【IBDマニュアル】経口α₄インテグリン阻害薬
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IBDマニュアル

8ヶ月前

【IBDマニュアル】経口α₄インテグリン阻害薬

【IBDマニュアル】経口α₄インテグリン阻害薬
本コンテンツでは原因不明で治療が困難な炎症性腸疾患 (IBD) について、 疫学・病態・治療などの観点から解説を行います。 最新のエビデンスを基にしておりますので、 ぜひ臨床の参考としていただければ幸いです。

執筆 : 松岡克善先生

東邦大学医療センター佐倉病院消化器内科

α₄インテグリンの役割

全身を循環しているナイーブT細胞は、 孤立性リンパ濾胞、 パイエル板、 腸間膜リンパ節といった腸関連リンパ組織 (gut-associated lymphoid tissue ; GALT) にも循環してくる。 ナイーブT細胞は、 GALTで抗原提示を受けなかった場合には全身循環に戻っていく一方で、 抗原提示を受けた場合にはエフェクターT細胞もしくはメモリーT細胞に分化し、 腸粘膜固有層に移動して免疫寛容もしくは炎症を誘導する。

GALTで抗原提示を受けたナイーブT細胞はα₄β₇インテグリンを細胞表面上に発現し、 血流を介して小腸粘膜固有層内の血管へ移動する。 炎症を起こしている腸粘膜固有層の血管内皮細胞はmucosal addressin cell adhesion molecule (MAdCAM) -1を発現している。α₄β₇インテグリンとMAdCAM-1が強固に結合することにより、 T細胞は血管内皮細胞の間隙を通り腸粘膜固有層に移動できるようになる。 この過程では、 T細胞上のα₄β₁インテグリンと血管内皮細胞上のvascular cell adhesion molecule-1との結合も重要である。

α₄β₇インテグリンは腸粘膜固有層に移動するT細胞にのみ発現する一方、 α₄β₁インテグリンには臓器特異性がなく、 末梢臓器へ向かうT細胞に普遍的に発現している。

カロテグラストメチルの試験成績

カロテグラストメチル (カログラ®) は、 日本で開発された世界初の経口α₄インテグリン阻害薬である。

第Ⅲ相試験

▼デザイン

潰瘍性大腸炎に対するカロテグラストメチルの有効性を検討した第Ⅲ相試験では、 直近の寛解導入療法で5-アミノサリチル酸 (ASA) 製剤に不応もしくは不耐であった中等症の潰瘍性大腸炎患者203名が、 カロテグラストメチル 960mg1日3回投与 (102名)もしくはプラセボ投与 (101名)に割り付けられた¹⁾。

▼結果

8週目の臨床的反応率は、 実薬群で45%、 プラセボ群で26%であった。 8週目に内視鏡的寛解 (Mayo内視鏡サブスコア 0点) を達成できなかった患者は、 血便消失もしくは内視鏡的寛解を達成するまで、 最大16週の薬剤投与延長が可能であった。 この延長期間を含めて24週目までに臨床的反応を示した患者の割合は実薬群で49%、 プラセボ群で23%であった。

8週目に臨床的反応を示した患者のうち、 24週の投与終了までに内視鏡的寛解もしくは血便消失を達成した患者は、 実薬の最終投与から8週以上の間隔を空けて、 実薬の再投与が可能であり、 26例の患者が2回目の実薬の投与を受けた。 部分的Mayoスコアで評価した臨床的反応を示した患者の割合は、 再投与8週目で73%であった。

適応

中等症の潰瘍性大腸炎

5-ASA製剤による治療で効果不十分な場合に限る

用法・用量

カログラ®錠120mg 1回8錠 1日3回食後

投与のポイント

  • 8週間投与しても臨床症状や内視鏡所見などによる改善効果が得られない場合、 治療継続の可否について検討する。
  • 投与期間は6ヵ月までとし、 6ヵ月以内に寛解に至った場合は、 その時点で投与を終了する。
  • 本剤による治療を再度行う場合には、 投与終了から8週以上あける。
カロテグラストメチルの投与方法
【IBDマニュアル】経口α₄インテグリン阻害薬
筆者提供資料を基に編集部作成

副作用

治験では、 ほとんどの有害事象は軽度から中等度であり、 死亡例は報告されなかった。

進行性多巣性白質脳症の潜在的リスク

カロテグラストメチルは、 中枢神経に遊走するα₄β₁インテグリン⁺T細胞も抑制するため、 John Cunningham (JC) ウイルスの再活性化による進行性多巣性白質脳症 (progressive multifocal leukoencephalopathy ; PML) の潜在的リスクがある。

カロテグラストメチルの臨床開発試験においてPMLを発症した患者はいないが、 カロテグラストメチルによるPMLのリスクを最小限にするために、 以下の3点を厳守することが重要である。

  1. 投与8週以降に寛解に至った場合は速やかに投与を終了し、 投与期間は24週を超えない
  2. 再投与を行う場合には8週間以上の休薬期間を設ける
  3. 免疫抑制作用を有する薬剤との併用は避ける

出典

  1. AJM300 (carotegrast methyl), an oral antagonist of α₄-integrin, as induction therapy for patients with moderately active ulcerative colitis: a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 study. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2022 Jul;7(7):648-657. PMID: 35366419

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Mayo スコア

潰瘍性大腸炎の重症度分類

カログラ錠120mg

免疫抑制薬 > α₄インテグリン阻害薬

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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