亀田総合病院
3日前
呼吸器領域で注目度の高い論文を毎月3つ紹介するシリーズです。 2025年5月に注目された呼吸器関連の論文を3つご紹介します (解説医師 : 亀田総合病院呼吸器内科 中島啓先生)。
非嚢胞性線維症性 (非CF性) 気管支拡張症は、 気道の永続的な拡張と炎症を特徴とする慢性肺疾患であり、 持続する咳嗽や喀痰、 再発性の増悪を伴う。 米国では約50万人が罹患しているとされる。 本レビューでは、 当疾患に関する最新の研究動向、 一般臨床医が押さえるべき要点、 ならびに専門医への紹介の判断基準に焦点を当てている。
本レビューでは、 2014年1月1日~25年1月1日にPubMedに発表された、 成人 (18歳以上) を対象とする英語論文485件を、 「気管支拡張症」 および 「非嚢胞性線維症気管支拡張症」 の主要見出しとMeSH用語で検索・検討し、 そのうち80件の査読済み文献を採択した。 内訳は、 横断研究19件・縦断研究5件からなる観察研究24件、 総説18件、 大規模コホートデータの後ろ向き解析10件、 メタアナリシス・系統的レビュー8件、 無作為化比較試験7件、 診療ガイドライン3件、 Cochraneレビュー3件、 コンセンサス文書3件、 後ろ向き観察研究2件、 基礎研究2件であった。
非CF性気管支拡張症は、 肺炎、 非結核性抗酸菌や結核の感染、 遺伝性疾患 (例 : α1アンチトリプシン欠損症、 原発性線毛機能不全症)、 自己免疫疾患 (例 : 関節リウマチ、 炎症性腸疾患)、 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、 免疫不全症候群 (例 : 分類不能型免疫不全症) などと関連することがある。 約38%は特発性である。
米国のデータでは、 併存する疾患として胃食道逆流症 (47%)、 喘息 (29%)、 COPD (20%) が多く報告されている。 有病率は年齢とともに上昇し、 女性に多い傾向がある (75歳以上では10万人あたり812人、 男性95人に対し女性180人)。
診断は非造影の胸部CTで行い、 気道拡張や壁肥厚、 粘液栓を確認する。 初期評価には血算、 免疫グロブリン定量 (IgG、 IgA、 IgM、 IgE)、 喀痰培養 (細菌・真菌・抗酸菌)、 スパイロメトリーが含まれる。
治療の基本は、 気道クリアランス、 生理食塩水のネブライザー吸入、 運動療法、 呼吸リハビリテーションである。 喘息やCOPDの合併がある場合は、 吸入気管支拡張薬や吸入ステロイド薬 (ICS) を使用する。
増悪時は咳・喀痰の増加や倦怠感の悪化を伴い、 QOLや肺機能の低下と関連するため、 経口または静脈抗菌薬による治療が必要である。
年間3回以上の増悪がある場合は、 長期の吸入抗菌薬 (例 : コリスチン、 ゲンタマイシン) や経口マクロライド (例 : アジスロマイシン) による予防的治療が検討される。
重度の肺機能障害や頻回の増悪がある症例では、 肺移植も選択肢となる。 特に、 緑膿菌感染やCOPDの合併を伴う場合には、 死亡率が高くなる傾向がある。
本論文は、 呼吸器内科領域で現在最も注目されている疾患の一つである非嚢胞性気管支拡張症について、 その原因、 診断、 管理に関する最新の知見をまとめたものであり、 呼吸器内科医にとって必読の内容である。
基本的治療として気道クリアランス療法が挙げられるが、 国内ではいまだ十分に普及しているとは言い難い。 海外の大規模データでは、 COPDや喘息の合併頻度が高いことが示されており、 これらの併存疾患がある場合には、 気管支拡張薬や吸入ステロイドの使用が検討されるべきである。 年間3回以上の増悪を認める症例に対しては、 長期マクロライド療法が推奨されている (なお、 吸入抗菌薬は日本では保険適用外)。 増悪は肺機能やQOLの低下に直結することから、 早期診断と適切な治療介入の重要性は極めて高い。
Nerandomilastは、 経口投与可能なホスホジエステラーゼ4B (PDE4B) 選択的阻害薬であり、 抗線維化作用と免疫調節作用を併せ持つ。 特発性肺線維症 (IPF) 患者を対象とした第II相試験では、 12週間にわたり肺機能の安定化が示されており、 第III相無作為化比較試験FIBRONEER-IPFではその有効性があらためて検証された。
IPF患者1,177例が、 Nerandomilast 18mg群、 9mg群、 プラセボ群に1:1:1の割合で無作為に割り付けられた。 投与はいずれも1日2回行われた。 無作為化は、 既存の抗線維化療法 (ニンテダニブまたはピルフェニドン) の使用有無に基づいて層別化された。 主要評価項目は、 52週時点における努力性肺活量 (FVC) のベースラインからの絶対変化量であった。
