Ⅱ相試験では、 特発性肺線維症 (IPF) 患者に抗線維化薬zinpentraxin alfaを投与した場合、 28週間にわたって臨床的な利益が得られることが報告されました。 これを受けて、 第Ⅲ相験が行われました。

▼試験デザイン

664例の患者が無作為化され、 333例がプラセボ群、 331例がzinpentraxin alfa群に割り付けられました。

▼試験結果

事前に設定された無益性解析により、 プラセボに対してzinpentraxin alfaが効果を認めないことが示されたため、 試験は早期に終了となりました。

最終解析では、 ベースラインから52週目までの努力性肺活量 (FVC) の絶対変化量は、 プラセボ (-214.89mL) とzinpentraxin alfa (-235.72mL) で同様でした (p=0.5420)。 副次評価項目に対する明らかな治療効果も認められませんでした。

全体として、 有害事象を経験した患者の割合は、 プラセボ群で72.3%、 zinpentraxin alfa群で74.6%でした。

💬 補足コメント

第Ⅱ相試験を事後解析したところ、 プラセボ治療を受けた2例に極端なFVC低下があり (外れ値) の臨床的有益性の原因と考えられました。 今後の臨床試験を行っていく上で、 小規模の症例数の場合は外れ値が結果に影響を与えてしまうことを認識する必要があること。 そして、 外れ値に対する、 適切な解析方法を確立する必要があることが述べられました。

【ZEOGTRUS-1】IPFへのpamrevlumab、 努力肺活量に有意差なし

Pamrevlumab for Idiopathic Pulmonary Fibrosis: the ZEPHYRUS-1 Randomized Clinical Trial.

JAMA. 2024 May 19. PMID: 38762797


▼背景

IPFに対する、 結合組織成長因子を阻害するモノクローナル抗体pamrevlumabの有効性を見た第Ⅲ相無作為化試験です。 この薬剤は第Ⅱ相試験で、 IPFに対する進行抑制を認め安全性も確認されていました。

▼試験デザイン

IPFの患者がpamrevlumab群181例とプラセボ群175例に割り付けられました。 主要評価項目はFVCの変化でした。

▼試験結果

主要評価項目であるFVCの変化について両群で有意な差を認めませんでした。 pamrevlumab群では88.4% (160例) が治療関連の副作用を、 28.2% (51例) が重大な副作用を経験しましたが、 プラセボ群ではそれぞれ86.3% (151例) と34.3% (60例) でした。

IPFの患者に対するpamrevlumabまたはプラセボの治療では、 ベースラインから48週目までの主要なアウトカムであるFVCの絶対変化に有意なグループ間の差はありませんでした。

💬 補足コメント

本研究が、 第Ⅱ相試験の有効性が再現できなかった要因として、 第Ⅲ相験では他の抗線維化薬の使用が許容されていたことなどがあげられました。 またFVCという変動制の大きいエンドポイントのみが現在IPFの第Ⅲ相験の主要評価項目になっていることに関する問題提起もあり、 今後は、 呼吸器疾患による入院、 死亡、 患者報告アウトカムなど複数のエンドポイントを考慮すべきであることが提案されました。 第Ⅱ相試験が、 第Ⅲ相験の対象となる一般集団を代表する集団であるべきことも述べられました。

呼吸器感染症

【ARISE】肺MAC症へのALIS追加でQOL-B RDに基づく呼吸器スコア改善

A Randomized, Double-blind Trial of Amikacin Liposome Inhalation Suspension in Adults With Newly Diagnosed or Recurrent Mycobacterium Avium Complex Lung Disease to Validate Patient-reported Outcome Instruments and Assess Microbiological Outcomes of Treatment: The ARISE Study.

▼背景

アミカシン吸入懸濁液 (ALIS) の非結核性抗酸菌症に対する、 患者報告の呼吸器症状 (Quality of Life-Bronchiectasis respiratory domain ; QOL-B RD) の変化をみた無作為化比較試験です。

▼試験デザイン

非空洞性の肺Mycobacterium avium complex (MAC) 症の患者にアジスロマイシンとエタンブトールに加えて、 ALIS (590mg) または空リポソーム群 (比較群) を併用する群に無作為に割り付けました。 ALIS群は48例で、 比較群が51例でした。

▼試験結果

ALIS群の患者は、 ベースラインからのQOL-B RDが平均12.24ポイントの改善を示し (95%CI 7.96-16.53)、 比較群では7.76ポイント (95%CI 3.76-11.77) の改善を示しました。 ALIS群の43.8%の患者および比較群の33.3%の患者が、 14.8ポイント以上の改善を達成しました。 ALIS群において新たな安全性の懸念は観察されませんでした。

6ヵ月目までの培養転換率は、 ALIS群 (80.6%) が比較対照群 (63.9%) より高く認めました。 この傾向は治療1ヵ月後の7ヵ月目も続き、 転換率はALIS群が78.8%であったのに対し、 比較群は47.1%でした (p=0.0010)。

新規または再発肺MAC症患者に、 マクロライドベースのレジメンにALISを6ヵ月間追加することで、 QOL-B RDに基づく呼吸器症状の有意なスコア改善を達成することができました。

まとめ

以上、 注目演題について報告しました。 私は、 会場がいっぱいであったり、 自分の発表準備があったので、 後日オンデマンドでこれらのセッションを聞いたのですが、 著者の先生から直接研究の背景や解釈を聞くことができ、 大変勉強になりました。

個人的には、 ネガティブデータとなった間質性肺炎の2つの研究 (STARSCAPE、 ZEOGTRUS-1) が勉強になりました。 この2つの研究発表は、 第Ⅱ相試験で臨床的ベネフィットがあったのにも関わらず、 第Ⅲ相験で結果がネガティブとなった原因を徹底的に追及して議論しており、 次の研究につなげる建設的な議論がなされました。 トップエキスパートである医師たちが、 学問を真摯に追及する姿勢に多くのことを学びました。


次回は、 私の発表および発表経験から学んだことについて述べます。
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