HOKUTO編集部
2ヶ月前
近年、 食道癌治療は局所進行例から遠隔転移例に至るまで選択肢が広がりつつある一方で、 日常診療では依然として治療方針に迷う場面が少なくない。 そこで本稿では、 2025年3月に報告された3本の注目論文を紹介し、 こうした臨床課題に直面した際に判断の一助となる最新知見を提示する。
SANO試験は、 CROSS試験¹⁾レジメンで術前化学放射線療法 (CRT) を受け、 臨床的完全奏効 (cCR) を示した切除可能局所進行食道癌患者を対象に、 アクティブサーベイランスと予定手術を比較した第Ⅲ相クラスター無作為化比較試験である。
主要評価項目は全生存期間 (OS) とし、 アクティブサーベイランスが予定手術に対して非劣性であるかを検証した。
198例がアクティブサーベイランス群、 111例が予定手術群に割り付けられた。 フォローアップ中央値は38ヵ月であった。
修正ITT集団における2年生存割合はアクティブサーベイランス群74%、 予定手術群71%であり、 非劣性が証明された (片側95%境界 : 7%以下)。
またOSにおいて両群で有意差は認められず、 手術関連合併症や死亡率も両群で同等であった。
術前CRT後には病理学的完全奏効割合が約30%で得られると報告されており、 切除可能な局所進行食道癌に対してcCRを得られた場合に手術を省略する臓器温存戦略が検討されている。
本研究は、 cCR症例に対してアクティブサーベイランスの有用性を検証した重要な報告である。 しかし、 本アクティブサーベイランス法を検討したpreSANO試験²⁾の症例が含まれており純粋な無作為化とは言えないこと、 さらに食道扁平上皮癌症例が70例程度と少なく、 日本で一般化するには課題がある。
日本ではDCF療法後の臓器温存戦略 (CROC試験³⁾) も検討中であり、 今後はSANO試験結果を踏まえつつ、 日本の標準治療体系に即した臓器温存戦略の発展が望まれる。
本研究は、 遠隔転移を有する食道扁平上皮癌に対して緩和的化学療法後に根治目的で手術または化学放射線療法を行った症例を、 多施設共同で後ろ向きに調査した。
日本国内22施設から147例が登録された。 最も多い転移部位は腹部大動脈周囲リンパ節 (55%) であった。 コンバージョン手術は116例、 コンバージョン化学放射線療法は31例に施行された。
5年生存割合は31.7%であり、 病理学的奏効が得られた場合はOSが有意に延長した (ハザード比 0.493、 95%CI 0.283-0.859)。
術後合併症として肺炎 (16%)、 吻合部漏 (7%)、 反回神経麻痺 (6%) が報告された。 化学放射線療法中には18%でgrade 3以上の非血液毒性が認められた。
近年、 免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) を含む化学療法の進展により、 進行期食道扁平上皮癌でも高い奏効割合が得られ、 根治を目指したコンバージョン治療が実施されるようになってきた。 しかし、 長期予後に関するエビデンスは不十分であった。
その中で、 JCOG食道癌グループ若手の会を中心に行われた本研究は、 5年生存率32%という有望な結果を示した。 ただし、 単群後ろ向き研究であり比較対象がないこと、 またICIを含む初回治療例は組み込まれていないことが本研究の限界である。
特にCheckMate 648試験の日本人サブグループ解析では、 ニボルマブ+イピリムマブ併用療法により4年生存率が約30%と報告されている⁴⁾。 一方で、 効果が得られた場合に化学療法の継続が適切か、 あるいはコンバージョン治療が望ましいかといった最適な治療方針は依然として不明であり、 今後のさらなるエビデンスの蓄積が求められている。
進行食道扁平上皮癌に対する標準治療はシスプラチン (CDDP) ベースの化学療法であるが、 FOLFOX療法*も日本で使用可能である。 本研究は、 進行食道扁平上皮癌に対してFOLFOX療法を実施した症例を、 多施設共同で後ろ向きに調査した。
日本国内18施設から91例 (初回治療52例、 2次治療以降39例) が登録された。
初回治療例における無増悪生存期間 (PFS) 中央値は3.8ヵ月、 OS中央値は13.9ヵ月、 奏効割合は35%であった。
2次治療以降例ではPFS中央値2.4ヵ月、 OS中央値7.2ヵ月、 奏効割合4%であった。
発現率が高いグレード3-4の有害事象は、 初回治療群で好中球減少23%、 貧血12%、 2次治療以降で好中球減少18%、 食欲不振10%、 嘔気10%、 貧血10%であった。
本研究は、 これまで国内での有効性、 安全性データが限られていたFOLFOX療法について、 WJOG消化器グループの若手会 (FLAG) が中心となって実施された最大規模の報告である。
初回治療においてはCDDPベースの化学療法と同等の奏効割合およびPFSが得られており、 CDDP適用が困難な、 腎機能・心機能が低下した症例において有力な選択肢となる。 一方で、 2次治療以降での効果は限定的であり、 適用には慎重な判断が必要である。
現在、 FOLFOXにICIを上乗せしたレジメンの開発も進行中であり、 今後の治療選択肢拡大が期待される。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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