身体拘束したら違法、 しなくても賠償のジレンマ
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HOKUTO通信

4ヶ月前

身体拘束したら違法、 しなくても賠償のジレンマ

身体拘束したら違法、 しなくても賠償のジレンマ
患者の身体拘束をどうするか。 判断に頭を悩ませる医師は多いだろう。 身体拘束をなくす流れがある一方、 拘束しないで患者の転倒事故などが起きた場合、 病院側の管理責任が問われるというジレンマがある。

2024年度診療報酬改定

「最小化」 未達で40点/日減算も

2024年度診療報酬改定の施行にあたり、 厚労省は2024年3月5日、 身体拘束を原則禁止とし、 拘束を最小化するための体制整備に関する基準を通知した。 通知では、 医師や看護師らによるチームを設置し、 指針の策定などを求めている。

基準をクリアできない場合、 入院基本料や特定入院料などの所定点数から1日につき40点を減算される。 経過措置として、 入院基本料や特定入院料を今年3月末までに届け出ていれば、 2025年5月末まで適用が猶予される

身体拘束が患者の身体機能の低下や、 せん妄の頻発など多くの弊害をもたらすという調査結果もあり、 身体拘束への風当たりは強まる一方だ。

裁判例

①身体拘束したら…「違法」

裁判ではどうか。 最近では今年1月末、 名古屋地裁で身体拘束の違法性を認める判決が出た。 愛知県日進市の病院は90代患者がリハビリのために転院してきた初日から死亡までの約1週間、 患者に対する体幹抑制と上肢抑制を解除することなく続けた。

遺族側は 「死亡したのは身体拘束が原因」 と主張。 地裁は死亡との因果関係を否定したが、 「拘束を軽くするための検討が行われたとはうかがえず、 必要最小限度のものだったとは言えない」 として身体拘束の違法性を認め、 病院側に慰謝料100万円の支払いを命じた。

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写真はイメージです

②身体拘束せず転倒…損害賠償

ただ、 身体拘束をやめれば済むというわけでもない。 身体拘束せずに認知症患者が転倒し、 病院側の注意義務違反を指摘したのが、 2022年11月の神戸地裁判決だ。 付添者とトイレに行った80代認知症患者が、 付添者の不在時に廊下で転倒し、 外傷性くも膜下出血と頭蓋骨骨折のけがを負った。 患者は2年後、 心不全で亡くなった。

地裁は、 認知症の進行などから病院側が普段ベッド周辺にセンサーを設置し、 身体固定するベルトを使用した点に着目。 「 患者から目を離せば、 勝手にトイレを出て転倒する可能性が高いことが予見できた」 と認定。 転倒を防ぐ対応を怠ったと判断し、 病院側に約530万円の損害賠償の支払いを命じた。

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身体拘束は関係しないものの、 愛知県一宮市の病院は今年2月、 入院中の80代患者が深夜のトイレに向かう途中に転倒した事案では、 病院側の過失を認めて450万円の和解金を支払うと発表した。

患者は転倒・転落アセスメントで危険度II (転倒・転落を起こしやすい状態)。 看護師が患者の片腕を支えた状態で歩いたものの、転倒して右大腿骨頸部骨折となった。 病院側は 「睡眠導入剤を内服後の歩行時のふらつきは事前に確認されていて、 車椅子で移動していれば、 転倒を防げた可能性がある」 と判断した。

判断悩ましい現場

人手不足時は仕方ない / 家族も付添を

医療現場の実情は複雑で、 画一的な対応は難しい。 現場の医師は人権尊重などの観点から身体拘束を減らす必要性は理解しながらも、 ただ単に減らすことに消極的な意見がある

都内の医師らからは「患者が自分で点滴抜くのは事故扱いとなり、 現場では担当者の責任も問われる。 人手が足りない時は身体拘束するしかない」 「病院を訴えるなら、 家族も積極的に付き添いをしてほしい」 といった切実な意見のほか、 身体拘束を違法とした裁判所判決について「鎮静薬と無意味なチェックリストを増やす画期的な判決。 素晴らしい」 と皮肉る声もある。

身体拘束の要件

厚生労働省が2001年に公表した 「身体拘束ゼロへの手引き」 では、 身体拘束が 「やむを得ない」 と許容されるのは、以下の3要件をいずれも満たしている場合のみとしている。

  1. 切迫性 (本人や周囲の生命や身体が危険にさらされる可能性が著しく高い)
  2. 非代替性 (他に代替する方法がなく、 最も制限の少ない拘束方法で行われる)
  3. 一時性 (必要な時だけ行う)
2023/6/24配信、2024/3/18加筆・更新

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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