仲野 兼司(がん研有明病院 総合腫瘍科)
4ヶ月前
2020年代に入り、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI)、 抗体薬物複合体 (ADC) 等の進化により、泌尿器癌領域の薬物療法は大きな変革を遂げています。2025年2月13~15日には、米国臨床腫瘍学会泌尿器癌シンポジウム (ASCO GU 2025) が開催されます。本シリーズでは、がん薬物療法の各領域において注目度の高い論文およびトピックについて、がん研有明病院 総合腫瘍科の仲野兼司先生にご解説いただきます。初回は、尿路上皮癌の薬物療法に関するトピックをまとめて紹介します。
進行・再発尿路上皮癌の1次治療として、従来の標準治療のひとつであったGC (ゲムシタビン + シスプラチン) 療法を対照とした2つの第Ⅲ相試験結果により、新たな選択肢が登場しました。
🔹 CheckMate 901試験 (GC+ニボルマブ)
🔹 EV-302 試験 (EV*+ペムブロリズマブ)
両治療ともに全生存期間 (OS) の延長効果が認められました。特にEV + ペムブロリズマブ療法は無増悪生存期間 (PFS) のHR 0.45、 OSのHR 0.47という大きな予後改善を示しました。
この結果を受け、EV + ペムブロリズマブは2024年9月に、GC + ニボルマブ療法は2024年12月に日本で承認されています。
1次治療でEV + ペムブロリズマブ療法やGC + ニボルマブ療法が導入されたことで、従来2次治療として用いられていたEVやペムブロリズマブが前倒しされる形となりました。現在、 2次治療の新たな選択肢として、FGFR阻害薬が注目されています。
🔹 THOR 試験 (エルダフィチニブ vs.化学療法)
尿路上皮癌では約20%にFGFR3異常 (遺伝子変異または融合遺伝子陽性) が含まれます。これに対する標的治療として、FGFR阻害薬エルダフィチニブが第Ⅲ相試験THORで、殺細胞性抗腫瘍薬を対照群に置いたコホートにおいて、OSを有意に延長しました。この結果を受け、2024年12月にエルダフィチニブが日本で承認されました。
局所進行例に対する術後化学療法として、ニボルマブが第Ⅲ相試験CheckMate 274で予後延長効果を示し、2022年3月に日本で承認されています。今後、周術期、とりわけ術前化学療法にどのような形でICIが導入されるのかが注目です。
🔹 VESPER試験 (ddMVAC vs. GC)
GC療法と比較した、ddMVAC*療法の長期フォローアップ・データが論文化され、ddMVAC療法の術前治療で5年生存率の改善が認められました。
🔹 NIAGARA試験 (デュルバルマブ + GC)
2025年1月現在、NCCNガイドラインでは、尿路上皮癌への術前化学療法としてddMVAC療法を最も推奨しています。これに対し、術前後の殺細胞性抗癌剤にICIを併用する試みも進められています。第Ⅲ相試験NIAGARAでは、術前後のGC療法にデュルバルマブを併用することで、OS延長効果が認められました。
📄NCCN Ver 6.2024 「Bladder Cancer」
🔹 AMBASSADOR試験 (ペムブロリズマブ術後化学療法)
既に承認されているニボルマブに続き、ペムブロリズマブでもDFS (無病生存期間) の延長が報告され、今後の承認が期待されます。
HER2過剰発現は尿路上皮癌の約50%に認められるとも言われ、HER2標的ADCの開発が進んでいます。近年、トラスツズマブ デルクステカンやDisitamab VedotinなどのADCで高い奏効率が報告されていることから、今後の開発が期待されます。
🔹 DESTINY-PanTumor02 試験 (トラスツズマブ デルクステカン)
🔹 Disitamab Vedotin 試験
📄PubMed論文情報 「DESTINY-PanTumor02」
📄PubMed論文情報 「Disitamab Vedotin試験」
📝レジメン
専門 : 腫瘍内科 (骨軟部腫瘍、 頭頸部腫瘍、 原発不明癌、 希少がん、 その他がん薬物療法全般)
一言:がん薬物療法に関する論文を中心に、勉強した内容を記事にしています。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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