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HOKUTO通信

10日前

学術論文で他院の医療事故を指摘!? 「医療事故調査制度」 の現状と課題

患者の予期せぬ死亡の原因を調べる 「医療事故調査制度」 が転換期を迎えている。 事故の報告件数が想定より少ない上、 最近では、 医療機関が事故ではないと判断した事例について、 学会の権威が学術論文で 医療事故の可能性を指摘するという異例事態も起きた。

過去最少の277件

この制度は2015年10月に導入され、 7年が経過した。 現場で予期しない患者の死亡があった場合、 医療法に基づき、 第三者機関の 「医療事故調査・支援センター」に報告し、 医療機関が自ら調査する仕組み。 調査結果に基づき、 センターが再発防止に向けた提言などをする。

導入から今年10月までに事故報告があったのは2485件。 厚生労働省は当初、 年間1300~2000件の報告を想定していたが、 300~400件にとどまっている。 直近1年 (2021年10月~22年9月) は過去最少の277件となった。

調査は院長の判断次第

報告が少ない背景には、 制度の対象が「医療に起因する予期しなかった死亡」 などに限られていることや、 医療事故として調査するかの判断が医療機関の院長に委ねられていることなどがある。

調査は再発防止が目的だが、 「個人の責任追及につながる」 との懸念があり、 報告を避ける医療機関も多いという

遺族が外部専門家に相談

今秋、「異例中の異例」 (医療関係者) と言える事態が起きた。 心臓の手術後に死亡した70代男性の事例について、 「医療の質向上のためにも医療事故として調査をするべきだ」 との趣旨の論文が日本心臓血管外科学会誌 (9月15日発行) に寄稿されたのだ

著者は同学会名誉会長の髙本眞一・東京大名誉教授で、 題名は「患者中心の医療を病院でいかに行うか 医療事故の判断」 。 男性の遺族から提供を受けた診療記録などから髙本名誉教授が死因などを考察した。

低侵襲心臓手術後に死亡

手術をしたのは東京都内にある特定機能病院。 男性は2020年、 肋骨の間から器具などを入れる低侵襲心臓手術 (MICS) を受けたが、 心筋梗塞を起こした。 男性は大学病院へ転院したが、 その後死亡した。

手術中は人工心肺をつけて心臓を止め、 心筋の損傷を防ぐために保護用の薬液を一定間隔で注入する。 しかし、 論文によると、 手術では保護液の投与間隔が空きすぎた上、 空気の除去も不十分だったことから保護液が心筋に適切に注入されず、 心筋が壊死したと説明できるという

心臓を止める時間も5時間近くに及んだ。 髙本名誉教授は、 これらから医療事故の可能性が高いと指摘している。

当初は医療事故と判断せず

病院側は当初、 医療事故として判断せず、 遺族にもその旨を伝えた。 病院はHOKUTOの取材に対し、 「論文の事案が当病院のものだと断定していないが、 類似の事案が発生したことは事実」 と認めた。

その上で、 医療事故と報告しなかった理由について 「手術前に死亡という結果を招くことがあり得ることは書面で説明しているため、 医療法上の医療事故 (予期しない死亡) に該当しないと判断した」 と説明した。

遺族が不信感を抱くケースも

また、 医療事故調査制度とは別に複数の外部医師に見解を求めていたが、 「専門医による否定的な論文が掲載されたことを踏まえ、 より中立・公正な形での調査をすることにした」として、 正式な医療事故として報告することを決めたという。

患者の遺族が 「病院が積極的に調査をしてくれない」 などと不信感を抱くケースは他にもある。 2020年には、 遺族などで構成する団体が厚労省に対し、 調査をしなかった医療機関の公表や第三者機関が調査する仕組みの導入などを求める要望書を提出した

厚労省が実態調査

調査に消極的な姿勢は、 患者側との信頼関係を揺るがしかねない。 こういった実態を踏まえ、 厚労省は研究班を設置し、 医療機関の第三者機関への事故報告体制などについて調査をする方針だ。

事故と判断する際の会議や基準の有無、 医療安全の専従担当者を置いているかなどを調べ、 事故情報が集まりやすい体制づくりに向けた指針を策定するという。

参考資料

こちらの記事の監修医師
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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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