進行乳癌へのCDK4/6阻害薬、 使用タイミングと耐性化後の治療選択は?
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HOKUTO編集部

3ヶ月前

進行乳癌へのCDK4/6阻害薬、 使用タイミングと耐性化後の治療選択は?

進行乳癌へのCDK4/6阻害薬、 使用タイミングと耐性化後の治療選択は?
CDK4/6阻害薬は、 HR+/HER2-進行乳癌(ABC)の治療において重要な役割を果たしている。 一方で、 使用のタイミングや、 CDK4/6阻害薬耐性化後のスイッチングなどのストラテジーについては、 必ずしもコンセンサスが得られているとはいえない状況にある。 第62回日本癌治療学会 (JSCO 2024) において、 CDK4/6阻害薬の対象患者、 使用タイミングと耐性化後の治療について、 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 AI人材育成プログラム准教授の谷岡真樹氏が解説した。

CDK4/6阻害薬の使用タイミング

1次治療 or 2次治療?

CDK4/6阻害薬の効果を最大化するためには、 使用タイミングの最適化が重要である。 現在、 1次治療が標準的な選択肢とされる一方、 2次治療でも効果が確認されているという。

1/2次治療における第Ⅲ相試験PALOMA-3MONALEESA-3、 MONARCH-2

谷岡氏は、 1/2次治療におけるCDK4/6阻害薬の有効性を検証した3件の第Ⅲ相試験の結果は下表の通りであると説明した。

進行乳癌へのCDK4/6阻害薬、 使用タイミングと耐性化後の治療選択は?
(谷岡氏発表スライドを基に編集部作成)

PALOMA-3試験およびMONARCH-2試験は内分泌療法 (ET) にて病勢進行 (PD) したHR+/HER2-ABC患者、 MONALEESA-3試験は1ライン以下のET歴を包含基準に含めたHR+/HER2-閉経後ABC患者を対象としている。

PALOMA-3試験、 MONALEESA-3試験、 MONARCH-2試験の3試験において、 それぞれCDK4/6阻害薬のパルボシクリブ、 ribociclib*、 アベマシクリブとフルベストラントの併用は、 プラセボ (PBO )+フルベストラントと比べて無増悪生存期間 (PFS) を有意に改善し、 全生存期間 (OS) も良好な傾向を示した¹⁾²⁾³⁾⁴⁾。

*本邦未承認

PALOMA-3試験MONARCH 2試験

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1次治療における第Ⅲ相試験PALOMA-2、 MONALEESA-2/7、 MONARCH-3

次に谷岡氏は、 1次治療におけるCDK4/6阻害薬の有効性を検証した4件の第Ⅲ相試験の結果は下表の通りであると説明した。

進行乳癌へのCDK4/6阻害薬、 使用タイミングと耐性化後の治療選択は?
(谷岡氏発表スライドを基に編集部作成)

ETとの併用によるribociclibの有効性を検証したMONALEESA-2試験およびMONALEESA-7試験では、 いずれもPBO+ETと比べてPFS中央値およびOS中央値の有意な改善が示された⁵⁾⁶⁾⁷⁾⁸⁾。

また、 ETとの併用によるパルボシクリブの有効性を検証したPALOMA-2試験、 およびアベマシクリブの有効性を検証したMONARCH-3試験では、 いずれもPBO+ETと比べてOS中央値の改善は示されなかったものの⁹⁾¹¹⁾、 PFS中央値の有意な改善が認められた¹⁰⁾¹¹⁾。

PALOMA-2試験MONARCH 3試験

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第Ⅲ相試験SONIA

続けて谷岡氏は、 CDK4/6阻害薬の有用性を、 1次治療 vs 2次治療で比較検証した第Ⅲ相試験SONIA¹²⁾について説明した。

同試験では、 HR+/HER2-ABC患者が、 CDK4/6阻害薬を1次治療で投与した群*と2次治療で投与した群**に1 : 1で無作為に割り付けられた。

1次治療群は、 2次治療群と比べて1ライン治療後のPFS中央値の有意な改善が示された一方で、 2ライン治療後のPFSおよびOS中央値では有意差が認められなかった。 また、 1次治療から投与することでGrade3以上の有害事象が42%増加し、 患者1人あたりの治療コストは20万ドル高くなった。