登録時に77.7%の患者がニンテダニブまたはピルフェニドンを服用していた。
52週時点のFVC調整平均変化量は、 Nerandomilast 18mg群で–114.7mL、 9mg群で–138.6 mL、 プラセボ群で–183.5mLであった。 プラセボ群との差は、 それぞれ+68.8mL (p<0.001)、 +44.9mL (p=0.02) であり、 両群ともFVC低下を有意に抑制した。 サブグループ解析では、 抗線維化薬を使用していない群において、 18mg群は–79.2 mL、 プラセボ群は–148.7mLであり、 明確な抑制効果が認められた。 一方、 ピルフェニドン併用群では、 9mg群のFVC変化は–201.8 mLと、 プラセボ群 (–197.0mL) を下回った。 これは、 両薬剤の薬物相互作用により、 Nerandomilastの血中濃度が約50%低下したことが一因と考えられた。
有害事象としては、 Nerandomilast群で下痢の頻度が高く、 18mg群で41.3%、 9mg群で31.1%に認められたのに対し、 プラセボ群では16.0%であった。 重篤な有害事象の発生率は、 いずれの群も類似していた。
本試験は、 既存の抗線維化薬 (ニンテダニブやピルフェニドン) を併用している患者も対象としており、 併用下においてもFVCの低下を有意に抑制する効果が示された。 ただし、 Nerandomilast 9mg群においては、 ピルフェニドン併用時に効果が低下しており、 薬物相互作用の影響が示唆された。 IPFにおける治療選択肢の拡充は、 患者にとって大きな前進と考えられる。
慢性閉塞性肺疾患 (COPD) は、 在宅非侵襲的換気療法 (NIV) の最も一般的な適応疾患であるが、 長期的転帰に関するデータは依然として限られているのが現状である。
本研究では多状態モデル分析*を用いて、 COPD患者における在宅非侵襲的換気療法 (NIV) の継続と中止が、 「増悪なし」 「重症増悪」 「死亡」 の3つの疾患状態間の移行に与える影響を推定した。 解析には、 2015年~19年にフランスの国民健康保険償還データベースにおいてNIVの償還を受けた40歳以上のCOPD患者4万9,503例が用いられた。
対象患者 (年齢中央値70歳、 男性51.2%、 前年の増悪回数中央値1回) では、 重症増悪が8万361件、 死亡が1万8,125件発生し、 そのうち7,805件は重症増悪中の死亡であった。
多状態モデル分析では、 NIVの継続は以下の死亡リスクが有意に低下した。
重症増悪からの死亡 : ハザード比 (HR) 0.84 (95% CI 0.79–0.91)
安定期からの死亡 : HR 0.88 (95% CI 0.83–0.93)
一方、 安定期から重症増悪への移行リスクには有意差がなかった。
また、 重症増悪から増悪なしへの回復が有意に遅延した (HR 0.87、 95% CI 0.84–0.89)。
なお、 COPDの重症度が低く、 早期にNIVを開始した患者群では、 重度の増悪への移行リスクが有意に低下した (HR 0.88、 95% CI 0.85–0.92)。
フランスの全国規模データベースを用いた本研究は、 COPD患者における在宅NIVの長期継続が死亡リスクの低下と関連することを示す重要な知見を提供している。 特に、 重症増悪中および安定期からの死亡リスクいずれもNIV継続により有意に抑制された点は注目に値する。
一方で、 NIV継続が重症増悪の発生を抑制する効果や、 増悪からの回復を促進する効果は限定的であった。 ただし、 COPDの重症度が低く、 NIVを早期に導入した患者では、 重度の増悪への移行リスクが低減していた。
これらの結果は、 NIVの長期的な有用性を示す実臨床のエビデンスであり、 今後のガイドライン策定の一助となることが期待される。
私のホームページ 「Kei Nakashima | Medicine&Insights」 では、 呼吸器内科の重要論文、 臨床研究、 ライフハック、 医学教育などをテーマに、 日々記事を発信しています。 また、 下記は私が執筆・監修を担当した書籍です。 日常診療の一助として、 ぜひご活用ください!
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連絡先|主任部長 中島啓
X: https://twitter.com/keinakashima1
note: https://note.com/unique_fowl2375
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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