HOKUTO編集部
5ヶ月前
1つ以上のリンパ節転移を有する切除可能なStageIIIの悪性黒色腫に対し、 術前療法としての抗PD-1抗体ニボルマブ+抗CTLA-4抗体イピリムマブ+治癒的リンパ節郭清の有効性について、 標準治療であるTLND+術後ニボルマブを対照に検証した第Ⅲ相国際共同無作為化化比較試験NADINAの結果より、 EFSの有意な改善が示された。 オランダ・Netherlands Cancer InstituteのChristian U. Blank氏が発表した。 同試験の詳細は、 N Engl J Med (2024年6月2日オンライン版) に同時掲載された¹⁾。
StageⅢの悪性黒色腫に対する術後療法は無再発生存期間 (RFS) を改善させるものの、 長期成績で全生存期間 (OS) の有意な改善を示した試験はない。
現在、 切除可能なStage IIIの悪性黒色腫に対する標準治療は、 治癒的リンパ節郭清 (TLND) +術後ニボルマブまたは抗PD-1抗体ペムブロリズマブ (BRAF遺伝子変異陽性例ではBRAF阻害薬ダブラフェニブ+MEK阻害薬トラメチニブ) である。
第Ⅱ相SWOG S1801試験では、 術前および術後のペムブロリズマブ投与が術後ペムブロリズマブ投与と比較して優れたEFSを示し²⁾、 今回の第III相NADINA試験実施の根拠となった。 今回は、 標準治療と比較した術前ニボルマブ+イピリムマブの有効性と安全性が検証された。
切除可能な1つ以上のリンパ節転移 (3個以下のin-transit転移*も含む) を有し、 抗PD-1抗体、 抗CTLA-4抗体、 BRAF阻害薬+MEK阻害薬による治療歴のないStageIIIの悪性黒色腫
423例が以下の2群に1 : 1の割合で無作為に割り付けられた。
主要評価項目
EFS
主な副次的評価項目
OS
その他の副次的評価項目
両群で概ねバランスが取れていた。
9.9ヵ月
EFS
【全集団】
イベント数
12ヵ月EFS率
HR 0.32 (99.9%CI 0.15-0.66)、 p<0.0001
サブグループ解析
事前に規定されたほぼ全てのサブグループにおいて、 術前療法群の術後療法群に対する優位性が一貫して認められた。
【BRAF V600E/K変異】
イベント数
12ヵ月EFS率
HR 0.29 (99.9%CI 0.11-0.79)、 p<0.0001
【BRAF野生型】
イベント数
12ヵ月EFS率
HR 0.35 (99.9%CI 0.12-1.03)、 p=0.0014
病理学的奏効 (術前療法群)
12ヵ月RFS率 (術前療法群)
全AE
手術関連AE
治療関連AE
Blank氏は 「本試験は、 悪性黒色腫に対する術前免疫療法と術後免疫療法を比較した初の第III相試験であり、 癌領域において免疫療法単独の術前療法を評価する初の第III相試験でもある。 リンパ節転移を有する切除可能なStage IIIの悪性黒色腫への術前ニボルマブ+イピリムマブは、 術後ニボルマブ単剤療法と比較し、 EFSを有意に改善させた。 SWOG 1801試験の結果と併せ、 同疾患に対する術前免疫療法は、 StageⅢの悪性黒色腫に対する新たな標準治療と定義できるだろう」 と報告した。
¹⁾ N Engl J Med. 2024年6月2日オンライン版
²⁾ N Engl J Med. 2023;388(9):813-823.
本発表に関して、 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科長 山﨑 直也先生にご解説いただきました。
まず、 ASCOのプレナリーセッションで悪性黒色腫の演題が採択されたのは久々で、 現地で参加できたことに私もとても興奮いたしました。
今回NADINA試験では、 Ⅲ期悪性黒色腫における術前補助療法の術後補助療法に対する優越性が証明されましたが、 主要評価項目のEFSはHRが0.32とその差はかなり大きいものであり、 生存曲線の開き方のインパクトは大きく、 既報の術後補助療法の有無を検討した各試験におけるRFSの両群間の差を凌駕していました。
また術後補助療法を施行する場合、 実際には手術だけで治癒している症例も一定数含まれていることになりますが、 術前補助療法の場合にはそのようなことがなく、 病理組織学的検査で効果を術前に知ることができるという利点があります。 NADINA試験では、 病理学的完全奏効 (pCR) 例が47.2%を占めており、 患者の良好な予後が予測できます。
術前補助療法では薬物療法を治療に組み込む意義はさらに大きくなると考えます。
さらに、 日本人の悪性黒色腫はBRAF遺伝子変異例が少ないですが、 同試験ではBRAF遺伝子変異の有無にかかわらず、 術前補助療法の有効性が示されました。 BRAF遺伝子変異の頻度は、 人種差の1つの因子ではありますが、 日本人の悪性黒色腫という希少な集団にも実装できる結果であるという点も魅力的と考えられます。
今回の試験結果を受けて、 近い将来、 国際的な標準治療は術後補助療法から術前補助療法に変わっていくことは間違いないと思います。
今後、 日本の悪性黒色腫の診療において術前補助療法をどのように導入できるかを考えたとき、 保険適用や診療科連携などの解決すべき幾つかの課題が残されているといえるでしょう。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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