*1次治療で非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(AI)+CDK4/6阻害薬(アベマシクリブ、 パルボシクリブ、 ribociclibから担当医師が選択)→PD後に2次治療でフルベストラント単独投与
**1次治療で非ステロイド性AI単独→PD後に2次治療でフルベストラント+CDK4/6阻害薬(同上)投与 
2次治療でのCDK4/6阻害薬投与のメリットとして、 投与期間の短縮、 有害事象やコストの低減が期待できる。 一方で、 1次治療の2次治療に対する非劣性は証明されていないため、 現時点でCDK4/6阻害薬は1次治療で薦められるべき薬剤である。 CDK4/6阻害薬の使用においては、 治療開始の適切な時期や適格患者を見極める必要がある。

Visceral crisis状態への投与の是非は?

Visceral crisis*を有する患者に対しては、 従来Hortobagyiが提唱した治療アルゴリズム¹³⁾に基づき化学療法 (CT) が行われてきた。 他方で近年は最新の臨床試験データに基づき、 Visceral crisisに対する治療として、 CDK4/6阻害薬のリスクとベネフィットが検討されている。

*癌が内臓に高度進行し、 直ちに治療を必要とする生命を脅かす状態

第Ⅲ相試験PEARL

パルボシクリブ+ETはHR+/HER2-の転移・再発乳癌 (MBC) の標準治療である。 その有効性をCTと比較した第Ⅲ相試験PEARLは2つのコホートから構成され、 AI耐性の転移・再発乳癌患者がパルボシクリブ+エキセメスタン(コホート1) / パルボシクリブ+フルベストラント(コホート2)併用群とカペシタビン単剤群に1 : 1で無作為に割り付けられた。

結果として、 パルボシクリブ+ETのPFS中央値は、 コホート2およびESR1遺伝子野生型患者(コホート1+2)の双方でカペシタビン単剤との有意差が認められなかった (コホート2 : 7.5ヵ月 vs 10.0ヵ月、 調整ハザード比 1.13[95%CI 0.85-1.50] / コホート1+2 : 8.0ヵ月 vs 10.6ヵ月、 調整ハザード比 1.11[同 0.87-1.41])¹⁴⁾。


第Ⅱ相試験RIGHT Choice

HR+/HER2-ABCの1次治療として、 CDK4/6阻害薬+ETの有効性をCT併用と比較した第Ⅲ相試験RIGHT Choiceにおいて、 客観的奏効率 (ORR) は、 ribociclib+ET群*が66.1%、 CT併用群**が61.8%であった。

PFS中央値は、 ribociclib+ET群が21.8ヵ月であり、 CT併用群の12.8ヵ月と比べて有意に改善した (ハザード比 0.611[95%CI 0.429-0.870]、 p=0.003)。 一方で、 Visceral crisisを有する患者(担当医判断)では、 両群間で有意差が認められなかった (ハザード比 0.953[同 0.574-1.582])。

上記結果について、 谷岡氏は 「本試験は第Ⅱ相のオープン試験であり、 ribociclibが国内未承認である点は勘案する必要がある¹⁵⁾」 と説明。 Visceral crisisを有する患者に対しては依然として化学療法併用が第一選択となるが、 臓器転移がある患者にもCDK4/6阻害薬は一定程度、 有効であることが示された。
*ribociclib+ET(レトロゾール/アナストロゾール+ゾラデックス)
**担当医師選択のCT併用(ドセタキセル+カペシタビン、 パクリタキセル+ゲムシタビン、 カペシタビン+ビノレルビン)

