海外ジャーナルクラブ
3ヶ月前
Torgersenらは、 肝毒性のある薬剤投与開始後の急性肝障害 (ALI) について、 その発生率を実臨床データに基づいて評価し、 症例報告に基づく分類と比較した。 その結果、 高リスクな17薬剤が特定され、 重篤なALIの発生率に関する新たな知見が得られた。 本研究はJAMA Internal Medicineにおいて発表された。
実際のデータでは、 抗HIV薬であるスタブジン (本邦では販売中止) の発生率が1万人当たり86.4件であり、 2番目以降を大きく引き離しての急性肝障害の発生率です。 なお、 薬剤性肝障害のスコアリングとしては以下が知られています。
薬剤の有する肝毒性の可能性を分類する現在の方法は、 ALIの累積症例報告数に基づいており、 薬剤を投与した集団の大きさは考慮されていない。 薬物治療開始後の重症ALIの発症率に関して、 実臨床のデータから得られたエビデンスはほとんどない。
そこで、 実臨床での重症ALI発症率に基づき最も肝毒性を呈する可能性のある薬剤を特定すること、 また、 こうした発症率は症例報告数に基づく分類とどう違うのか検討することを本研究の目的とした。
以下を満たす患者のデータを米国の退役軍人省から得て解析した。 対象は、 肝毒性が疑われる薬剤194種類のうち1種類を、 2000年10月1日~2021年9月30日に投与開始し、肝胆道疾患の既往がない患者とした。
入院から2日間以内に以下のいずれかを満たすものを"重症ALIによる入院"とした。
- ALT値>120U/Lかつ総Bil値>2.0mg/dL
- INR ≧1.5かつ総Bil値>2.0mg/dL
追跡調査中または重症ALIによる入院の退院診断として記録された急性または慢性の肝胆道疾患は、 打ち切りとした。 この研究では、 重症ALIの年齢・性別調整発症率を算出し、 積症例報告数に基づく肝毒性の分類と比較した。
解析対象は789万9,888例で、 平均年齢64.4歳 (SD16.4歳)、 男性92.5%、 ポリファーマシーの患者55.1%であった。
重症ALIの発生率は、 最も低いもので1万人・年当たり0件 (カンデサルタン、 ミノサイクリン)、 最も高いもので1万人・年当たり86.4件 (スタブジン) であった。
1万人・年当たり10.0件以上 : 7種類の薬剤
- スタブジン
- エルロチニブ
- レナリドミド または サリドマイド
- クロルプロマジン
- メトロニダゾール
- プロクロルペラジン
- イソニアジド
1万人・年当たり5.0~9.9件以上 : 10種類の薬剤
- モキシフロキサシン
- アザチオプリン
- レボフロキサシン
- クラリスロマイシン
- ケトコナゾール
- フルコナゾール
- カプトプリル
- アモキシシリン・クラブラン酸塩
- ST剤
- シプロフロキサシン
重症ALIの発症率が高かった17種類のうち、 11種類 (64%) は症例報告に基づく分類では最も高い肝毒性カテゴリーに含まれていなかった。
著者らは 「本研究では、 実臨床データを用いて算出した重症ALIの発症率によって、 最も肝毒性を示す可能性のある薬剤が同定された。 また、 症例報告数から得られた肝毒性に関する分類は、 今回得られた重症ALIの発症率を正確には反映していなかった」 と述べている。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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