HOKUTO編集部
1年前
本稿では仮想の症例における 「経過」と「判断のポイント」を提示しながら、 irAE肺炎の特徴や対応法について概説する (解説医師:国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科 白石和寛先生)
💡 ECOG PS 0
💡 特記すべき既往歴なし
緩和的化学療法の1次治療として、 ①カルボプラチン+ペメトレキセド+ペムブロリズマブ併用療法を開始した。 ②4サイクル終了後の効果判定は部分奏効であり、 ペムブロリズマブ維持療法に変更予定であった外来での受診時 (②治療開始後13週目) に、 ③労作時の呼吸困難、 ④診察室でSpO₂ 85%, 血液検査にてLDH・KL-6上昇 (LDH 452IU/L、 KL-6 823U/mL、 を認め、 精査・加療のため緊急入院となった。
① 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による肺炎の頻度
非小細胞肺癌 (NSCLC) でirAE肺臓炎 (全Grade) の頻度は1.4-5.8%といわれているが¹⁾、 実臨床での報告では7~19%程度といわれている²⁾。 PD-1抗体/PD-L1抗体+CTLA4抗体ではさらにそのリスクが上昇することが言われているが³⁾、 ペムブロリズマブと化学療法との併用療法ではirAE肺臓炎のリスク上昇は見られなかった⁴⁾。
② ICIによる肺臓炎の出現時期
各irAEの発症時期に関して以下の報告があり⁵⁾、 肺臓炎の発症時期はICI開始後2.8ヵ月(中央値:9日~19.2ヵ月) とされる⁶⁾。 NSCLCではほかの癌腫と比較して早期 (2.9~7.7ヵ月) に出現する傾向が認められており、 また併用療法は単剤と比較してより早期 (2.7ヵ月 vs 4.6ヵ月) に出現する傾向が認められる⁷⁾。
③ irAE肺臓炎の臨床症状・所見
irAE肺臓炎の臨床症状としては呼吸困難、 乾性咳嗽、 胸痛、 発熱などが挙げられる。
④ irAE肺臓炎のcommon terminology criteria for adverse events (CTCAE) 重症度分類
低酸素血症を起こす他の疾患を除外するために、 ⑤各種血液検査・画像検査を行いつつ、 ⑥呼吸器専門医へコンサルトを行った。 血液検査・画像検査から低酸素血症を起こしうる他疾患を除外し、 irAE肺臓炎と診断した。 ⑦メチルプレドニゾロン (mPSL) パルス療法 (1g/day)を開始した。
⑤ 他疾患の除外
irAE肺臓炎の診断に迫るためにはirAE肺臓炎を疑いつつ、 他疾患の評価除外が必要になる。 具体的には (1) 癌の進行、 (2) 感染症、 (3) 肺塞栓、 (4) 心不全、 (5) その他irAE (心筋炎・筋炎・重症筋無力症など) のカテゴリに分けて評価していく。
血液検査で間質性肺疾患に特徴的なLDH、 KL-6に加えて、 心原性評価のための脳性ナトリウム利尿ペプチド (BNP) やトロポニンの測定、 肺塞栓評価のためのD-dimerも有用な情報となる。 またCT特にHRCTは特徴的な画像パターンの判別に有用である。
irAE肺臓炎の腫瘍パターンは器質化肺炎 (OP)、 非特異性間質性肺炎 (NSIP)、 過敏性肺炎 (HP)、 急性間質性肺炎/急性呼吸促迫症候群 (AIP/ARDS) である。 最も高頻度に認めるCT所見はGGO+consolidationであり⁸⁾、 最多のCTパターンはOPである⁹⁾。 また、 重症度が最も高いirAE肺臓炎のCTパターンはAIP/ARDSである¹⁰⁾。 これらの検査を総合的に判断して診断していく。
⑥ 呼吸器専門医へのコンサルト
Grade2のirAE肺臓炎を認めた場合は呼吸器専門医へのコンサルトを検討することが複数のガイドラインで勧められており、 Grade3以上ではASCO・NCCN・ESMO・SITCのいずれのガイドラインでもコンサルトすることが記載されている。
⑦ 治療ストラテジー
Gradeに応じてステロイド治療を行う。
▼Grade 1
ICIは休薬し、 3~4週以内にCT評価を行う。改善がない場合Grade2として対応。
▼Grade 2
ICIの投与を中止する。呼吸器内科コンサルトを検討し、 経口プレドニゾロン (PSL) またはmPSLを1~2mg/kgで開始する。 48~72時間で評価を行い、 改善がみられない場合や増悪傾向である場合はGrade3として対応する。奏効した場合、 ステロイドは4~6週以上かけて漸減していく。 感染症の除外困難時、 抗菌薬は併用する。
▼Grade 3/4
ICIは永続的に中止する。呼吸器内科にコンサルトし、 mPSLを1~4mg/kgで開始する。急激に呼吸不全をきたしている場合はステロイドパルスも考慮される。 48時間経過しても改善が見られない場合、 インフリキシマブ (IFX)、 ミコフェノール酸モフェチル (MMF)、 大量免疫グロブリン投与 (IVIG)、 シクロホスファミド (CYC) などを追加する。 ステロイドは4~8週かけて漸減していく。 感染症の除外困難時、 抗菌薬は併用する。
3日間のステロイドパルスで呼吸状態および肺陰影は改善傾向であった。 その後、 ステロイド漸減中であった第15病日に低酸素血症の再燃と肺陰影の再増悪を認めたため呼吸器内科と相談し ⑧ステロイド再パルス (mPSL 1g/日) とIFXを投与した。数日で酸素化の改善と肺陰影の改善を認めたためステロイドの漸減を開始し、 その後は再燃を認めなかった。 ステロイド投与中はニューモシスチス肺炎 (PCP) に対する予防内服や骨粗鬆症、 ステロイド糖尿病の評価を行った。 ⑨ICIの再投与は行わない方針とし、 次レジメンに切り替える方針となった。
⑧ ステロイド抵抗性の治療
ステロイド抵抗性と判断した時点で免疫抑制剤を追加する。 候補としてはIFX、 MMF、 CYC、 IVIGが挙げられる。
⑨ ICIの再投与
NCCNガイドラインではGrade 3/4のirAE肺臓炎ではICIは永続的に中止とする。 Grade2のirAE肺臓炎の場合は、 Grade≤1まで改善し、 ステロイドがoffとなった時点でICIの再投与を考慮する。
irAEの診断に関しては常に幅広い鑑別を評価する必要がある。
抗菌薬に関しては使い慣れている内科医であっても免疫抑制剤となるとハードルが高く感じることは少なくない。 しかし、 irAEの治療で重要な点は適切な治療効果の見極めと必要な薬剤をためらわず使用することである。 そのためには使用経験がなくとも院内あるいは院外の専門家と連携がとれる環境づくりも重要である。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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