耐性獲得後の治療選択

PIK3KCA阻害薬に続きAKT阻害薬、 選択的ER分解薬などが開発中

CDK4/6阻害薬に対する耐性獲得後の2次治療は遺伝子変異のパターンに応じて選択される。 2024年5月には、 AKT阻害薬カピバセルチブが国内承認され、 PIK3CA/PTEN/AKT遺伝子変異を有する乳癌に対して導入された¹⁶⁾。 また現在、 以下の第Ⅲ相試験 (関連薬剤・国内未承認) が実施されているという。

  • SOLAR-1試験
(PIK3CA阻害薬alpelisib¹⁷⁾
  • EMERALD試験
(選択的エストロゲン受容体分解薬elacestrant¹⁸⁾

しかし、 いずれも、 PFS中央値を著しく改善するような結果は示されていない。

各CDK4/6阻害薬の異なる作用機序を考慮したスイッチングの可能性

CDK4/6阻害薬の治療中、 耐性化によって効果が減弱した場合、 別のCDK4/6阻害薬にスイッチングする戦略が一般診療では行われているが、 その有効性は定まっていない。

第Ⅲ相試験postMONARCH

CDK4/6阻害薬+ETの1次治療後にPDを認めたHR+/HER2-ABCに対するアベマシクリブ+フルベストラントの有効性を、PBO群 (PBO+フルベストラント) を対照に検証したpostMONARCH試験において、 PFS中央値の有意な改善が示された(ハザード比 0.73 [95%CI 0.57-0.95]、 p=0.02)¹⁹⁾。

また、 前治療のCDK4/6阻害薬別のサブグループ解析において、 前治療薬がパルボシクリブの場合にはPFSが有意に改善した一方で、 ribociclibおよびアベマシクリブの場合には改善は示されなかった。

postMONARCH試験

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本試験の結果から、 各CDK4/6阻害薬の異なる作用機序を考慮したスイッチングが、 治療効果を延長する可能性が示唆された。

展望

次世代CDK阻害薬の開発に期待

最後に、 谷岡氏は 「現在、 治療抵抗性メカニズムに基づいた新たな治療戦略の構築が求められており、 次世代CDK阻害薬の開発が進んでいる。 また、 CDK4/6阻害薬からCDK6に対する作用を取り除き、 CDK4を選択的に阻害することで有害事象を抑える経口薬の開発も進行中である。 ストラテジーは現状未確定であるものの、 今後はバイオマーカーで患者が層別化されていくだろう」 と展望した。

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出典

¹⁾ Lancet Oncol. 2016 Apr;17(4):425-439.

²⁾ Clin Cancer Res. 2022;15;28(16):3433-3442.

³⁾ Ann Oncol. 2021 Aug;32(8):1015-1024.

⁴⁾ Cancer Res 2023.83(5_Suppl): PD13-11.

⁵⁾ Ann Oncol. 2018 Jul 1;29(7):1541-1547.  

⁶⁾ N Engl J Med. 2022 Mar 10;386(10):942-950.  

⁷⁾ Lancet Oncol. 2018 Jul;19(7):904-915.  

⁸⁾ Clin Cancer Res. 2022 Mar ;28(5):851-859.

⁹⁾ Breast Cancer Res Treat. 2019;174(3):719-729.

¹⁰⁾ J Clin Oncol. 2024 Mar 20;42(9):994-1000.

¹¹⁾ Ann Oncol. 2024 Aug;35(8):718-727.  

¹²⁾ J Clin Oncol. 2023;41(17_suppl) : LBA1000.

¹³⁾ N Engl J Med. 1998 Oct 1;339(14):974-84.

¹⁴⁾ Ann Oncol. 2021 Apr;32(4):488-499.  

¹⁵⁾ J Clin Oncol. 2024 Aug 10;42(23):2812-2821.

¹⁶⁾ N Engl J Med. 2023;388(22):2058-2070.

¹⁷⁾ Cancer Res (2019) 79(4_Suppl): GS3-08.

¹⁸⁾ J Clin Oncol. 2022 ;40(28):3246-3256.

¹⁹⁾J Clin Oncol. 2024;42(17_suppl) : LBA1001.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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